一日目は、簡単な挨拶と施設をぐるぐると回り、部屋割りを決めて終了した。
リオンの相部屋は、ルーク・キルロンド、キル・ドラゴレオ、ニア・スロートルの四名となっていた。
部屋に入った途端、リオンは荷物も置かずにルークを直ぐに角へと連れてきた。
「おい! どうしてキルくんにあんな宣戦布告みたいなこと言ったんだよ!!」
「本人に聞いてみればいいじゃん。せっかく相部屋になったんだし。まあ、王族同士が相部屋になることは予想できてたけど……。まだビビってんの?」
いつまでも自然体なルークに、声を詰まらせる。
「まあいいや。葉っぱかけたのは、あくまで保険。兄さんが僕を選んだ時点で、現時点では努力賞。兄さんも僕と同じ、レオを本気で救いたいって思ってることだけ分かったから、今はそれで十分だよ」
「ルーク…………」
「だって兄さん、今日はずっとフレア三姉妹のことチラチラ見てたもんね。大きな保険でも掛けておかないと、せっかくのエルフ王国遠征が台無しになっちゃうじゃん」
「ハハ、その保険にまんまと利用されたわけですね」
相部屋なのだから当然と言えば当然だが、キルは忍び足で近付き、盗み聞きをしていた。
「そういうキルさんは、何を企んでいるの?」
「アッハハ、僕はただ、衰退してしまったキルロンドの為に、強くなりたいと思っているだけですよ」
「まあどっちでもいいけど。僕たちはレオを取り戻すし。取り敢えず、今回の遠征で一番厄介になるのは……君のバディのニア・スロートル…………」
「ふふ……やはりルーク様は優秀ですね。ニアの能力は公式戦でしか見せていないのに……。そうです。ニアはキルロンド始まって以来の天才的なメイジです。僕の兄、キラ・キルロンドや、レオ様が神童と謳われる剣士ならば、魔法職の神童は彼でしょう」
「そこまで言えるんだ。期待してるよ」
「ふふ……こちらこそ」
そんな、含みを交えた中、寝られるはずもないリオン。
しかし、他の全員は寝静まってしまった。
(どんだけ図太い神経をしているんだ……コイツら……)
敷地内であれば、夜遅くに出歩いていてもお咎めはない為、リオンは一人で月が見える中庭へと赴いた。
そこには、唯一の施設の水源に、一人佇む緑髪の美麗な女性が佇んでいた。
「こ、こんばんは! こ、こんな夜中にどうかされたんですか?」
あの緊張感の中から抜け出し、こんな夜更けに綺麗な女性と出会えたことに高揚してしまったリオンは、一心不乱に声を掛けた。
「ふふ、君はキルロンドの学生さんね? 君こそ、こんな遅くまで起きてて大丈夫なの?」
「全然大丈夫っスよ!! 鍛えてますんで!! アハハハハ!」
「あら、元気満々なのね。素敵なことだわ」
(なんだろう、この感じ……。以前にもどこかで感じたことがあるような…………)
「私、そろそろ行かなくっちゃ……」
「あの、すみません。お名前だけでも……」
「そうね。私はシニア・セニョーラ。またどこかで会えたら、その時はまたお話しましょう」
その途端、急な眩暈がし、気付いた頃には、リオンは部屋の布団の中で朝を迎えていた。
「あれ……お姉さん…………」
「兄さん……また女性に現を抜かしているの? はぁ……」
リオンを見て溜息を吐くルーク、キルとニアは、既に自分の布団を畳み、訓練の支度が済んでいた。
「夢……だったのか…………」
二日目に行われるのは、バディ個々に用意された魔法防壁の空間の中で、魔法で人形を破壊させることだった。
「あの人形は、攻撃力が一定値を越えないと破壊できません。皆さんキルロンドの学生のメイジの平均攻撃力は400と言ったところでしょう。しかし、あの人形を破壊するには、少なくとも1000は必要になります」
「なるほど。昨日の説明の、バフを掛けない限り突破できないって仕様なんですね」
「その通りです。そして、あの人形を破壊しない限り、次の訓練に臨むことはできません」
つまり、エルフ王国遠征では、二人一組のバディで、課題をクリアしない限り次の課題には臨めず、逆に言えば、苦手な部分をとことんまで鍛えられるよう計らって遠征での課題を組んでくれていた。
「よかったじゃないですか、兄さん。すごくシンプル。頭を使わなくていい。僕たちは、目の前に用意された課題をクリアしていくだけでいい」
「とは言っても……急に支援魔法で600をも上げるなんてどう考えても…………」
“草支援魔法・ビルドアス”
突如、ルークはリオンに支援魔法を掛ける。
「お前、ビルアスの進化魔法、ビルドアスも使えたのか! 昨日言わなかったのに……!」
「僕もやっぱ、少しキルに似ててね。まだ他の人たちのことを信用できていないから。でも、これじゃあ1000には届かない。残った分は兄さん自身で、自己バフを掛けてガンナーとして、あの人形を破壊してよ」
リオンも、自身が剣士になれなかった反面、支援魔法の練習をしていなかったわけではない。
しかし、それはあくまで、味方に掛ける支援魔法。
恐らく、この課題は、他のチームは互いにバフを掛け合い、500:500の攻撃力を合わせて、同時攻撃で突破してくるだろう。
それでもルークがリオンに託す理由は、リオンの成長を促したいからで、恐らくはキルのチームもそうやって単身の攻撃で乗り越えてくるからだと計算の上だった。
「やってやる…………!!」
リオンは、全身に水魔力を巡らせる。
(俺は、ヒノトくんみたいに前衛で戦うアタッカーじゃない。それでも、メイジでもヒーラーでもない、攻撃が主のサブアタッカーなんだ……! 俺だって、負けないくらいの攻撃力を身に付けてやる……!!)
「うおおおおおおお!!!」
リオンが気合いを入れた瞬間、リオンの身体から草の種が放出され、リオンが魔法を繰り出す間もなく人形は破壊されてしまった。
「あれ…………?」
ルークは、無表情でリオンに小さく拍手を送った。
「はーい。お疲れ様、兄さん。兄さんには草魔法が付与されてたから、兄さんは身体中に水魔力を展開させるだけで勝手に開花反応が起きたのでした〜」
「は!? 俺の強化は!?」
「いやいや、ガンナーの兄さんが支援魔法を今ここで鍛えたところでパーティに何の徳があるのさ。チート級の闇魔法が使えるリリムさんもいるのに」
「こ、この野郎〜〜〜!!!」
「でも、兄さんを強くしたいのは本当。じゃなきゃ、レオは助けられないから」
その言葉に、リオンは言葉を制されてしまった。
「それでは、次の訓練場へ案内します」
エルフ兵の言葉で、二人は気持ちを切り替え、次の訓練場へと足を運んだ。
そこには既に、ブロンド姉弟と、キル、ニアの四人が控えていた。
「俺たちも相当早く突破したのに……凄いな……」
「まあ、さっきのはブロンド姉弟にとっては楽勝なものだと思うよ。でも、もしエルフ族の真の戦い方を教えてくれるって言うなら……ここからは選ばれた人しか進んで行けないだろうね……」
そう言うと、ルークは徐に汗を滲ませていた。
ルークは、幼少期に少しだけエルフ王国に滞在していた時期があった。
幼い頃の為、ほとんど記憶はないと言うが、草魔法をエルフ族として扱えるよう英才教育を受けていた為、その過酷さの記憶はあると話していた。
その為、ルークの青褪めた表情を見るなり、リオンも高鳴る鼓動を抑えながら、汗を滲ませた。
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