いや、あの…本当にごめんなさい、いや、別に忘れてたとかじゃなくて…。
忘れてたんですけど…。
ブリテンの名に免じてなんとかかんとか…許して~…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーキリトリーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あぁ!我ながら上手くできたな、さすが俺…って、失礼。
レディの前で自画自賛だなんて…格好が付かないな…」
「なんだか、君といると心のうちが全部出てきそうなんだ…。」
そういう甘ったるいセリフを、顔を1つとして崩さずに言う。
全くこいつは、何人の女性を前に、同じ言葉を掛けてきたのだろう。
“ …ほんと、ムカつく。 “
「ん?何か言った?」
” あ、いえ…。貴方の料理、本当に美味しかったわ。
兄にも食べさせてあげたいぐらいにね。”
「そりゃ光栄だ。
…ねぇ、君のこと、もっと知りたいんだけど。
君みたいな女性は、今までに…。そうだね、会ったことない。俺、気になってきちゃった。
ほら、丁度良いワインがあるんだ。 」
また、今日も一夜の関係を築こうとしているんだ。
相手のことを知り、悩みを吐かせ、同情する。
よくやる手口だ。あいつも、俺も。
…あぁ、お前が俺を落とそうと言うのなら、こっちだってやってやろうじゃねぇか。
そうだな…。1つ、勝負といこうか。
“ 私のこと…?ふふ、やっぱりラテンの方は情熱的なのね。
でも、私だけが話すなんて、あまりにもアンフェアじゃない?”
「…あは!やっぱり君は、聡明な人だ。」
グラスに次がれたワインはあいつの足音と共に揺れる。
ワインレッドの光沢の先に、お高くとまったレディが一人。
あの髭は、その難攻不落で、英明な俺好みのレディがお気に召したようだ。
バルコニーからは風が吹き抜け、パリの夜を肌に感じさせる。
「À ta santé .」
“ Cheers . “
グラスが重なる音と同時に、もう1つの夜が始まる。
それは俺にとって、戦いのゴングと同じようなものだ。
” …まぁ、先に私が話すのが礼儀ね。
お昼にも言ったけど、私の名前はロージー・ホームズ 。
探偵は…好きだけれど、シャーロックとは関係ないわ。
兄が一人いて、この地で画家をやってる。…といっても、誰も名前なんて知らないわ。
家はコッツウォルズにあるの。ロンドンみたいな都会ではないけれど、皆温かくて素敵なところよ。
裁縫も捗るし…。たまにリスが来るの。
…そう、庭でバラや苺なんかを育ててるわ。それで紅茶を入れたりスイーツを…。
みんな、私の料理は下手だっていうから、一人で食べているんだけどね。”
“ どう?お気に召したかしら。 “
我ながらこうもすらすらと虚偽を並べられると感心した。
それもそう、こういうときに必要なのは嘘を言わないこと。
自分が知っている分野を言えば、相手だって疑わない。
今の俺は性別さえ違うのだから、本当のことを言ったって何ら問題はないのだ。
こんなパリにはそうそういない、田舎上がりの奥ゆかしい女性の出来上がり。
” …ねぇ、次は貴方の番よ、フランシスさん?”
「あ、あぁ…。いや、不思議なもんだな。
俺の知り合いによく似てるんだよ。
自分の近くの人に似ている人をす気になる、とは言うけれど、ここまでとは…。 」
「そうだね、じゃあ俺のことについても話そうか…。」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!