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煉獄さん
あれから私は、色んな人に稽古をつけてもらって、空いた時間は蝶屋敷でアオイちゃんたちの手伝いをして日々を過ごしている。
ごはんを作ったり、患者さんの処置をしたり。
稽古をつけてもらう相手は、柱の誰かだったり、階級が上の隊士だったり。
中学時代に体育の授業で剣道を少しだけ習ったけど、そんなの「できる」うちに入らないから、0からスタートと思って竹刀や木刀を握っている。
あの後伝達があった。来月開かれる(?)最終選別を突破すること。
弓矢だけで入隊許可が下りたのは異例の事態だったから、ちゃんと他の隊士がそうしてきたように、私にも最終選別を突破する義務があるって。
時間がない。全集中の呼吸も早く習得しなくちゃ。
私は3日ずつくらいのスパンで、稽古をつけてくれる人のところへ通った。
手のひらにいくつもまめができては潰れる。
その度に、しのぶさんやアオイちゃんたちが手当てをしてくれた。
今日は煉獄さんのところで稽古の日。
打ち込みを数百回と繰り返して、限界を迎えて膝をつく。
「うむ!この前来た時よりも型が様になってきたな。とてもいいぞ!」
『はぁ、はぁ……ありがとうございます……』
「君には最終選別を突破してほしいと強く願っている。きっと俺だけじゃなくみんなそうだろう」
煉獄さん、優しい……。
『ありがとうございます、煉獄さん。…まだ私、全集中の呼吸を完璧にできなくて……。こんなんで鬼殺隊としてやっていけるんでしょうか…』
思わず、不安な気持ちを口に出してしまう。
それと同時に視界が歪んで、熱いものが頬を転がり落ちていく。
『…っ。すみません……』
慌てて涙を拭う私の隣に煉獄さんが腰を下ろす。
「気にするな。泣きたい時は泣けばいい。…落ち着いたら稽古の続きをしよう」
『……はい…』
この世界に来て、見たことないバケモノに襲われて、助けてくれた人がいた。
行く宛のない私を仲間にして、家族にしてくれた人たちがいた。
そんな大切な人たちを、私も命を懸けて守りたいと思った。
なのに私は弓矢しか扱えない。矢では鬼の頸を吹っ飛ばすことはなかなか難しい。
剣の才能があるかなんて分からないけど、とにかくやらなくちゃいけない。
毎日必死に生きていたから、弱音を吐く暇なんてなかった。
…ううん、吐かないようにしてたし、考えないようにしてたと言ったほうが正しいのかもしれない。
「君はとても頑張っている。全集中の呼吸ができるようになるのももう少しだと思うぞ。自信を持て」
『…うぅ……』
煉獄さんはその大きな手で私の肩を抱き寄せてくれた。
「伊黒が鬼に襲われている時、君は逃げなかった。彼を盾に逃げ出すことだってできたのに、その場に踏みとどまり、鬼に矢を放った。その勇気ある行動のおかげで、君も伊黒も助かったんだ。君はとても強い子だ 」
煉獄さんの優しい言葉に、涙はなかなか止まってくれない。
『…煉獄さん…、私、きっと最終選別を突破しますから、また稽古してくださいね……!』
「ああ、もちろんだ!俺の継子になってもいいんだぞ!」
『もう……。煉獄さん、継子のことばっかり…』
可笑しくて私が笑うと、煉獄さんも微笑んだ。
「君には笑顔がよく似合う。もちろんつらい時は無理に笑う必要なんてないが、君の笑った顔に心を明るく照らされる人は大勢いるということを忘れないでくれ」
そう言いながら、煉獄さんは反対の手で私の頬に零れた涙をそっと拭ってくれた。
『ありがとうございます。頑張ります…!』
「うむ、いい心掛けだ!」
『煉獄さんみたいな優しいお兄ちゃんが欲しかったなあ』
「そうか、それは嬉しいな!俺も弟しかいないから、君のような女きょうだいが欲しいとよく思ったものだ」
2人で笑って、稽古の続きを始める。
あっという間に日が傾いた。
ゴオォォオォ……
『えっ!何この音!?』
突如鳴り響いた地響きのような音に、私は驚いて身を強張らせる。
「すまん、今のは俺の腹の音だ!」
『え!煉󠄁獄さんの!?』
「今日はこれまでにしよう。夕飯を一緒に食べていかないか?普段は隠の人たちが作ってくれるが、今日は他の者の任務の事後処理で来られないそうなんだ」
『いいんですか?ありがとうございます!…あの、よかったら私が何か作りますよ』
「それはありがたい!支度を手伝ってもらおうとも思っていたが、せっかくだしお願いしよう!」
煉獄さんに案内されて、台所にお邪魔する。
『何かお好きなものはありますか?』
「基本何でも食べるぞ!でもいちばんの好物はさつまいもご飯だな。さつまいもの味噌汁も大好きだ!」
『そしたら、それ作りますね!』
この時代にもさつまいもってあるんだ。
旬はまだ少し先だけど、年中食べられる食材だもんね。
『煉獄さん、私ごはんの支度しますから、ゆっくりされてていいですよ』
「そうか。ありがとう!」
料理が完成して、食卓に並べる。
リクエストのメニューに加えて、お魚の煮付けと酢の物も。
「なんと!美しい!!」
煉獄さんは今まで見たことないくらい、目力の強い瞳を輝かせていた。
「いただきます」
『いただきます』
まず、さつまいもご飯を口に運ぶ煉獄さん。
「美味い!!わっしょい!!!」
声大きい!しかもわっしょいって何??
面白くて笑ってしまう。
「味噌汁も美味すぎる!!わっしょい!!!」
『…ふふ。お口に合ってよかったです…ふふふ』
あんまり笑ったら悪いと思うものの、煉獄さんがひと口食べるごとにわっしょいわっしょい騒ぐのが可笑しくて、私は食事の最中お腹が捩れそうだった。
暗くなってしまったので、煉獄さんが私を蝶屋敷まで送ってくれた。
『煉獄さん、ありがとうございました。私、もっと頑張ります』
「こちらこそありがとう。君の作った食事、とても美味かった!ぜひまた作ってくれ!」
『はい、喜んで!』
私がそう言うと、煉獄さんはにこっと微笑んで私の頭をわしゃわしゃと撫でくり回した。
なんか、弱音吐いて泣いたら胸の中がすっきりしたなあ。
明日からまた頑張ろうと思えた1日だった。
つづく