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六人が集まると、各部屋にいたエルフ兵の上官らしき男と、昨日のシュヴルスが前に立ち、説明を始めた。
「これからキルロンドの皆さんに覚えてもらうのは、エルフ族の真の戦い方になります。それが、 “自己バフ” と呼ばれるもの。その名の通り、自身をバフ、強化する魔法になります」
自身をバフする魔法。
本来、支援魔法とは、自身の魔力を使い、味方を支援するためのもの。
しかし、その魔法を自分に掛けることはできない。
何故なら、自分の中にあるエネルギーを仲間に与える行為であり、自分の中にあるものを自分の中に送っても意味がない為である。
しかし、エルフ族はその理を超越した、自己バフという魔法を会得して戦っていた。
六人全員が、そんな魔法が実在したことに驚愕し、ゴクリと喉を鳴らせた。
「しかし、この魔法を扱えるようになる為には、試練を乗り越えなければなりません。先程のような試験的な突破方法ではなく、『選ばれた人』のみが扱えます。ここで落ちた場合、自己バフ魔法は諦めてください」
そう言うと、男とシュヴルスは生徒たちの前を横切って離れていく。
目の前には、複数人分の扉が現れた。
「この中で…………試練を…………」
「その通り。バディではなく、お一人ずつ入って頂きます。生死を伴う危険性がある為、三十分の間に再び戻って来られなかった方は、諦めてください」
全員、額に汗を滲ませながら、扉のノブに手を掛ける。
「それでは、入室してください」
男の合図で、全員がその扉を開いた。
中には、何もなく、ただ真っ暗な部屋が広がり、一つの椅子のみが置かれていた。
「ここに座ればいいのか……?」
ゆっくりと目の前の椅子に座ると、扉は自動的にゆっくりと閉まり、完全に光が閉ざされた。
(この中で……三十分……? 真っ暗闇は確かに恐ろしいが、目を瞑っていれば簡単な気がするが……)
その瞬間、リオンの目の前には見知ったキルロンドの王城が広がっていた。
「な、なんだ…………? 王室…………?」
目の前に映るのは、目を見張る人物だった。
「レオ…………!! どうして…………!!」
しかし、リオンの声はレオには聞こえていない。
その奥には、
「俺…………?」
向かい合う形で、リオンが立っていた。
(そうか…………。これは、エルフ族の魔法で見せている俺の中の記憶なんだ…………。テレポートとかではないから、こちらから干渉は出来ないんだ……)
「リオン……貴様は王族には適していない」
(あはは……レオにそんなことを真っ向から言われたこともあったっけな……。まあでも、こんなの日常茶飯事だったし、記憶って分かっていれば、俺にはそんなに厳しい試練じゃないかも知れないな……)
しかし、リオンの想像は絶するものになっていた。
(三十分なんてとっくに過ぎてないか……? 一体、どんだけの過去を見せられるんだ……? そもそも、どうすれば俺は扉から出られるんだ……?)
