ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。爽やかな朝を迎えましたが、直後に来た報告で戦慄しました。
昨日は結局ルイスに負けて翌朝まで……まあその、宜しくやっていたのですが、その間にダンジョンで小規模とは言えスタンピードが発生。シスター達の活躍で事なきを得たと報告されたのです。
組織として重大な危機に不在等言語道断であると深く反省しました。シスター曰く、私にはゆっくりして欲しかったのだとか。
お気持ちは大変嬉しいのですが、それでは示しがつきません。
「シャーリィは難しく考えすぎです。日頃の貴女を見ていたら、誰も文句は言いませんよ」
シスターと礼拝堂で語らいます。
「そうは言いますが、私も組織を率いる立場です。お気持ちだけ頂きます。次からはちゃんと教えてくださいね?シスター」
「誰も馬に蹴られて死にたくはないのですよ。たまには青春を謳歌しなさい。問題はなかったのですから」
「いいえ、極めて重大な問題が発生しました」
そう、今回は見事に撃退できましたが代償として銀の弾丸を全て撃ち尽くしてしまったのです。
つまり、今現在聖水と銀の武器以外に有効な手段がないのが実情なのです。銃の有用性を活かせない。
「銀の弾丸についてですか」
「その通りです、シスター。ドルマンさんが鋳造を急いでくれていますが、量産には時間がかかりますし、何よりも高い」
銀の弾丸は当たり前ですが、銀を使って鋳造されます。そしてこれも当たり前なのですが、銀は決して安いものではありません。貴重な鉱物資源です。
当然高価なのですが、それに拍車をかけたのが去年制定された『資源管理法』です。
これは帝国国内にある全ての鉱山を帝国政府が直接管理して採掘や流通を管理すると言った法律です。
貨幣の鋳造に必要な銅、銀、金の流通を制御し国内からの流出を防ぎ貨幣の安定供給が目的だとしていますが、これによりこれらの資源の流通量が激減したのは言うまでもありません。
なにより各種鉱山は貴族の大切な資金源ですからね。それを取り上げたのですから、貴族社会の猛烈な反発を招き国内情勢は悪化。結果物価の高騰や暴落を頻発させて帝国経済は滅茶苦茶になりつつあります。
我が『暁』は『ターラン商会』から銀を仕入れています。マーサさんの好意で安く手に入りますが、それでも高いし数が少ない。
で、私達が発見したすぐ傍のダンジョンはアンデッド種の巣窟と来た。世界は相変わらず意地悪でクソッタレ。ある意味安心さえ覚えましたよ。ファック。
「であるならば、私達が潰れる前にやるしかないでしょうね」
「何をするんですか?出入口を爆破するとか?」
「ダンジョンの閉鎖など一時凌ぎにしかありません。別の入り口が現れるだけなのですから」
「むぅ、それではどうすれば?」
「ダンジョンの攻略を目指すしかないでしょう」
「ダンジョンの攻略……?」
何ですかそれは?
「ダンジョンの最深部には『ダンジョンの主』が存在してそれを打ち倒し『ダンジョンコア』を破壊することでそのダンジョンには二度と魔物が発生しなくなると言います」
「そんなシステムがあったんですね。では我が『暁』が干上がる前に攻略を済ませてしまいましょう」
解決策はあっさり見つかりましたね。
「待ちなさい、事はそう単純ではありません。今現在冒険者ギルドが数百のダンジョンを管理して定期的に間引きを行っている事実を見なさい」
「えっ?」
それってもしかして。
「居ないのですよ。少なくとも千年前に魔王を討ち果たした勇者パーティー以外でダンジョン攻略に成功した事例はありません。最深部に到達できた例でさえ極めて少ない。これが現実です」
「それは確かなのですか?」
「記録にあるかぎりは」
なるほど。
「あまり驚いていませんね?シャーリィ」
「前例が無いなら前例を作れば良いではありませんか。伝説の勇者様が出来たんです。つまり絶対に不可能と言うことではないと考えますが」
前例が無いならいざ知らずあるならばそれを模範すれば良いだけです。
「私達は伝説の勇者とは違いますよ?」
「ですが同じ人間、同じ生き物です」
「大言壮語でないことを祈りますよ」
「もちろん、無策で挑むつもりはありません。それに、私達には他に選択肢もありませんからね。『大樹』があるここを捨てることはできません」
『大樹』あっての『暁』ですし、ルミの眠る場所を捨てるつもりはありません。
「ではどうしますか?」
「手堅くいくしかないと考えています。少しずつ奥へ進出しながら最深部を目指す」
「千年誰も達成出来なかった事ですよ?」
「それでもやるしかありません。もし成し遂げたら誉めてくれますか?」
「いくらでも誉めてあげますよ」
「俄然やる気が出てきました」
それに、誰も成し遂げられなかったことを成し遂げる。もし出来たならば、規格外なお母様に少しでも近付けるかもしれません。
「貴女の意思は分かりました。どちらにせよ退くことは出来ませんからね。今日も行くのでしょう?」
「もちろんです。むしろスタンピードで数を減らした今が好機と考えていますから」
「分かりました、無理はしないように」
一時間後。
「待たせたな!ほら銀の剣だ!」
ドルマンさんから銀の剣等を受け取った私達は前回同様、私、ベル、ルイ、アスカの四名でダンジョンへと潜入しました。
装備は銀の剣に聖水の入った瓶を邪魔にならないだけ持ち込みダンジョンを突き進みます。
「……臭くない?」
アスカが首をかしげています。
「昨日あれだけやったんだ。むしろ出口に近い奴等は一掃されたと考えて良い」
「ベルさん、昨日はごめん。シャーリィ相手に我慢できなかった」
「気にすんな、ルイ。あれくらいなら俺達だけで何とかやれるんだ。お前はお嬢のケアだけ考えとけば良い」
そうこうしていると、前回たどり着いた大広間に出ました。
相変わらずの広い空間にはたくさんのがらくたが散乱していましたが、アンデッドは見当たりません。
「アスカ、何か匂いますか?」
「……んーん、臭くないよ」
首を横に振って否定するアスカ。獣人の嗅覚は信用できますね。
「どうやら、この辺りに居たアンデッドがダンジョンから出てきたみたいだな」
「その様ですね。ふむ、広さもありますしここをダンジョン攻略の拠点にしませんか?」
「ダンジョンの中に拠点を作るのか?お嬢」
「外に出られるよりはマシかと。それにこの広さがあれば充分な備えと物資の集積が可能です」
「まあ、確かにな。その発想はなかったが、連絡手段はどうする?いきなり襲われて人知れず全滅なんて無しだぞ」
「ここまでの通路もそれなりの広さがありました。ちょうど新しい自動車を一台用意できたのでそれを使いましょう。速いし物資の運搬にも最適です」
「虎の子の自動車を使うのかよ?シャーリィ」
「そうですよ、ルイ。ダンジョンは必ず攻略しなければなりませんから。先ずはこの辺りのがらくたを回収して拠点作りを始めましょうか」
シャーリィによる前代未聞のダンジョン拠点作りが始まった。
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