進とマリーは、冒険者ギルドでギルドカードを発行申請をする。
ギルドカードができるまで、テーブルでお茶を楽しむことにした。
進がリンの森林で採取した、ドクダミから作った薬草茶をマリーとともに飲んでいた。
お茶は、チャの葉を加工して作ることが一般的だが、この世界ではまだチャの葉を見ていない。
進はドクダミをチャの葉の代わりとした薬草茶をここに来るまでに作り、収納のスキルに格納していた。
「ススムさん、この飲み物とても苦いですよ。」
マリーがとても苦そうな顔をして言ってきた。
「これは”お茶”と言ってだな、オレが以前住んでいたところではよく飲まれていたんだ。」
「まぁ普通はチャの葉から作るんだが、無かったんでな。ドクダミで代用してみた。」
「とても苦いが、体の調子を整える効用があるんだ。」
「ススムさんは、全然苦そうじゃないですね。」
「まぁお茶は普段から飲んでいたからな。」
進が得意げに語る。
進の家は特別で、由緒正しい家系というやつだ。
古い和風のしきたりなんかもあったりする。
そんな何気ないやり取りをしていると、進たちの後ろから近づいてくる男たちがいた。
「よぉ姉ちゃん!見たところ新人冒険者みたいだが、オレたちとパーティを組まねぇか!」
男達はがっしりとした体形で、如何にもな荒くれという感じの男たちだった。
男達はニヤニヤしながらマリーを自分のパーティにと勧誘してきた。
こういう男ってどこの世界にもいるんだな―――
進はそういう風に思っていると、マリーは少し怯えながら
「すみませんが私はここにいる進さんとパーティを組むので、他を当たってください。」
荒くれどもに対して精一杯の断りを入れた。
「なんだと!オレたちが誘っているのに断るだと、俺様を誰だと思ってんだ!」
男は、激高した。
なかなかに話の通じない連中だな。
「オレたちは、さっきここに来たばかりなんだ、お前たちがどこの何者なのか知るわけないだろ。」
流石に看過できない状況になりそうなので、オレも口を挟むことにした。
進は、鑑定のスキルで男たちの大体のステータスと名前は知っているのだが、知らないふりをすることにした。
三人ともレベル30近いステータスなんだな。
敵ではないだろう―――
「俺様はCランク”鉄拳のグレッグ様”だぞ!」
激高してきた男は自ら名乗ってきた。
まぁ装備がグローブな時点で予想はしていたが、徒手空拳を主体とした格闘術を使うみたいだな。
などと悠長に分析をしていると、鉄拳のグレッグはいきなり進に殴りかかってきた。
おいおい、こんな所でいきなり殴りかかってくるのか―――
進は、化勁(かけい)を用いて、グレッグの攻撃を受け流す。
そのままグレッグを空中で一回転させ、倒した。
「ぐおおお!!」
周りの冒険者たちも目を見開いていた。
まるで魔法―――
鍛え、磨かれた技術は傍から見たら魔法にしか見えない。
テーブルは”ドシャーン!!“と倒れ、グレッグは地面に叩き付けられた衝撃で口から”ぐぇ”っと嘔吐いた。
「なんだ今のは…!」
「大丈夫かグレッグ!」
グレッグと一緒に来た仲間の男たちがグレッグの心配をする。
「ススムさん、今の一体?」
「ああ、今のは化勁(かけい)という技法で、相手が殴ってきたりしたときにそれを受け流して―――」
「逆の相手を回転させ、転ばせる技だよ。」
「太極拳は習得すれば誰でもできる技だね。」
進はマリーに説明をする。
「いや、それを即座にやるススムさんはやっぱりすごいですよ。」
グレッグは気を失っているみたいで、仲間に抱えられながら、ギルドを後にした。
「あの人大丈夫なんですか?」
「あんなガタイしているんだ。」
「死んではいないはず。」
安易な回答をマリーにした。
「何ですか、今の音は!?」
グレッグが倒れた音に驚いて受付のお姉さんが慌ててやってきたので、事情を話す。
「あ~またグレッグさんですか~。」
「あの人は腕はいいのに素行が悪くて、ギルドも手を焼いていたんですよ…。」
そんな風に言われてしまったら、むしろ喜ばれているようにも聞こえてしまう。
「ああ、そういえばお二方のギルドカードの発行が終了しましたよ。」
そう言って、彼女からギルドカードを手渡された。
ギルドカードには、所属ギルド名と名前、現在の冒険者のランク、ギルドカードの発行日と次回の更新日が記載されていた。
お姉さんの説明によると、冒険者のギルドカードは身分証明書としても使えるので、この街に入ってくるときに見せれば、通行税が免除になるらしい。
これでオレたちも冒険者になるのか。
とりあえず未央と元の世界に戻るための情報を得る足掛かりとして冒険者のランクを上げよう。
進はそう考えたのであった。