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心の中でわがままを言ってごめんなさい。
でも、私の炎が役に立てる時がやっと来たと思えた。
私は九尾としてどうしても、土蜘蛛と対決しなければならない。
「私は忌み子なんかじゃない。杜若環っ。帝都の剣の──妻っ」
いつの間にか手が震えていたけど、ぐっと抑え込んだ。
そうして私は車にすぐに乗り込み、土蜘蛛の居る大聖病院に向かうのだった。
※※※
俺は車から降りて、夜の街を駆けていた。
病院へと急ぐ道に緊急に敷かれたこの先立ち入り禁止の|柵坊壁《バリケード》と、警察官が立っていたが俺の顔を見ると何も言わず道を通してくれた。
|柵坊壁《バリケード》を越えると喧騒が遠ざかり、周囲が静かになった。
往来に落ちている下駄や帽子、人々が逃げ惑うときに落としたであろう物品が夜の道に不気味に影をつくっている。
この辺りは病院、市役所、銀行などが主で居住区は少ない。
「居住区だったら、もっと悲惨なことになっていただろうな」
はぁっと深く息を吐き、吸って、足を動かす。
額に|僅《わず》かな汗を感じたとき。
ギチギチと大縄を締め上げるような、耳障りで異様な音がするのに気がついた。
ざっと足を止める。
すると病院の屋根で、土蜘蛛が|蠢《うごめ》く異様な光景が百メートル手前ぐらいまで迫っていた。
土蜘蛛は相変わらず病院の屋根の上で止まっている。前に見たときよりも上回るその巨躯。時折り居心地が悪そうに巨躯を揺らして、屋根の上をゴソゴソと動いていた。
「何か攻撃をしている様子ではない。様子を伺っているように見えるな」
じっと土蜘蛛を見つめる。前は蜘蛛によく似た姿をしていたがこうして見ると、もはや蜘蛛の原型をしていなかった。
伝承に出てくる通りに、顔は鬼面。
体は見ているだけで、全身の毛が逆立つ黒と黄色の|斑目《まだらめ》模様。
その岩のような胴体はバスぐらいの大きさ。腹は水風船のように膨れ上がり。体を支える四肢は幾つも生え、百足のように大小の脚を忙しなく動かしていた。
「これは|頼光《らいこう》と|膝丸《ひざまる》が欲しいな」
大妖と相見えるまであと少し。はやる気持ちを整える。
土蜘蛛に動きがないのは何かを待っているのか、動けないのか。とにかくまた走り出そうとすると──。
「大きな気配はやっぱりお前やったな。遅いねん! 鷹夜っ。こっちや!」
横の道から|梔子《くちなし》|真守《さねもり》の声がした。
ぱっと視線をそちらにやると、白黒のムラがある髪色。
が特徴的で細身の男。
シャツにブラウンのベスト、ズボン。洋装を着こなした梔子家当主。真守がいた。
真守は前髪の半分を後ろに撫で付けた髪を乱しながら、白いシャツは腕まくりにしていた。
首元までしっかりと止められていたであろうシャツも、ボタン二つまで外されていた。
この几帳面な男が、このように姿が乱れているのはよっぽどの事態だと思った。
「真守っ! 現状を伝えろっ!」
俺も真守のもとへと駆け出し、がっと真守の肩を掴む。
真守はハァハァと大きく息をして、切れ長の灰色の瞳を俺に向ける。