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「……っ……」
呼吸が、浅い。
視界が、暗く滲む。
アルトは、膝をついていた。
胸を貫かれた痛みが、遅れて全身に広がる。
「……は……っ」
血が、こぼれる。
それでも、倒れないように必死に踏みとどまる。
その前に――
シオンが立っている。
「……まだ立つか」
静かな声。
アルトは、かすかに笑う。
「……立たないと、だろ」
声が掠れる。
それでも、目は逸らさない。
「……お前、変わったな」
シオンが言う。
「前は、もっと迷ってた」
「……うるさい」
アルトは、息を吐く。
「今は違う」
その言葉に、嘘はない。
シオンは、少しだけ目を細める。
「……そうか」
短く答える。
その顔に――
ほんの一瞬だけ、影が差す。
「じゃあ」
剣を、持ち上げる。
「ここで終わりだ」
アルトの視界が、揺れる。
意識が、遠のく。
それでも。
「……やめろ」
絞り出すように言う。
「もうこれ以上……壊すな……」
シオンの手が、わずかに止まる。
ほんの一瞬。
でも、すぐに振り切る。
「……壊すためじゃない」
低く、呟く。
「壊れないようにするためだ」
その顔は――
苦しそうだった。
まるで、自分に言い聞かせているみたいに。
剣が、振り下ろされる。
その瞬間――
「――やめて!!」
光が、弾けた。
シオンの身体が、大きく弾き飛ばされる。
「……っ!」
地面を滑り、体勢を崩す。
その前に――
フィリアが立っていた。
光を纏い、花を咲かせたまま。
「……フィリア……」
アルトの声が、かすれる。
フィリアは、振り返る。
「……遅れて、ごめん」
その声は、震えていた。
でも、強かった。
すぐに、膝をつく。
アルトのそばへ。
「……喋らないで」
優しく、でも急ぐように言う。
その手が、アルトの胸へ触れる。
光が、溢れる。
花びらのような粒子が、傷口へと吸い込まれていく。
「……すぐ、治す」
アルトは、ぼんやりとそれを見つめる。
「……綺麗だな」
ぽつりと呟く。
フィリアの手が、わずかに止まる。
「……今それ言う?」
少しだけ怒った声。
でも、その奥に安心が滲む。
「……だって」
アルトは、かすかに笑う。
「ほんとに……綺麗だから」
フィリアは、一瞬だけ目を伏せる。
「……ばか」
小さく言う。
でも、その手は止めない。
光が、さらに強くなる。
傷が、ゆっくりと塞がっていく。
命を繋ぎ止めるように。
「……もう、大丈夫。」
やがて、フィリアが息を吐く。
アルトの呼吸が、安定する。
「……ありがとう」
小さな声。
フィリアは、首を振る。
「あとでいい」
そして。アルトは意識を失った。
ゆっくりと立ち上がる。
その瞳が、シオンへ向く。
「……許さない」
静かな声。
でも。
空気が、震える。
「……アルトを、あんなふうにしたの」
その言葉は、怒りだった。
シオンは、ゆっくりと立ち上がる。
土埃を払う。
「……間に合ったか」
「間に合わせた」
即答。
フィリアが一歩踏み出す。
「もう、止めて」
シオンは、その姿を見る。
花を咲かせた存在。
完成に最も近い、力。
「……やっぱり、必要だな」
ぽつりと呟く。
フィリアの目が、鋭くなる。
「……黙って」
次の瞬間。
衝突。
フィリアの攻撃は、美しかった。
光が舞い、花びらが軌跡を描く。
一つ一つが、圧倒的な威力。
シオンは、防ぐ。
だが――
「……っ」
押される。
確実に。
「……強いな」
小さく呟く。
フィリアは止まらない。
「終わらせる」
その一撃は、迷いがない。
シオンの身体が、大きく揺れる。
膝が、わずかに沈む。
「……このままじゃ」
シオンが、低く呟く。
「足りないな」
その瞬間。
空気が、変わる。
光が、消える。
いや――
“削ぎ落とされる”。
フィリアの華やかな光とは対照的に。
シオンの周囲から、余分なものが消えていく。
色が、薄れる。
音が、遠のく。
まるで、世界そのものが無機質になるように。
「……それが、あなたの形なの?……」
フィリアが呟く。
シオンの姿が、変わる。
植物のような要素は残っている。
だが、それは“装飾”ではない。
ただ機能だけを残した、無骨な形。
刃は、より鋭く。
光は、より冷たく。
「……無駄を、削いだだけだ」
シオンが言う。
その声には、感情がほとんど乗っていない。
「壊れる原因は、全部排除する」
その目は――
静かすぎた。
フィリアの光が、揺れる。
「……そんなの」
一歩踏み出す。
「生きてない」
シオンは、わずかに目を細める。
「だから、壊れない」
その言葉と同時に。
衝突。
光と無色が、ぶつかる。
花が舞う。
刃が走る。
今度は――
互角。
完全に。
フィリアの美しさと、
シオンの冷たさが。
真っ向から、ぶつかり合う。
戦いは、まだ終わらない。
ただ。
世界の中心で。
ふたりは、確かに対峙していた。