『瞳子ちゃん!またホーラ・ウォッチのイベントで会えるのね。楽しみ!』
帰宅してスマートフォンを確認すると、谷崎 ハルからメッセージが届いていた。
連絡先を交換してから時々やり取りをして、互いに「瞳子ちゃん」「ハルさん」と呼び合う仲になっていた。
『そうなんです!ハルさんが私を司会にと、お口添えくださったと聞きました。ありがとうございます』
『ううん。私こそ、瞳子ちゃんと一緒がいい!ってお願い聞いてもらって、ありがとう!ねえ、瞳子ちゃん。当日はクリスマスも近いし、プレゼント交換しない?』
『ええー?!ハルさんと私が?そんな、身分が違いますから』
『身分って!何それ、どんな身分よ?ね、いいでしょ?お互い中身は内緒でね』
『えー!ハルさんにプレゼントなんて、私の全財産注ぎ込んでも無理そうです』
『やだ!いったい何を用意するつもりなの?予算はね、1050円!』
『1050円?!どうしてまた?』
『瞳子ちゃんの名前が、とうこ、だから』
『あはは!ハルさんったら面白い』
二人して他愛もない話を楽しむ。
『じゃあ、決まりね!お互い用意して控え室で交換しましょ』
『分かりました。えー、何にしようかな…』
『フフ、楽しみ!』
『1050円ちょうどの物なんてあるかな?』
『んー、ないでしょうねww』
『じゃあ、ニアピン賞で近い方が勝ちっていうのは?』
『おっ、それいい!よーし、負けないわよ!』
相手が芸能人だということも忘れて、瞳子はハルとのやり取りをごく自然に楽しんでいた。
大河がミュージアムを、洋平がホーラ・ウォッチを、吾郎が企業のCMコンテンツ、そして透がテーマパークのクリスマスショーを担当し、瞳子は全面的に皆をサポートする日々を送っていた。
洋平達3人が先方に打ち合わせに行き、オフィスにいるのは大河と瞳子だけになったある日の午後。
大河は、漂ってきた何やら甘くて美味しそうな匂いに、思わず手を止めて顔を上げる。
奥のカウンターキッチンに目をやると、瞳子が真剣な表情で何かを作っていた。
エプロンを着けて髪を後ろで1つに束ね、手元に顔を寄せるように身を屈めている。
(何を作っているんだ?お菓子か?)
そう思っていると、ただいまーと透がドアを開けて入って来た。
「やあ、アリシア。今戻ったよ…って、何?このいい匂い。クッキー作ってるの?」
「あ、透さん!お帰りなさい。そうなんです、ちょっと今、格闘してまして…」
「ええ?!何これ、雪の結晶のクッキー?」
「はい、アイシングクッキーです」
「そうなんだ!こんな手の込んだものを俺の為に?」
ん?と瞳子は首をひねる。
「えっと、ミュージアムのオープニングイベントで、子ども達やゲストに配るお菓子を考えていて。雪の結晶柄のアイシングクッキーを業者にオーダーしようかと、今、見本を作ってるんです」
「へえー、売り物みたいなクオリティだね。業者に頼まなくても、このままでいいと思うけど?」
「いえいえ、まさか手作りの品なんて渡せませんから。雪の結晶のクッキーを取り扱ってるお菓子屋さんはいくつかあるんですけど、柄が忠実ではなくて。私、どうしても樹枝六花を作りたいんですよね」
透が、何それ?と尋ねると、瞳子は顔を上げてデスクにいる大河に声をかけた。
「大河さん、樹枝六花の写真ありますか?」
「ん、あるよ」
大河は、いつぞや瞳子がまとめてくれた資料の中から、繊細で美しい雪の結晶の代表格、樹枝六花の写真を取り出して立ち上がる。
キッチンまで行き、瞳子の見やすい位置に写真を置くと、ありがとうございますと瞳子がにっこり微笑んだ。
そして写真をじっと見比べながら、小さな三角形のコルネを絞って、結晶の形の大きめのクッキーに模様を描いていく。
「うわー、なんて綺麗なんだ!芸術的だよ、アリシア。こんなの、もったいなくて食べられない」
