テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
やがて夜が明け、陽菜たちは焼けた薪の中からフーちゃんの遺骨を拾い集め、粗末な小さな壺に収めた。それを白い布でくるみ、玄野は布の端を自分の首に巻きつけて胸に抱えた。そして陽菜に言った。
「じゃあ、お別れだ。元気でな、陽菜」
「ゲンノ……本当に行くのか?」
そう問う陽菜に玄野は迷いのない顔つきで大きくうなずいた。アベが横から尋ねる。
「分かっているとは思うが、もう二度と自分の時代、21世紀には帰れないのだよ。本当にいいのだね?」
無言で、しかし決然とした表情で再び大きくうなずいた玄野を見て、アベも数度うなずいた。
「君の今後の行動を制約はしないが、一応これからどこへ行ってどうするつもりか、聞かせておいてくれないかね?」
「とりあえず、陸奥の国、楢葉の郡あたりに行ってみようと思います。どこかでお寺にでも入って、フーちゃんの菩提を弔って暮らすのもいいかも、とか思ってて」
陽菜が怪訝な顔で言う。
「ゲンノ、外国へ行く気か?そのナラハノコオリって、どこの国の街だよ?」
「いや、そうじゃないよ、陽菜。俺たちの時代で言う、福島県の海沿いの辺りの事さ」
そして玄野は朝日に照らされた青い空を見上げながら言った。
「原子力や放射能なんて言葉さえまだ無いこの時代の、美しい清らかな故郷の土にフーちゃんを葬ってあげたいんだ」
フーちゃんの遺骨を入れた壺を抱えて、玄野は軽く陽菜たちに手を振り、北へ向けて歩き始めた。その後ろ姿が段々小さくなっていくのを見つめながら、陽菜は必死で声を押し殺していたが、とうとう耐えきれなくなり、叫ぼうとした。
ゲンノ、やっぱり考え直せ、戻って来い、と。だが、その陽菜の肩を後ろから昭雄の両手が痛いほどがっしりとつかんだ。振り向いた陽菜の目に昭雄が小さく首を横に振ったのが見えた。
陽菜はともすれば裏返ってしまいそうな声を押し殺し、両手を口にあてて代わりにこう叫んだ。
「がんばれよ! ゲンノ! 元気でな!」
もう顔の見分けもつかないほど小さくしか見えなくなっていた玄野は、大きく片手を振り、そして森の中の道の角を曲がって完全にその姿は見えなくなった。
陽菜は振り返って昭雄に抱きつき、声を押し殺して泣いた。昭雄も今回は陽菜を引きはがさなかった。
「ええん、兄さん……ゲンノが行っちゃったよう! フーちゃんも、もういない。もう二度と会えない……ああん、ああん!」
陽菜の頭をやさしくなでながら、昭雄は昔小さかった頃の陽菜を、外で男の子と喧嘩したり派手に転んで擦り傷を作って帰って来た陽菜を、泣いていた陽菜をあやしてやった頃の事を思い出していた。