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♡午の刻の怪
2時間目が終わり、3時間目の体育の授業のために更衣室に向かう。
……さっきからずっと誰かに見られてる?
ゾワッとする感覚に無視をして体育服に着替えた。
『……みぃつけた。ふふふっ……。』
誰かの視線を感じつつ、体育の授業が始まった。
今日は体育館で器械運動の中のマット運動と跳び箱をすることになっている。
昔から動くことは好きで、跳び箱も保育園の時に10段飛んだ覚えがある。
久々のマット運動と跳び箱。
ずっと倉庫にしまってあったからかほこりっぽい。
「あともう1つマットを誰か~~!」
急に先生の大きな声が聞こえてきた。
マット……。
「霊堂さんがとってきてくれるらしいでーす!」
「霊堂さんが一人で持ってくるって言ってましたー!」
え、ええっ……!
わ、わたし、そんなこと……。
「そっか、じゃあ霊堂さんよろしくね。」
一部の女子からのすごみと先生の笑顔の圧で引くしかない私はそのまま体育倉庫まで歩いて行った。
……はぁ。
息を吸うのもためらうくらい生ぬるく、埃っぽい空気が充満している。
見つけたマットを掴んで倉庫のドアまで引っ張る。
お、おもいっ!
普通、2,3人で運ぶマットを1人で運ぶのはきつすぎる。
倉庫も狭い分、倉庫にあるものに当たって動かしにくい。
うぅ……。
腕が痛くなってきてマットを掴む手を放そうとしたとき、
「ねね、お嬢さん。日中の午の刻の怪に1人でいるのは危ないよ。」
へ……?
「しかもこ~~んな暗いところでさ。1人。」
目の前にスッと影が現れてまるで檻に閉じ込められてるみたい。
なにそれと思ってうっかり声に出してしまった。
「うまの、こくの、かい?」
しまった……!と、思ったときにはもう遅い。
目の前の影がゆらっと動いて。
「へえ、やっぱ僕のこと見えてるんだ?」
すっと伸びてきた手がくいっと私の顎に添えられ、私の顔を強制的に上げた。
「薇鬼、さん……。」
「ふふっ。やっぱ見えるんだ。そうだよね、だって―――目、あったじゃん。」
……。
「ほんと霊弥は醜いなあ……。」
「誰ですか……。」
そんな人いたっけ。
「ふははっ!まさか、霊弥、名前教えてないんだ。1人ごとで言ってると思ったんだけど。」
まさか……。
「君の守護霊様だよ。」
れい、や……。
「今はどうして背後にいないのか不思議で仕方ないよ。ねえ、どうして霊弥
を連れていないのかい?」
え……?
「まあ、知らないか。てか、知らなくていいし。僕だけ見てればいいんだから。」
「誰なんですか、あなたも、守護霊さんも……。」
「僕は浮遊霊の薇鬼。あいつは守護霊の霊弥。」
そんなことは……。
「あーあーそういうことはどうでもよくて。ちなみにさっき君が聞てきた午の刻の怪は、今の正午である昼の12時とその前後の約2時間午前11時〜午後1時頃を指す言葉だよ。あともう一つ教えてあげようか。」
知らなかった……。あともう1つ?
「君の霊視力は優れているな。ものすごく。そんな君は幽霊にとってすごくほしい存在なんだよ。霊視力は代々受け継いでいくことができる。子をなせば、その子も霊視力を持つことができる。そんな子をたくさん作っていけば、いつか、人間が全員幽霊を見ることができる。悪霊だってね。すごくいいことだと思わないかい?」
さらっと片手で髪をなびかせた薇鬼さんが足を組む。
「それは……。」
「ふふっ。そうだよね、君には分かんないさ。幽霊がどれだけ人間の子を好きになっても見てさえもらえないことがどれほど苦しいか。人間の君たちなんてね……。」
どうして、どうして人間なんてっていうの……。
「幽霊さえ見えない人間なんていらないさ。」
見えないといけないことなの……?
そんなことない。
「そんなこと……いわないでください!たとえ見えたとしても、いいことだけじゃない。」
急に大きな声を張り上げた私に顔をしかめる薇鬼さん。
「それは何を経験して言っているんだ。」
「私だってずっと仲良くしてきた幽霊が、蜘蛛火さんがいた。恋愛的な意味はないけどずっと大好きだった。幽霊が見えたとしても、子を作れたとしても、その先がいいことだと証明されるわけじゃない……。見えないことが悪い事?どうして。じゃあ、見れたらいいことなんですか?私は、この1年見えていいと思ったことは1度もないよ。」
「その蜘蛛火とやらに会えていいと思わないのか?」
「蜘蛛火さんと私が出会ったから、出会ってしまったから、蜘蛛火さんが霊媒師に祓われたんだよ。私のせいなの。私が幽霊が見えていて、蜘蛛火さんに話しかけたから……。私が話しかけなければ、蜘蛛火さんはまた別のお友達と出会って今だって笑ってたかもしれないのに……。わたしが、蜘蛛火さんの未来を壊したからっ……。」
感情がぐっと押し寄せ、過去の思い出がフラッシュバックして語りかけてくる。どれだけ命という存在が大切なのかを。
お前が、蜘蛛火を殺したんだ。お前がいたから……。お前のせいで……。
知らない記憶も混ざってきてどうしようもできなくなった時、
「……そうか。……言いたいことは分かった。見えないことが悪いことって決めつけてすまなかったな。」
ポンッと優しく頭をなでられて今までため込んでいた分の涙がボロボロ零れ落ちる。
「見えないことは悪くないんだな。そういう未来だっただけだ。お前も、蜘蛛火とやらも。でも、見えていいことだってある。それは、今この時間だって俺にとっての大切な思い出だからだ。」
優しい声で語り始めた薇鬼さんに泣くのをやめて聞き耳を立てる。
「……そうか。人間は人間で幽霊に思うことがあるんだな。……じゃあ、霊奈だって、俺のことを少しでも見てくれていたのだろうか。」
「霊奈……?」
「ああ、少し、遠い話になるな……。」
そう言ってどこか遠くを見る薇鬼さんの表情はどこかすがすがしい表情をしていた。
コメント
1件
うわっ、今回めっちゃ深かった……!体育倉庫の閉鎖感と生ぬるい空気で始まったかと思ったら、薇鬼さんの急接近で一気に緊張感MAXになって、そこから霊視力の話とか蜘蛛火さんのトラウマとかドバッと出てきて泣けた。「見えないことが悪いことって決めつけてすまなかった」って薇鬼さんが頭撫でてくれたシーン、少年漫画のツンデレライバルみたいで良すぎる。霊奈って誰だろ…次が待ち遠しいわ🔥