コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
体調不良です
体調が悪くないと言い張るグレン
VS
なんとしても医務室に引きずり込みたい生徒達&アルベルト
それでは、どうぞ
「はよ〜っす…」
いつもとの違いは明白だった。
いつもよりも気怠げで、それでいて少し青い顔色。
お世辞にもいいとは言えない。
〔カツ、カツ、カツ〕
と、少し青い顔色をしたグレンへシスティーナが歩み寄ったのは、ほんの一瞬のことだった。
「先生?」
「あ、なんだ?白猫」
と平常を装って返事を返すグレンに少しでも近づくために、教卓へ身を乗り出してグレンへ近づいた。
そうすると、案の定グレンは驚いて身を引く。
「はぁ…」
システィーナが1つ溜息をつき、乗り出していた身を引いて次はグレンの目の前に立つ。
「さっきからなんだよ?」
首を傾げるグレン。
自分の顔色の青さを気にも留めていないようだ。
「…先生、気づいてないんですか?」
「あ?何が─」
何がだよ、と問おうとしたグレンの異常な程に熱を持った額に、不意にシスティーナのひんやりとした手があてがわれる。
「え、なっ、なん…?」
と、動揺を隠しきれない様子でグレンが身を捩った。
「…はぁ、やっぱり」
サッとグレンの額にあてがわれていた手を引くと、呆れたように呟いた。
「…?システィ?」
「おい、…白猫?」
システィーナの突拍子もない行動に、グレンも、そしてルミアも脳内に疑問を浮かべていた。
未だになぜ自分の額にシスティーナの手があてられたのかが分からないグレンと、そのグレンが置かれている状況を察したようにため息をつくシスティーナ、そして目をぱちくりさせながらどうにか状況を理解しようとするルミアといつもの眠たげな表情のリィエルが首を傾げている。
「先生、素直に答えてください」
「お、おう…?」
「正直言って先生、体調が優れませんね?」
「え…いやその、それは…」
図星だとわざと思わせるような行動に、システィーナがまたため息をついた。
目を逸らすグレンと、グレンの目を真剣な表情で見つめるシスティーナ。
2人の間に流れる無言を、扉を開ける音が遮った。
「あ?」
「へ?」
なんとも間抜けな声を、グレンとシスティーナがあげる。
それもそのはず。
そこに立っていたのは──
帝国宮廷魔道士団、特務分室No.17《星》のアルベルト=フレイザーだったのだ。
「あ、アルベルト?!」
「アルベルトさん?!」
驚愕、といったような表情で固まる2人へアルベルトは足を止める様子もなく、一直線にグレンへと足を進める。
「おま、なんでここに?!」
グレンがアルベルトへいつものように噛み付くが、アルベルトは何処吹く風だ。
やがてアルベルトがグレンの正面で足を止める。
「…グレン、行くぞ」
「おわぁッ?!」
そう冷たく発せられた言葉には少しだけの怒りが感じられる。
アルベルトがグレンの腕を掴み、自分の方へ腕を引くと、バランスを崩したグレンがアルベルトへもたれ掛かる。
そんなグレンをアルベルトが肩へ担ぎあげるとグレンが「下ろせよ!」とアルベルトの背中をバシバシ叩いた。
だが、そんな抵抗も虚しくグレンはアルベルトの手によって医務室へ押し込まれてしまった。
「…なんて言うか…結構強引ね、…」
システィーナが苦笑を浮かべてグレンが医務室へ押し込まれる様子をぽかんとするルミアの隣で呆然と眺める。
「せ、先生大丈夫かなぁ…?」
「…よくわかんないけど、グレンなんか変だった」
意識を取り戻し、苦笑を浮かべるルミアといつものように眠そうな表情をしたリィエルが呟いた。
「っおい、アルベルト!」
「なにしやがんだてめえ?!」
抵抗したにも関わらず、無理矢理医務室へ押し込まれたグレンがアルベルトへ吠えかかる。
そんなグレンの顔色は心做しか先程よりも良くないものだった。
「無理をするな、と何度言えば分かる」
グレンに何を言われようと無言を貫いていたアルベルトが呆れたように言う。
「、はぁ?俺は無理なんかしてな…」
「青い顔をして言われても説得力は無いぞ」
