魔力を動力源としたゴーレムは、元々泥人形だった割に進化を果たしているように思えた。
拳で空《くう》を切った時、ブゥン。という機械音を鳴らす。それ自体は何も問題は無いが、そこから軌道修正させていることに驚く。
拳による攻撃のほとんどは胴体や足部分に集中したが、魔導兵は全てまともに受けた。こちらからの攻撃を避ける程のスピードは備わっていないらしい。
だが、
「命中率修正……抹殺率低下、低下……魔法攻撃に移行中」
「修正能力……いや、学習能力があるようだ」
貴族を全ていなくさせてからの進化、あるいは魔物との戦闘で学習したかのどちらかだろうな。このまま魔法戦闘に移行させても良かったが、遊ぶつもりもないし拳だけでとどめを刺すことにする。
敏捷性《アジリティ》は高くない魔導兵タイプだったので、おれはすかさず懐に入り込みコアを完全に破壊。
「ふぅっ……」
「イスティさま、お疲れさま~!」
「大した戦闘でもなかったけどな」
あの程度の強さなら疲れすら生じない。
「? もっと戦うつもりだったの?」
「まぁな。どれくらいのパターンと対応力があるのかを確かめるつもりだったが……」
「思っていたよりは弱かったんだ?」
「そういうことだ」
真っ先に近付いてきた魔導兵の実力だけで判断しても意味がないだろう。恐らく偵察兵だと思われるし、個体数も未知。ここで楽しむのは避けるべきだ。
「アックさま、エルフの彼女が気づきましたわ!」
破壊したタイミングでサンフィアが目を覚ます。戦闘に時間をかけずに終わらせて正解だったようだ。
「んぅ……イスティ? 戦いはどうなった? 終えたのか?」
「いや、まだだ」
「我に出来ることがあれば我に任せろ! 夫の為に動くぞ」
夫のことはともかく、果たしてこのままサンフィアを連れ歩いていいものかどうか。
「イスティさま? 何か気になるの~?」
「……いや、杞憂に過ぎないことだ。それより、フィーサは魔導兵の気配を感じられたか?」
「ううん、ゴーレムだからかもしれないけど気配は分からなかったよ」
「む……、そうか」
「もしかしたら戦闘に入るまで気配を感じられないのかなぁ?」
おれのスキャンスキルと、フィーサの察知も反応しなかった魔導兵。それがあっさり姿を現わし、すぐに戦闘に入った。こちらから探す手間は省けられたが、何かに反応して近付いてきた可能性がある。それが何なのかは不明で今は確かめる手段が無い。
「……アックさま、お耳を――」
「ミルシェ? どうした?」
「お近づけ下さいませ。フフッ、変なことはしませんわよ」
ミルシェが何かに気付いたのか、小声で話し始めた。
(サンフィアが怪しいってことか?)
(えぇ、正確には彼女が着ているローブにありますわ。何と言っても、バフを得られるレアな防具ですわ。魔導兵が現れたのも、アレに反応したからでは?)
(やはりそう思うか。どこで手に入れたのかまでは聞く必要は無いが、彼女を連れ歩くことで魔導兵をおびき寄せることが出来るってことか)
おれから離れ、ミルシェは頷いてみせる。
「あ~! ミルシェ、ずる~い!! わたしもイスティさまにフ~フ~したいのに!」
「小娘以下にはまだ早いですわね」
「む~!!」
また誤解を招くことを……。
「何? キサマ! 我というものがありながら、その女と弄《まさぐ》っていたというのか!?」
「ち、違うぞ! それよりフィア。森林ゲートから出たことがあると言っていたが、居住区のことをどこまで知っていて案内が可能だ?」
「――む? 何だ、道案内が必要だったのか? キサマが先へと進むから我より知っているものとばかり思っていたぞ!」
気配を感じられない魔導兵に加え、廃墟エリアを知っているとすれば彼女に任せるしか無さそうだ。
「おぼろげの記憶だからな。こんな廃墟になった状態の道などおれには分からないな」
「ならば我が先導してもいいのだな? 魔物が出てきたら何も出来ぬのだぞ?」
「心配するな! 魔物がおれたちの所に近づくことはまず無いはずだ。頼めるか?」
「良かろう! 我の傍を片時も離れずについて来るがいいぞ!」
ミルシェは軽く頷いている。フィーサは首を傾げているが、サンフィアについて歩けば恐らく中枢にたどり着く。魔導兵を殲滅させることが出来れば魔物がいようと、国の再建に一歩近づくはず。