テラーノベル
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ウェスペルへと到着した私たちは、まず宿を取った。先に部屋へ行くよう言われた私は、そこで二人の到着を待つ。待つんだけど……本当にいつまで経っても、二人が来ない。何か合ったのかと心配になって、私が宿屋のご主人に話を聞きに行ってみると、二人は町に出たと言う。
「……まさか」
そうつぶやいて、私は町の入り口へ走った。そこにいる兵士の方に話を聞くと、思ったとおり、二人はゲンマ鉱山へ向けて、町を出発したらしかった。つまり私は結局、置いていかれたのだ。
しょうがない、もう大人しく宿屋で待っていよう――そう思った私へ、風が声を届けてくる。
『……リティア。二人を追いかけたほうがいい』
振り返ると街道の上に、坑夫の霊が立っている。
私は彼が指さしたほうへと、走り出した。
◇ ◇ ◇
ウェスペルを発ち、数時間後。ゲンマ鉱山の中を進むルクスとアドレーは、入り組んだ坑道内で道に迷ってしまっていた。事前に坑道内の地図を用意していたものの、崩落事故の影響であったはずの道が消えたり、新しく現れたりもしていて、あまり役に立たなくなっていた。
「……これじゃ、盗賊団を見つける前に、こっちが迷子になってしまうかもしれませんね」
休憩しようと岩に腰かけたアドレーがそう言う。
「保険として目印を残してきて、正解だったな。だが、それも崩れてしまったら終わりだ。厳しそうなら、一度戻って対策を考えよう」
「帰りはアニーをどうなだめるか、考えないといけませんね」
「……そうだな」
ルクスはふっと笑ってみせたが、すぐに真剣な表情に戻った。アニーを置いてきた判断は間違っていないと、自分にもう何度目か分からないくらい、言い聞かせる。そんなときだった。
「聞こえたか?」
思わず、ルクスはアドレーに確かめる。アドレーはすぐに頷く。人の声のようなものが、かすかだが、確かに聞こえた。
二人は耳を澄ます。そして音が後方、これまで通ってきた方向から聞こえていることに、気付いた。二人は武器に手をかけ、動かずに待つ。
その後も、何度か声が聞こえてきた。それは明らかに、二人へ近づいてきている。そしてあるとき、ルクスはその声が聞き覚えのあるものであることに気付く。ルクスはアドレーを見た。アドレーも、視線で同意見だとルクスに告げた。念のため武器に手をかけたまま、二人は声の方向へ近づき、ランタンをかざす。すると、岩陰からひょっこり――アニーが姿を現した。
◇ ◇ ◇
何人もの坑夫の霊に導かれ、私は鉱山へ入った二人へ追いつくことができた。私が二人を見つけて安心していると、ルクスさんが駆け寄ってくる。
「アニー、どうしてここへ! なぜ宿屋で待っていなかった?」
怒ったようにも聞こえるその言い方は、全然気にならなかった。それよりも、私は大事なことを二人に告げる。
「こ、こっちの道は、たぶん行き止まりです……。一度戻りましょう」
「そう、か……。分かった。アドレー、一度戻ろう」
ルクスさんはそう言って、ばつが悪そうな顔をしている。たぶん私を置いてきたこと、今少し怒鳴ったことを気にしている……ような気がする。本来であれば、ここで怒っているのは私であるべきなのだろう。だって約束を破られたのは、私のほうなんだから。でも、私は別に怒ってなんていなかった。むしろ、二人が心配でここまで来た。だから私は、そのことを素直に二人に告げる。
「大丈夫、わたし別に怒ってないです。むしろ二人に追いつけて、良かった。このまま進んでたら、戻ってこれない可能性も、あったと思うから……」
「……すまなかった、アニー。しかし、よくこの先が行き止まりと分かったな」
「あ~、えっと……なんとなく、そんな気がしたというか。……ここまで来て、こっちは正しい道じゃない、ように見えたので……!」
霊に教えてもらった、とは言えないので、なんとか誤魔化そうとする。二人は不思議そうな顔をしていたけど、納得してくれたみたいだった。
高低差も多い坑道内を、二人に手を取ってもらいながら、私は来た道を戻っていく。そして、また別の道を三人で進む。私は道中に現れる坑夫の霊に従いながら、二人に道案内をした。しばらく進むと、行く先に何かが落ちていることに気付く。
「これは……」
「おそらく先に入ったという、冒険者たちの持ち物ですね。……装備品は、ほとんど全部ありそうです」
二人は落ちているものを確かめつつ、そんな話をする。装備品は、その多くが赤く染められていた。どう見ても、血の跡だ。ただそんな中、私はそれに少し違和感を覚えていた。
「……これ、人に襲われてこうなったようには、とても見えないんですが……」
「そうだな。人に襲われたにしては、それらしい痕跡が全くない。……であれば、おそらくは魔物に襲われた、ということになるが」
「はたしてそんな場所に盗賊がいるのか、という話にはなりますね」
悩んでいても仕方がないと結論付けて、私たちはより慎重に先へと進んでいく。
しばらく何もない道を進んでいくと、その先の岩陰から女の子がひょっこりと顔を出してきた。短い茶髪に赤い鈴のついたチョーカーが印象的なその子は、とても可愛らしいけれど、でもどう見ても場違いだ。私が二人の後ろで身構えていると、アドレーさんがけろっとした様子でこう言う。