無理なんかしてない、と意地を張ろうとするグレンへアルベルトが放った言葉が刺さったようで、グレンは黙り込んでしまった。
「…でも、無理しなきゃ授業遅れちまうだろ」
自身の不調を認めたように呟いた。
「無理をして完全に体調を崩し、授業を無くしてしまうと元も子もないが?」
アルベルトの言うこともごもっともだった。
確かに、授業が遅れると言って無理をするとかえって体調を崩しかねない。
それが無理をしようとしていたグレンにはド正論で、反論のしようがない。
やがて、観念したように医務室のベッドへ身を投げた。
「…ふん、最初から大人しくしていればよかったものを」
「…るっせ、黙っとけ」
その後、限界が来たのか、グレンが自分から口を開くことは無かった。
「…すー、すー…」
穏やかとは言い難い表情を浮かべ、それでいて規則正しい寝息を零すグレンをアルベルトの傍らに立った三人娘が見つめる。
体を丸めて猫のように眠るグレンの額には冷や汗が滲んでおり、顔は顰められていた。
「頼ってくれたら良かったのに」
「あはは、…まぁ先生のことだし、許してあげよう?」
「ん…グレン、変な顔」
頼ってくれたら良かったのに、と不貞腐れた表情でグレンを見つめるシスティーナの横で、システィーナを宥めるようにルミアが苦笑する。
グレンの体調を気に掛けた発言では無い言葉をリィエルが零したことからも目を背けて。
「…ぅ、んん…」
数時間後。
三人娘も授業へ戻り、再度医務室にアルベルトとグレンの2人だけになった頃。
グレンが目を覚ました。
「…?」
「ここは医務室だ」
ここはどこだ、とでも言いたげに歪められた顔へ、その返事といったような感じでアルベルトが答える。
「な、んで…」
まだ話すこともままならないといった様子のグレンが絞り出したような声でアルベルトへ尋ねる。
「…はぁ、覚えていないのか」
「お前が体調不良を隠していたことにフィーベルが気付き、俺が医務室へお前を放り込んだ。それだけだ」
いかにも面倒臭そうに顰められた顔と冷たい言葉へグレンが思い出した、とでも言いたげに目を見開いた。
「ぃ…っ痛つ…」
頭痛がするのか、グレンが頭を抑えて顔を歪める。
それもそのはず、彼が起きる前に測った体温は38℃を超えていたのだから。
「ふん、惰弱な」
「…るっせ、」
「…それはそうと、フィーベル」
「っ?!」
「そこにいるのは分かっている、入るなら入れ」
「ば、バレてたんですか…」
システィーナがバレているとは思わなかった、というような表情で苦笑する。
そんな彼女の後ろにいるのは、ルミアとリィエルだ。
いつもの三人娘がグレンの様子を心配して見に来ていたのだろう。
「し、白猫…」
グレンが気まずそうに目を逸らすと、システィーナが微かに眉を吊り上げてグレンへと歩み寄る。
先程の心配そうな表情とは一転、怒りに顔を歪ませたシスティーナの姿がそこにはあった。
「…その、無理したことは…悪かったと思ってる」
「お前らの心配を無下にしちまって…その、すまん」
申し訳なさそうに眉を八の字に曲げ、怒られた少年のような雰囲気を纏ったグレンがぎこちなく謝罪の言葉を紡ぐ。
まだ熱があるからか、グレンは謝罪の言葉を口にした後、医務室のベッドへ力無く倒れ伏した。
「全く…謝ってる暇があるなら、早く治して元気になってください」
「ん…グレン、元気じゃないとなんか変な感じ…」
「先生、ゆっくり休んで元気になってくださいね 」
そんなグレンの様子を見て怒る気もなくなったのか、システィーナは呆れたように、それでいて心配するように言葉を紡いだ。
それに続くように元気付ける言葉をリィエルとルミアがグレンへ投げかける。
「…すまん、早く治すわ…」
もう口しか動かせん、と言ったような様子のグレンと素直じゃない三人娘に、アルベルトはため息をついたのだった。
「ぁ…はぁ…はぁ…」
皆が帰り、昼間は青が拡がっていたキャンバスが黒で塗りつぶされた頃。
昼間は少し下がった熱が、また上がりだした。
荒々しい呼吸音が、静まり返った医務室を支配する。
「…おい、グレン」
