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磯貝さん曰く、お見合いについては異論はないけど、互いの気持ちが一番大切と思っているようで、『夏子さんには彼氏がいるようだし、断ってくれていいよ。その代わり、友達として付き合ってもらえたら嬉しいな』と言ってくれたのだ。
食事もしながら数時間程過ごした後、私たちはその場で別れた。
私はと言うと、お母さんと一緒にタクシーで自宅マンションへ向かっていた。
勿論、尚には連絡済みだ。
「あなたの彼、夏子の部屋で待ってるの?」
「うん、合い鍵渡してあるし」
「そう……」
合い鍵を渡している仲だと知り、お母さんは渋い顔をした。
恐らく尚が信頼出来る男なのか不安なのだろう。
マンションに着き、鍵を開けた私は少しだけ緊張しつつも、「ただいま」と声を掛けながら玄関のドアを開けた。
お母さんと尚を対面させると、意外にも尚はお母さんの好みだったようで、
「あらあら、随分格好良い男の子じゃない」
などと口にして、上機嫌になる。
「夏子のどこに惹かれたのかしら? 本当に夏子でいいの?」
年齢など尚に関する事を一通り聞いたお母さんは、私に対して失礼な質問まで尚にする始末。
「お母さん、そんな一度に色々聞いても、尚が困るから……」
「ああ、そうよね。ごめんなさいね、つい」
お母さんのパワフルさに若干戸惑い気味な尚だったけれど、徐々に打ち解けてくれたみたいでお母さんと楽しそうに会話をしてくれていた。
そんな二人の姿を見ながら、
(尚は彼氏じゃないし、こうしてお母さんと尚が話をする事も、これきっりなんだよね)
そう考えると、なんだか少し切なくなった。
数時間程尚や私と会話を楽しんだお母さんは上機嫌でホテルへと帰って行った。
「尚、今日はありがと」
「別に、礼を言われる程の事はしてねーよ。それに……結構楽しかったし」
私がお礼を口にすると、疲れてソファーに倒れ込んでいた尚は頭だけこちらに向けながら言った。
「楽しかったの?」
「ああ。夏子の母ちゃん面白いし、良い人だな」
母親の事を褒められると、何だか少しだけ嬉しくなる。
「尚のお母さんって、どんな人なの?」
興味を持った私は、ただ何気なく聞いてみた。
すると、尚は表情を変えぬまま、
「俺の母親……ねぇ。優しい人だったらしいけど、物心つく前にはいなかったから、よく分からねぇな」
と言った。
「え?」
意味がよく分からず、首を傾げると、
「俺、母親いないんだ。俺が物心つく前に、親父と離婚してる」
尚に言われ、私はやってしまったと思った。
「そ、そうだったんだ……ごめん」
知らなかったとはいえ、聞いてしまった事を申し訳なく思った私が謝ると、
「別に気にしてねぇよ」
言葉通り全く気にしてない様子で尚は言った。
何だか少しだけ気まずい空気になってしまい何か話さなきゃと思っていると、
「……なぁ夏子、少し俺の話、聞いてくれるか?」
突然、尚はそんな切り出し方で問い掛けてきた。
勿論、好奇心もあった。
だけど何よりも、少しだけ悲しげな表情を浮かべた尚の事が気なって、「何?」と聞き返していた。
「これは、他人に話した事ないから、身内以外知らない話なんだけど――」
という前置きをして、尚はある事を話始めた。