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城プル
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FORSAKENの最奥、無機質な鉄壁に囲まれた完全なる密室。
部屋の中央には、不釣り合いなほど豪奢なアンティークテーブルが佇み、湯気を立てる紅茶と赤いシルクハットを模した砂糖菓子が並べられていた。
『退屈なデスゲームに、少々のスパイスを。ふたりで優雅なお茶会でも楽しみたまえ。……まあ、互いを喰らい尽くす惨劇になっても一興だがね』
天頂から響いたスペクターの気まぐれな声とともに、重厚な扉は固く閉ざされた。
外からの介入も脱出も不可能な、神の箱庭たる密室だ。
「ちっ……あの赤い帽子のバカ神が、余計なマネしやがって……!」
黒猫の獣人キラー・Gatitoは、背中の魚の骨柄パーカーを激しく揺らし、トゲ付きの腕輪をジャラジャラと鳴らして吐き捨てた。
緑のドミノクラウンの奥で赤い眼をギラつかせ、緑の大きな爪をシャキーンと剥き出しにして威嚇する。
「おいドブネズミ! 殺し合えってんだろ? 願ったり叶ったりだぜ! ここでてめぇをズタズタに切り刻んで、骨まで噛み砕いてやる!」
しかし、目の前でテーブルの紅茶に目をやっていた人型ネズミのサバイバー・Ratは、恐怖など露ほども見せなかった。
頭上のヘルメットとサングラスをクイッと指先で押し上げると、赤い服の上に羽織った白衣の裾を優雅になびかせ、Gatitoへと歩み寄る。
「やあやあ、狭い空間に猛獣とふたりきりか。密閉空間における検体の行動パターンと生理反応を記録するには、絶好のロケーションじゃないか!」
「話を聞けってんだよッ!」
Gatitoが強烈な爪撃を繰り出すが、狭い室内での間合いの詰め方は、マッドサイエンティストであるRatの計算通りだった。
すばしっこい身のこなしで斬撃を紙一重でかわすと、Ratは左手の赤手袋でGatitoの手首を拘束し、そのまま壁際へと強引に追い詰めた。
「なっ……何すんだ放せッ!」
「まずは基本データの収集からだ。……ふむ、手足の黒い毛並みは極めて密度が高く、保温性と流体耐性に優れているね。そして、この肉球だ」
「ひっ……!? どこ触ってんだバカ!!」
Ratは右手の黒手袋を脱ぎ捨て、生身の指先でGatitoの手のひらにあるプニプニとした緑色の肉球を、熱心に揉みほぐし始めた。
さらには腕の毛並みを逆撫でし、皮膚の温度や弾力を丹念に計測していく。
「あ……っ、ん、やめっ……! 弾力性を確認すんなッ! 触るな……くすぐったいッッ!!」
いつもならオラオラ系で威張っているGatitoだが、猫科特有の過敏な神経が集中する肉球や毛根を指先で丹念に捏ね回され、全身の力が抜けて悶絶する。
背中に柄の入ったパーカーがはだけ、半透明な胴体の奥で肋骨が激しく上下し、心臓がトク・トクと速い警鐘を鳴らし始めた。
「くそっ……ナメやがって……! ネズミの分際で……喰ってやる……ッ!」
屈辱と羞恥で顔を真っ赤に染めたGatitoは、プライドを振り絞って牙を剥いた。
拘束されていない方の手でRatの白衣を掴み寄せ、無防備に晒されたRatの首筋へと勢いよく噛みつこうと口を開ける。
天敵として、捕食者として、この生意気なネズミの喉元を噛みちぎる――はずだった。
ガツ、と牙が届く直前。
Ratは避けるどころか、自ら一歩踏み込んで距離をゼロにした。
右腕でGatitoのしなやかな腰を引き寄せ、左腕でその背中をガチリと包み込む。逃げ場を完全に奪う、深く、力強い抱擁。
「なッ……!?」
首元に触れたのは鋭い歯ではなく、熱い吐息だった。
そのまま逃がさないようにGatitoの身体を深く抱きかかえたRatは、耳元へと顔を寄せた。
至近距離で囁かれる、低く甘い、そして狂気に満った声。
「――食べたいの? それとも……僕に食べられたいの?」
「っ~~~~~!?」
Gatitoの脳内で、何かが爆発音を立てて吹き飛んだ。
耳元をくすぐる吐息と、背中から伝わる体温。
そして、「捕食する側のキラー」であるはずの自分が、いまや「ネズミ」の腕の中で完全に逃げ場を失い、組み伏せられているという決定的な事実。
噛みつこうとしていたGatitoの顎が、ガタガタと震え出す。
赤い眼は動揺で潤み、緑のドミノクラウンの影で真っ赤になった耳が、ペタリと弱々しく寝そべった。
「な、なに……言って……」
「君のその透ける胴体…、美しい肋骨が必死に空気を求めて軋んでいる。僕を噛みちぎりたいはずの君の体が……こんなにも僕の腕の中で喜んで震えているじゃないか」
「ちが……っ、これは……怒りで……っ」
「強がらなくていいよ、Gatito。君がどちらを望んでいても……僕は君を骨の髄まで『解剖』してあげるからね」
密室の静寂の中、本能的な立場は完全に逆転していた。
狩る者と狩られる者の境界線は溶けて消え、恐怖と快感の狭間で翻弄される黒猫と、それを愛おしそうに深く抱きしめる狂気のネズミ。
その様子をモニター越しに覗き込んでいたスペクターは、愛用の赤いシルクハットを傾けながら、満足の笑みを浮かべるのだった。