リクは歩きながらふと思い出したようにアイビーに尋ねた。
「そういえば…お前、見た感じロシア人っぽいけど、本当にそうなのか?」
アイビーは少し照れながらも誇らしげに答えた。
「そうよ、モスクワから来たの。ここの迷宮に迷い込むまでは…」
リクが興味深そうに頷くと、アイビーはにやりと笑って付け加えた。
「Здравствуй — ‘こんにちは’。覚えておくといいよ。」
リクはその響きに少し驚きながらも笑った。
「へえ、なんかかっこいいな。頼りにしてるぜ。」
リクはふとアイビーの手に握られた鉄パイプを見つめて尋ねた。
「ところで、その物騒な鉄パイプって何?武器にしてるのか?」
アイビーはちょっと誇らしげに鉄パイプを軽く振って見せた。
「うん。これがあれば、ここで生き残れるって思ってるから。…それに、鍛えられるしね!」
リクは少し感心した様子で頷いた。
「頼もしいな。俺も何か使えるもの探さなきゃな。」
リクとアイビーは迷宮の奥へ進むほど、空気はますます冷たく重くなっていった。
壁に映る影はゆらゆらと形を変え、不気味な音があたりに満ちている。
突然、前方から「ギャー!」という悲鳴とともに黒い霧のような影が襲いかかってきた。
アイビーは咄嗟に鉄パイプを握りしめて構える。
「来た!こいつが…お化けか!」
リクは周囲の歪みを観察し、敵の動きを探る。
影は形を変えながら二人に迫る。
アイビーは力強く鉄パイプを振り下ろし、影を貫く。
しかし影は分裂し、再び襲いかかってくる。
「リク、こっち来て!」
リクは空間のゆがみを利用し、影の足元を崩す。
「今だ!」
アイビーの一撃が影の核を貫き、黒い霧は音を立てて消えていった。
二人は息を整えながら、その場に腰を下ろした。
アイビーは息を整えながら自分の袖を見下ろした。
そこには、戦闘の衝撃で裂けた薄い布が生々しくほつれていた。
肩が少し露わになり、細くも鍛えられた腕がちらりと見える。
リクの視線が自然とそこに向かうのを、アイビーは気づいていたが、わざとらしくはない。
「…これくらい、まだまだ平気よ」
彼女は軽く微笑み、力強く鉄パイプを握り直した。
リクは顔が真っ赤になり、目をそらしながら小さく呟いた。
「そ、それ…すごいな…」
内心ドギマギしながらも、そんなアイビーの強さに安心を覚えた。
二人がひと息ついたとき、リクはふとアイビーの腕に目をやった。
そこには血はにじんでいないものの、小さなかすり傷がいくつかあった。
「ちょっと見せて」
リクは慎重にアイビーの腕を握り、傷口を確認する。
「これは大丈夫だけど、こういう傷は空気中の細菌で化膿しやすい。消毒が必要だ」
リクは持っていた小さなハンカチを湿らせ、やさしく傷を拭いた。
「血が出てないから包帯はいらないけど、乾燥させすぎると逆に治りにくいんだ」
アイビーは少し驚いた表情でリクを見つめた。
「お前…結構、医療知識あるんだな」
リクは少し照れくさそうに笑った。
「うん、昔から本を読んでて。お前を守りたいからな」
アイビーの瞳がわずかに潤んだ気がした。
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