テラーノベル
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暗闇の箱に一本の線が差し込んでいる。当然、その向こうには明かりに満ちた空間が待っている。しかし、俺がそこへ出る事は、今だけは万が一にも無い。
なぜなら――この先にあるのは修羅場だからだ。
「すみません。突然押しかけてしまって……。夫が会社の同僚に宛があると仰っていましたので、もしかしたらと思いまして」
晃一がいるのであろう、クローゼットの方に少し視線を揺らして言う。高月玲奈なる女はそれに動揺せず、あくまで晃一と同じ会社の同僚である社会人としての態度を変えない。
「いえいえ、晃一さんには大変お世話になっていますから。その奥様となれば、いつでも大歓迎ですよ」
「しかし、本当にすみません。いくら何でも、この時間帯は非常識だったなと反省しております」
「平日であれば出社していますから。むしろこの時間帯がありがたいです」
「ありがとうございます。そう言っていただいて……」
凍てつく視線が交差すると共に、熱狂の渦が二人の間に存在する。白虎と青龍。向き合う二匹は互いに首筋を睨み、仕掛ける瞬間を探っていた。一瞬の静寂すら、全てを喰らう狂気に思える。
向こうにとっては、晃一を匿うために凌ぐ闘いなのだろうが、私には違う。そんな事は分かりきっているのだ。しのちゃんからの情報もあるし、晃一の革靴を靴箱に確認している。そこまで見られる事は予想していなかったのだろう。
ならば、私は今何をしているのか。復讐にとっては、特に意味を持たないが、最も意味ある事でもある。晃一に圧力をかけるのだ。今宵は不思議なほど、私の勘ぐりがよく働く。
(なぜ、この家の住所を知っていたの!?)
今、この女の内心は、こんなところだろう。晃一の方は焦りで、そこまで考えられていないかもしれない。
「……それにしても、美味しそうなお料理ですね。もしかして、今日は何か大事な日でしたか?」
「いえ、料理は趣味でして。普段からこれくらい、つくるんです」
「へえ、一人にしては少々多いように思えますが……?」
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