「起きろ」
ぺしぺしとアルベルトがグレンの頬を叩く。
だが、そんなことをしても一向に目を覚ます気配のないグレンへアルベルトが深い溜息を吐いた。
「《雷精の紫電よ》」
グレンに向けて、最小限に威力を抑えた【ショック・ボルト】を唱える。
最小限に威力を抑えたため、微弱な電気となってグレンの身体を震わせた。
「ぅ…、?」
その衝撃でグレンが目を覚ます。
「起きたか」
「おま…なんかやった…?」
「いや、何もしていない」
「…そーか、」
何かに勘付いたような表情を一瞬見せたグレンだったが、やがて諦めたような表情をしてなぜ起こしたか、アルベルトへ理由を尋ねた。
「で、なんだよ…」
「薬を飲め」
「お前も知ってるだろ、俺にゃ薬効きにくいんだよ」
「だからわざわざお前に効く薬を持ってきてやったのだ」
「…いやでも」
「薬が苦手なんだろう」
「…う、そ、そんなことねえし…」
図星を突かれたグレンがバツが悪そうにアルベルトから目を逸らす。
そう。何を隠そう、グレンは薬が大の苦手なのだ。
「いいから飲め。拒否権は無い」
「…はぁ?」
「少しくらいは飲みやすいように配慮しようとかねえのかよ?」
「そんなものは無い」
高熱を出しているというのに、グレンの変わらない減らず口にアルベルトが深い溜息を吐く。
グレンが言ったように、少しくらいは飲みやすいようにしようと方法を模索したものの、飲みやすくする方法は思い浮かばず。
ただ無理矢理にでも飲ませるという判断を取ったのであった。
「お前、変なところで諦め良いよな…」
「…ふん。早く飲め」
「ええ…マジでヤダ…」
もう薬が苦手だということを隠さなくなったグレンが嫌がるように首を振る。
「それとも…口移しでもされたいのか?」
微かに眉を顰めるアルベルトに思いもよらない言葉を投げかけられ、グレンが目を見開く。
確かに、これまでもグレンが渋って薬を飲まなかった時には、口移しで飲ませたこともあった。
半ば強制的に、大体はセラに見守られながら。
「それだけは絶対にヤダ!!!」
「わかった、飲む、飲むから口移しだけはやめてッ?!」
口移しは嫌だ、と苦い思い出を思い出すようにグレンが顔を歪ませる。
そう、グレンにとって口移しとは嫌な思い出しかないのだ。
薬を飲みたくないと拒否すればアルベルトからの強引な口移しで飲まされ、アルベルトが居ない時にはあのジャティスから口移しをされたこともあった。
あれはもうグレンにとって二度と思い出したくない出来事になっていた。
「…ん…ゴクッ」
グレンが観念したように薬へ手を伸ばし、水を口に含んで薬を飲む。
薬を飲んだ後は暫く苦い顔をしていたが、アルベルトが汲み直してきた水を再度飲むと落ち着いたようだった。
薬を飲んでから数分後、またグレンは深い眠りへと落ちていった。
グレンが眠りへ落ちたのを合図に、アルベルトが静かに部屋を出る。
翌日、目を覚ますとそこに居たのは心配そうに眉を八の字に曲げたシスティーナとルミア、そしていつも通り眠たげな表情をしたリィエルだけだった。
だが、グレンは今頃任務を遂行しているであろうアルベルトへ心の中で感謝した。
ずっと傍で見ていてくれたこと、そして薬を持ってきてくれたことに。
「…ありがとな、3人とも」
柄にもなくグレンが素直に感謝を伝えると、いつもはあまり表情の変化がないリィエルでさえも、目をぱちくりさせていた。
「…おい?なんだよその顔?」
「ん、なんかグレン変」
「俺が素直に感謝を伝えちゃ悪いか?!」
そんなグレンの悲痛な叫びが、今の今までぽかんと口を開けて呆然としていたシスティーナとルミアの2人を現実へと引き戻した。
グレンの傍らに立つリィエルは、先程の目をぱちくりさせていたのとは一転して、いつものような眠たげな表情で首を傾げていたのであった。
あとがき
ロクアカ書くのは初めてなのでめちゃくちゃ試行錯誤しながら書きました!!
ちょっとずつでもロクアカのキャラの性格を掴んでいけたらいいなと思います!
それでは!
約5100文字お疲れ様でした。
読んでいただき、ありがとうございました!