気が付いた頃には、リオンの目からは涙が溢れ出ていた。
慣れているとは言え、仕舞い込んだ記憶も容赦なくありのままに見せつけられる。
自分の声は誰にも届かず、ただ理不尽に過去のトラウマが永遠と繰り返される。
「もう……やめてくれ……。全部……全部、乗り越えたはずの記憶だったのに!!!」
『今年から、お前が通う学寮だ。無理にいい成績を取る必要はないぞ、リオン。自分らしくでいい』
「これも……そうだ。お父様はいつも優しかったけど、その優しさが辛かった……。期待されていないんだって、ちゃんと分かっていたから…………」
目が虚になってきた頃、三人の姿が現れる。
「これは……小さい頃にコッソリとお父様の会議室を覗いた時の記憶か……? 忘れてたな…………」
そこに居たのは、当時は知らなかった、国王ラグナのパーティメンバー、ラス・グレイマン、シルヴァ・ディスティア、ミネルヴァ・アトランジェだった。
「そうか……たまに、兵士も着けずに密会していたのは、お父様のパーティメンバーだったのか……。今ではお世話になることもあったな。ラスさん……。ラス…………グレイマン…………」
その瞬間、ふわっと視界が明るくなる。
「ヒノト…………くん…………」
『辛い時こそ笑えってさ、教わってきたんだ』
『だって俺、勇者になりたいから!』
『生まれた時に優秀かどうかって、そんなに大事?』
『強くなりたいから強くなる! それだけだ!』
『信頼してるに決まってる! 仲間なんだから!』
「ヒノトくん!!」
声を発した瞬間、リオンは真っ暗な部屋に戻っていた。
静かに扉を開けると、同時に隣からは、キル・ドラゴレオが平然な顔で現れた。
「随分と苦労なされたようで、リオン様?」
その言葉に、泣き崩れていたことを思い出す。
しかし、それは皮肉にしては温かく聞こえ、キルの頬にもまた、隠し切れていない泣いた跡が見られた。
「キルくん、君も、兄弟が神童と謳われていたが為に、きっと苦労してきたのだろうね」
リオンの言葉に、キルは何も言わずに見つめた。
「でもだからこそ俺たちは、この試練を乗り越えることができる! トラウマの先に、光があることを知っているから!!」
その言葉に、キルはニシっと笑みを浮かべた。
「ルーク様の仰った通り、少しは期待できそうですね」
そう言うと、キルは静かに背を向けた。
他の人はまだ出て来ていなかった。
「あんなに時間が過ぎたと思っていたのに、それでも俺とキルくんが一番だったのか……」
ヒノトの記憶が一切なかったのは、ヒノトと出会ってからは前向きになっていたからだった。
(あそこでラスさんが映らなければ……。いや、この試練はそんな単純なものじゃない。きっと、小さな光が乗り越える鍵になっていたはずなんだ)
少し時間が経った頃、ルークの扉が開かれた。
「ルーク! 乗り越えられると思ってたぞ!」
元気に迎えに行くリオン。
しかし、ルークは青褪めた表情でリオンを睨み付ける。
「ルーク…………?」
「誰だ? お前…………」
ドッ!!
その瞬間、ルークの魔力は膨れ上がり、右手には草魔力で創られた剣が現れた。
「ルーク…………?」
“水防御魔法・水泡”
ズォッ!!
リオンが呆気に取られている瞬間、ルークはリオンを殺す勢いで迫り、間一髪をキルの水魔法で防いだ。
「何やってるんですか、リオン様!! どう見たって、普段のルーク様じゃないでしょう!!」
「そ、そうか…………!」
リオンは直ぐに距離を取り、臨戦態勢を取った。
横にはザッとキルも並ぶ。
エルフ族のシュヴルスと男は、その光景を、ただ達観しているだけだった。
(クソッ、エルフ兵たちは何を考えているんだ……!)
「リオン様、ルーク様はどうやら、自己バフを既に使いこなしてるみたいです。僕たちも張り合わないと、正直ガンナー二人では…………」
「試練は突破したけど、やり方なんて…………」
咄嗟に先程まで見せられていた光景がフラッシュバックし、吐き気と眩暈に襲われるリオン。
「クハッ…………!」
「何やってるんで…………」
リオンが胸に手を当て、涙を堪えている姿の中、キルはこの試練と自己バフの方法を全て悟った。
「リオン様の魔力が……膨れ上がってる…………」
「俺が…………助けてやる!! ルーク!!」
「待ってください!! ルーク様!!」
“水魔法・アークホール”
グォッ!!
リオンが魔法を唱えた瞬間、目の前には辺り一面を覆う程の水泡が出現した。
「なっ……! 初級の拘束魔法だぞ!?」
“草攻撃魔法・棘”
バァン!!
しかし、ルークはものともせずに破壊した。
「これが……エルフ族の自己バフの力か…………」
キルは、唖然と二人の攻防を見つめていた。