「ふふ、そうですか?透さん、味見してもいいですよ」
「ほんと?いただきまーす!」
パクっと勢い良く頬張る透に「お前たった今、もったいなくて食べられないって言わなかったか?」と大河が呆れる。
「うんまっ!めちゃくちゃ美味しいよ、アリシア。君はどこまで俺を惚れさせるんだい?こんなに美人な上に、お菓子作りまで出来るなんて。君さえいてくれたら、俺の毎日は薔薇色さ」
「あーもう!聞いてるこっちが恥ずかしいわ!」
二人を尻目に黙々とアイシングをしていた瞳子は、ひと通り作り終えて、ふう、と肩の力を抜く。
スマートフォンで何枚か写真を撮ると、うん、と写り具合を確かめてから、大河にクッキーを勧めた。
「良かったらどうぞ」
「え、いいのか?」
「はい。無事に写真も撮れましたし、洋平さんと吾郎さんの分もよけておきましたから。あ、今コーヒーを淹れますね」
瞳子はマグカップにコーヒーを淹れ、皿にクッキーを3枚載せて大河の前に置く。
「お口に合えばいいのですけど」
「ありがとう。いただくよ」
大河は大きめのクッキーを1枚つまむと、じっくり眺めてみた。
真っ白なクッキーに、枝が分かれるように丁寧に結晶の模様が描かれている。
(確かに食べるのがもったいないな。美しくて芸術的だ)
感心してから、ゆっくりと口に運んだ。
サクッとした歯ごたえと程よい甘さのクッキーは、手作りとは思えない美味しさだった。
コーヒーともよく合い、気づけばあっという間に3枚とも食べてしまった。
「美味しかった。ありがとう」
「いいえ。あの、このクッキーを見本にオーダーして、オープニングイベントのお土産と一緒に、ゲストの方々にお配りしても構いませんか?」
「ああ、いいと思う。SNS映えもするし、子ども達や女性にも喜ばれるだろうな」
「はい!ありがとうございます」
いつの間に付いてしまったのか、頬にアイシングクリームをちょこんと付けたままにっこりと笑う瞳子を、大河は目を細めて見つめていた。
怒涛の12月が始まった。
ホーラ・ウォッチの新作モデル発表イベントを皮切りに、ミュージアムのオープン、テーマパークのクリスマスショー、そして年末納期の企業CMと続く。
まずは12月1日のホーラ・ウォッチのイベント当日。
この日ばかりは担当の洋平だけでなく、大河達も総出で現場に向かった。
機材をたくさん積んだワンボックスカーと、大河の車、2台に分かれて前回と同じショッピングモールに着くと、早速準備に取り掛かる。
瞳子もある程度手伝うと、頃合いを見て司会者の控え室に向かった。
衣装に着替えて担当の沼田と最終確認を終えると、隣のハルの控え室をノックする。
「はーい、どうぞ」
明るいハルの声がして、瞳子は、失礼いたしますとお辞儀をして中に足を踏み入れた。
「あ、瞳子ちゃーん!お久しぶり!」
ドレッサーの前でメイクの途中だったハルが、鏡越しに笑いかける。
「ハルさん!お久しぶりです。今日はよろしくお願い致します」
「こちらこそ。瞳子ちゃんの今日の衣装、シックでとっても素敵ね」
「あ、これで大丈夫でしょうか?ハルさんの衣装と被るなら、別の物に着替えますが…」
「大丈夫よ。私の衣装、今日は真っ白なの」
そう言って、壁に掛けてある衣装に目をやる。
言葉通り、目の覚めるような白いワンピースだった。
ふんわりとスカートが広がり、フレンチスリーブで肩のラインも綺麗なデザインだ。
「わあ、素敵!ハルさんに似合いそう」
「ふふ、ありがとう!ね、瞳子ちゃん。忘れてない?例のプレゼント」
「はい。持ってきましたよ」
「やったー!着替えたら早速交換しよ!」
すると横で話を聞いていたマネージャーの女性が、やや咎めるように口を挟む。
「ハル、まずは打ち合わせをしなさい。恋人からのプレゼント、とか、彼とのデートとか、NGワードをちゃんと伝えないと」
