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「え? ちょっと待ってよ、今日は私の部屋で会う約束でしょ?」
お母さんと会う日、私の部屋でという話だったのに、何故かお母さんは自分の泊まっているホテルのレストランで会おうと言い出した。
「いや、そんな急に言われても……っていうか、何で見合い相手も連れて来るのよ?」
しかも、お母さんは私の見合い相手でもある友人の息子も同席させるつもりらしい。
「あ、ちょっと、お母さん!?」
結局、電話は一方的に切られてしまい、話をするには直接会うしかなくなった。
「どーした?」
私とお母さんの電話のやり取りを側で見いていた尚が声を掛けてくる。
「……お母さんが、見合い相手も同席させるからホテルのレストランで会おうって」
「はぁ? 何で見合い相手も居るんだよ?」
「そんなの、私が聞きたいわよ」
見合い相手が居る事も気にはなるが、今はそれより別の問題に直面していた。
「ってか、俺は男の姿で外になんて出ないぞ」
「……だよね」
それは、尚を同席させられないという事だ。
姿を隠している彼が、女装をせずに男の姿のまま外へ出る事はまずありえない。
けど、彼氏役として会うのに、女装した状態で会うわけにもいかない。
一体どうしたものか。
「……仕方ない、とりあえずあたし一人で行ってくるよ。多分、見合い相手と私を会わせればその場は満足だと思うし、それが終わったらお母さんだけ私の部屋に連れて来るから尚はここで待ってて」
「……分かった」
考えても良い案が浮かばなかった私はひとまず尚抜きで会ってくる事に決め、一人部屋を出た。
「は、初めまして」
「初めまして、磯貝 桐人です」
お母さんが泊まるホテルのレストランに着いた私は、お見合い相手の磯貝さんと対面した。
「夏子、あなたの彼氏はどうしたの?」
一緒に会うはずだった彼氏役の尚が居ない事を不思議に思ったお母さんがそう尋ねてくるも、
「あーうん、実は彼、急遽バイトが入っちゃって、夕方からじゃないと会えないんだ」
ここへ来るまでに用意した言い訳でその場を凌ぐ。
「あら、そうなの」
「うん。だからお母さん後で私と一緒にマンションまで来てよ。ね?」
「仕方ないわね」
何とかお母さんの方は納得させられた事にひと安心。
だけど、問題はまだ残っている。
「残念だなぁ、夏子さんの彼氏がどんな人か会ってみたかったんだけど」
磯貝さんの事をどうするかだ。
(何だか、私より十歳上って感じがしないくらい若いし……チャラい)
彼は私が想像していた人とはまるで正反対の人で、ちょっと苦手なタイプ。
「す、すみません、せっかく来ていただいたのに」
そもそも何故、見合い相手の磯貝さんが私の彼氏を見に来たのか謎だった。
「あ、ちょっと電話してくるから、二人で話しでもしてて」
すると突然お母さんは席を立って、私と磯貝さんの二人きりになってしまい若干気まずい空気が流れると、
「今日は夏子さんに会えて嬉しいよ。お母さんからお見合い相手って言われてると思うけど、そういうの抜きにして仲良く出来たら嬉しいなと思ってるからさ、よろしくね」
気を遣ってくれたのか、磯貝さんはそう言ってくれる。
それから話しを始めると、結構盛り上がった。
磯貝さんのお母さんと私のお母さんは学生時代の知り合いらしく、アメリカで偶然再会したらしい。
それから互いの子供の話になって、共にまだ結婚もしていないと知った二人は私と彼をお見合いさせようと話を進めたとか。
今日ここへ来たのは、たまたま近くで知り合いと会う約束があったとかで、そのついでにお見合い相手の私に会ってみたくて付いてきたのだと言った。