「……あ、そうか。アニーとは初めてだよな。こいつはエリィ。俺と同じ、ルクスさまの従者だ」
「初めまして、アニー! 二人から、色々と話は聞いてるよ。これからよろしくね」
握手を求められて、その柔らかい手を握り返す。快活そうな笑顔が印象的な女の子だった。
「ルクスさま、いくつかご報告が。この先、少し厄介なものがあります」
「何だ?」
「ご覧になるのがお早いかと。さっ、こちらへ」
うってかわって丁寧な仕草で、エリィさんはルクスさんを坑道の先へと導いた。その後はエリィさんの指示で、極力音を立てないように進んでいく。そして私たちの進む先、その下のほうに、巨大で銀の毛並みを持つ魔物――シルバー・ファングがいた。私も本で読んだくらいで、本物を見るのは初めてだ。
「なるほど、シルバー・ファングか。……しかし、妙だな」
「はい。本来であれば、あれは森に群れで生息する魔物です。しかも、ゲンマ鉱山の周囲に生息地はありません」
エリィさんが小声で説明をしてくれる。
「生息地から単独でここまで来た可能性も、なくはないが……人為的、と考えるほうが自然か」
アドレーさんが、そう補足した。
私もどうしてだろうと思考を巡らせていると、少し離れたところにすっとまた坑夫の霊が現れた。彼はシルバー・ファングの向こうを指さして、
『あの先だ。あの先へ行ってくれ……進んでくれ』
それだけ告げて、消えていく。
何があるにせよ、行くべき場所はこの先――シルバー・ファングを超えた先にある。であれば、今ここで私たちはあれと戦わなければならない。あの巨体が、素直に私たちを通してくれるようには、どうしても見えなかった。
「……なんにせよ。先へ進むには、あれを倒さないといけない、ですよね」
「そう、だな。あれのために軍が動いている、というのはさすがに無理があるし。あれを倒して、もっと奥へ行く必要があるだろう。……二人とも、準備はいいな?」
アドレーさんとエリィさんは、声を揃えて返事をする。
「装備は万全だが、気を抜くな。消耗は最小限に、ここを突破するぞ」
◇ ◇ ◇
三人の動きは完璧に近かった。シルバー・ファングの隙を突き、三方向から同時に攻撃をしかける。でも、シルバー・ファングもさすがは魔物。一番槍のアドレーさんの斬撃は命中したものの、ルクスさんとエリィさんの攻撃は、身をひるがえしてかわしてしまう。
その後も三人は、基本的に同時に攻撃をしかけるけれど、三人の攻撃が全て命中することはなかった。しかも、シルバー・ファングは回避のタイミングでこちらに攻撃をしかけてきて、三人は少しずつだけど確実に、消耗していく。
「流石に手ごわいですね……! なら、これはどうだ! 風よ、集え……『ウインド・ネイル』!!」
二人の攻撃に合わせて、アドレーさんが魔法を放つ。いくつもの三日月型の風が、二人と一緒にシルバー・ファングを取り囲み、そして襲いかかる。シルバー・ファングも、その全てを回避することはできないように見えた。
倒せる――そう思った次の瞬間、シルバー・ファングの周囲に風でできたトゲが出現し、風の斬撃へ向けて放たれた。ルクスさんとエリィさんも急いで回避行動を取り、なんとか直撃を避ける。三人は一度シルバー・ファングから距離を取ると、三方向に分かれてシルバー・ファングを取り囲む。
「魔法も使えるとは、上位の個体だな……。こいつを避けて先には進めるが、多分追ってくるだろう。……ここで倒すしかない」
ルクスさんの言葉に、二人は頷く。
それから三人は同時攻撃から、三人による連続攻撃に方針を切り替えた。それでこちらには回避の隙ができて、さっきよりは消耗が緩やかになっていくけど、こちらがシルバー・ファングへ与えられるダメージも、それによって減っていった。
私には、それを見守ることしかできない――そんな無力感を私が感じていると、側へぼうっと霊が現れた。坑夫の格好をしたその人は、ある岩場を指さし、
『あそこを攻撃するんだ。あの真下、もう少し衝撃が加われば、崩落するだろう』
それを聞いて、私も同じ場所を指さす。
「あそこ!! 地面がもろくなっています……! 誘い込んで、攻撃を加えれば!」
私の言葉を聞いて、三人とも表情が真剣さを増した。すぐにアドレーさんとエリィさんがシルバー・ファングに攻撃を繰り出し、気を引く。その間にルクスさんは岩場に移動し、剣を構えた。それを見て、そちらへ駆けていくアドレーさん。
「ルクスさま!! お願いします……!」
誘い込んだ先で、アドレーさんは防御の体勢を取る。そこへ、シルバー・ファングが攻撃を加えた。アドレーさんがそれを受けきったのと同時に、ルクスさんが地面に向かって攻撃を放つ。
「はあああああっ!!」
地面が大きく揺れた。次の瞬間には足下の崩落が始まり、シルバー・ファングはそれに飲み込まれていく。攻撃を受け止め、動きが一瞬遅れたアドレーさんを、エリィさんが両手で掴んで跳躍した。
まさに間一髪。大きく空いた穴はしばらくの間、周囲を飲み込み、そしてやがてそこには、少しへこんだ地面が、何事もなかったかのように、出来上がった。
コメント
5件
気になってたエリィも合流しましたね! バトル展開も面白かったです!!
戦闘の中でこういう方法でサポートできるの、やっぱり面白いすごい能力だね✨