ハルは途端にシュンとして、瞳子に肩をすくめてみせる。
「今回はわたくしも充分気をつけます」
瞳子がマネージャーに頭を下げると、ハルも小さく付け加えた。
「私もちゃんと気をつけます」
マネージャーは「頼んだわよ」と言い残し、沼田との打ち合わせに部屋を出て行った。
「わあ!可愛い!サンタとトナカイとクリスマスツリーだ」
ハルは、ラッピングされたクッキーを見て目を輝かせる。
「すごーい、とっても可愛い!食べられないわ、こんな素敵なクッキー」
瞳子はハルに渡すプレゼントとして、やはり消え物がいいと思い、アイシングクッキーのクリスマスセットを用意していた。
ミュージアムのイベントで配るクッキーを依頼した製菓店の商品で、美味しさは試食済みだった。
「食べる前に写真撮らなきゃ!瞳子ちゃん、シャッター押してもらっていい?」
「はい」
ハルはクッキーがよく見えるように顔の近くに掲げ、瞳子が何枚か写真を撮る。
「ありがとう!SNSに載せてもいい?お友達からのプレゼントって」
「ええ、大丈夫です」
「良かった!それじゃあ、次は私ね。はい、瞳子ちゃんへのプレゼント」
「わあ、ありがとうございます!」
何だろう…とワクワクしながら、瞳子は小さな細い箱を開けてみた。
「ひゃー、素敵!これって、ハーバリウムのボールペンですか?」
真っ白なボールペンの上半分は透明になっていて、中に白いかすみ草と緑の葉、赤い小さな実がオイルに浸されて入っている。
「そう、クリスマスのイメージなの。ボールペンなら実用的かなって思って」
「はい!今日から早速使わせていただきますね。ハルさん、素敵なプレゼントをありがとうございました。大切にします」
「どういたしまして。それではいよいよ、気になるお値段発表に参りましょうか?」
「ふふっ、はい。じゃあ私からいきますね。1100円から5%引きで、1045円でした!どうですか?私の勝ち?」
「ふふーん。どうかしら?私はね…」
「うんうん」
瞳子は思わず身を乗り出す。
「定価1000円で税込み1100円」
「あっ!それなら私の勝ち?」
「…と言いたいところだけど、50円引きのチケットを使って1050円なーり!」
「えっ、ピタリ賞?!」
「そうでーす!私の勝ちね」
「えー、まさかのピタリ。ハルさん、お買い物上手!」
ワイワイ盛り上がっているうちに、あっという間に時間が経っていた。
「大変!もうスタンバイしなきゃ。それじゃあハルさん、先に行きますね」
「はーい!行ってらっしゃい。またあとでねー」
手を振るハルに瞳子も振り返してから、控え室をあとにした。
「皆様、本日は『ホーラ・ウォッチ』新作モデル発表イベントにようこそお越しくださいました」
以前と同じ吹き抜けのスペースに、瞳子のよく通る綺麗な声が響く。
にこやかに観客を見渡しながら、淀みなく語りかける口調は気品に溢れ、瞳子の華やかさや美しさも相まって思わず見とれてしまう。
「生き生きしてるな、瞳子ちゃん。やっぱり司会が好きなんだろうな」
吾郎の言葉に、隣の大河も同意する。
「ああ、そうだな。それに本当に司会に向いてる。一気に人の心を引きつける華やかなオーラが、彼女にはある」
Master of Ceremonies、と大河は小さく呟いた。
(そうだ、今の彼女はこの空間の支配者だ。彼女はそれだけの存在感と華を持っている)
凛とした佇まいの瞳子を見つめていると、ふいに耳に着けているインカムから、しゃがれた声が聞こえてきた。
『間宮さーん!そろそろ谷崎さんそっちに向かうけど、いいー?3分足らずで着くと思うんだけど』
またか!と大河は呆れる。
(司会者に、いいー?と聞いて返事が来ると思うのか?司会してる真っ最中だっつーの!気が散るわ!)
大河は瞳子に目配せして、インカムを外せというジェスチャーをする。
瞳子は一瞬だけ大河に苦笑いしてみせると、インカムを外した。
大河が指で2と指示を出し、小さく頷いた瞳子は、フリートークで2分繋いだ。
大河のOKのサインを見て、いよいよハルを紹介する。
「それではご紹介しましょう。ホーラ・ウォッチのイメージキャラクターを務める、女優の谷崎 ハルさんです。皆様、どうぞ大きな拍手でお迎えください!」
「こんにちは。よろしくお願いいたします」
真っ白なワンピースで現れたハルは、客席を笑顔で見渡してから、瞳子にはにかんだ笑みを向ける。
「うわ、可愛いなー。美女が二人。空気が浄化されるぜ」
「吾郎、気を抜くな。映像の準備は?」
「バッチリだって。ステージの上の瞳子ちゃんを、またまた感動させてやろうじゃないの」
そう言って、アートプラネッツのメンバー用のインカムで最終確認をする。
『透、そっちはどうだ?』
ピッという信号のあと『いつでもオッケー!』と透の声がした。
『了解。洋平はどうだ?』
『んー、1回システム落ちた』
ええ?!と吾郎が驚くが、洋平は平然と続ける。
『これくらい想定内だ。今、回復した。これでもう落ちないはず』
吾郎は、チラリと大河に視線をよこす。
「大丈夫だ、洋平だからな」
「ああ、確かに。透じゃないもんな」
ははっ!と思わず笑ってしまった時だった。
「おっ、確かあの子だよな?倉木アナの彼女」
「うひゃー、マジで可愛いな」
「写真撮ってネットに上げようぜ」
そう言って立ち止まった男の子二人が、大河と吾郎のすぐ近くでスマートフォンを瞳子に向ける。
「お客様。恐れ入りますがここは機材設置エリアでございます。直ちにご移動願います」
スッと前に立ちはだかり、有無を言わさぬ圧をかけながら大河と吾郎がジロリと睨むと、男の子達は慌てて離れていった。
「やれやれ。まだ噂は続いてるのか」
吾郎は心配そうにステージに目をやる。
ステージの上では、瞳子が楽しそうにハルとトークショーをしていた。
「今回の新作モデル『Snow White』は、文字通り、雪の白さという意味の他にも、白雪姫を指すこともありますね。谷崎さんはお肌も白くて、まさに白雪姫のイメージにピッタリです。いかがですか?新作モデルの『Snow White』を着けてみたご感想は」
「はい。文字盤がキラキラしてとても綺麗で、いつまでも見ていたくなります。パールホワイトのベルトも素敵ですし、気分に合わせてアイスブルーのベルトに付け替えることが出来るのもいいですよね」
「そうですね。この新作には付け替え用のアイスブルーのベルトが付属されています。その日の装いのアクセントにもなりますし、この季節ならではの色合いを楽しむことが出来ます。この『Snow White』を着けていれば、この冬は素敵な思い出が出来そうですね。それではこれより、『Snow White』の世界観をお楽しみいただけるプロジェクションマッピングを上映致します。谷崎さん、ご準備をお願いいたします」
「はい」
ハルがマイクを瞳子に渡して、ステージ中央に立つ。
瞳子が大河に目配せすると、大河はインカムでメンバーに合図を出した。
『スタンバイOK。照明ダウンまで5秒。4、3、2…スタート』
辺りが一気に群青色に染まる中、ハルの前に丸い光が現れる。
シャンシャン…と鈴の音がどこからともなく聞こえてきて、ハルは両手で光を掬って頭上に掲げた。
するとそこからパーッと光が放射線状に放たれ、皆は思わず目を細める。
やがて光は無数の輝くクリスタルとなって降り注ぎ、5階の吹き抜けの天井からトナカイの引くそりがやって来た。
クリスマスソングに合わせて、サンタクロースを乗せたそりは、空中を自由自在に飛び回る。
やがてハルのすぐ近くまで来ると、サンタクロースはハルにプレゼントを差し出した。
手を伸ばし、笑顔で受け取るハル。
と次の瞬間、ハルの着ていた真っ白なワンピースが、水色の雪の結晶柄に変わった。
いつの間に付け替えたのか、ハルの手首の時計も、アイスブルーのバンドに変わっている。
最後にショッピングモールの1階から5階までを使い、巨大なクリスマスツリーと雪景色が映し出された。
軽快なクリスマスソングがだんだん盛り上がり、トナカイとサンタクロースがまた空へと帰って行く。
残された大きなツリーとハルの笑顔。
そして曲の終わりと共に、
Merry Christmas!と大きな文字が浮かび上がった。
(ひゃー!素敵、綺麗!ハルさんの白いワンピースにもプロジェクションマッピングを投影したのね。もう大感激!)
ステージの隅で、瞳子は目を輝かせて映像に魅入る。
映像の映り具合を確認していた大河は、視界に入ってきた瞳子の子どものように無邪気な笑顔に、思わずふっと笑みをもらしていた。
「お疲れー。今回もなんとか無事に乗り切ったな」
「ああ。さすが洋平だな、いい作品だったよ」
「サンキュー。さてと、とっとと撤収しますか」
大河が洋平と観客席の後方で機材の片付けを始めると、後ろをバタバタと慌ただしく通り過ぎる足音がした。
「裏口から出るんじゃないか?お前、そっちに回ってくれ」
「分かった」
「出て来たところを捕まえて、カメラ回せ。何でもいいからコメント取れよ」
なんだ?と大河は声の主を振り返る。
マスコミの腕章を着けた男性が二人、カメラを手に去って行く。
(谷崎 ハルを追っかけてるのか?大変だな、芸能人は)
そう思いながら再び作業に戻ろうとして嫌な予感がした。
「洋平、悪い。ここ頼む」
「ああ。どうかしたか?」
「うん、ちょっとな。吾郎達と先に帰っててくれ」
手短に言い残すと、大河はマスコミ二人のあとを追う。
一人は出口から外へ出て行き、もう一人は観客席の後ろの柱に隠れるように身を潜めていた。
大河は脱いでいたスタッフジャンパーを再び羽織り、柱の近くでインカムに話しかけるフリをする。
「司会の間宮さん、取れますか?もう一度ステージ横に来てください」
すると柱にもたれていた男性がハッとしたように身を起こし、急いでカメラを構える。
(やっぱりか…)
大河は足早にその場を離れると、Staff Only と書かれたドアを開けてバックヤードに入った。
いくつか部屋が並んでいるが、瞳子の控え室がどこなのかは分からない。
誰かに聞こうかと辺りを見回していると、「じゃあ、またね!ハルさん」
と明るい声がして、少し先のドアから瞳子が出て来た。
先に挨拶回りをしていたらしく衣装のままで、近付いてきた大河を見て驚いたように目を見開く。
「大河さん?どうかしましたか?」
「ああ。もう帰れるか?」
「え?あ、はい」
「よし。すぐにオフィスに戻ろう」
大河のただならぬ雰囲気に戸惑いつつ、瞳子は控え室から荷物を持ってくると、大人しくあとをついていく。
バックヤードにあるエレベーターで地下一階まで下りると、そのまま駐車場へ向かった。
ドアを開けて辺りの様子をうかがうと、大河は瞳子を自分の背中にかばうようにして、車へ急ぐ。
助手席に瞳子を乗せ、自分も運転席に回ってドアを閉めると、ようやくホッとしたように息をついた。
「あの、大河さん?どうかしましたか?」
不思議そうに聞いてくる瞳子に、いや、何でもないと答えて、大河はエンジンをスタートさせた。
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