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397
#オリジナル
めんだこ
「……っ……」
呼吸が、浅い。
視界が、暗く滲む。
アルトは、膝をついていた。
胸を貫かれた痛みが、遅れて全身に広がる。
「……は……っ」
血が、こぼれる。
それでも、倒れないように必死に踏みとどまる。
その前に――
シオンが立っている。
「……まだ立つか」
静かな声。
アルトは、かすかに笑う。
「……立たないと、だろ」
声が掠れる。
それでも、目は逸らさない。
「……お前、変わったな」
シオンが言う。
「前は、もっと迷ってた」
「……うるさい」
アルトは、息を吐く。
「今は違う」
その言葉に、嘘はない。
シオンは、少しだけ目を細める。
「……そうか」
短く答える。
その顔に――
ほんの一瞬だけ、影が差す。
「じゃあ」
剣を、持ち上げる。
「ここで終わりだ」
アルトの視界が、揺れる。
意識が、遠のく。
それでも。
「……やめろ」
絞り出すように言う。
「もうこれ以上……壊すな……」
シオンの手が、わずかに止まる。
ほんの一瞬。
でも、すぐに振り切る。
「……壊すためじゃない」
低く、呟く。
「壊れないようにするためだ」
その顔は――
苦しそうだった。
まるで、自分に言い聞かせているみたいに。
剣が、振り下ろされる。
その瞬間――
「――やめて!!」
光が、弾けた。
シオンの身体が、大きく弾き飛ばされる。
「……っ!」
地面を滑り、体勢を崩す。
その前に――
フィリアが立っていた。
光を纏い、花を咲かせたまま。
「……フィリア……」
アルトの声が、かすれる。
フィリアは、振り返る。
「……遅れて、ごめん」
その声は、震えていた。
でも、強かった。
すぐに、膝をつく。
アルトのそばへ。
「……喋らないで」
優しく、でも急ぐように言う。
その手が、アルトの胸へ触れる。
光が、溢れる。
花びらのような粒子が、傷口へと吸い込まれていく。
「……すぐ、治す」
アルトは、ぼんやりとそれを見つめる。
「……綺麗だな」
ぽつりと呟く。
フィリアの手が、わずかに止まる。
「……今それ言う?」
少しだけ怒った声。
でも、その奥に安心が滲む。
「……だって」
アルトは、かすかに笑う。
「ほんとに……綺麗だから」
フィリアは、一瞬だけ目を伏せる。
「……ばか」
小さく言う。
でも、その手は止めない。
光が、さらに強くなる。
傷が、ゆっくりと塞がっていく。
命を繋ぎ止めるように。
「……もう、大丈夫。」
やがて、フィリアが息を吐く。
アルトの呼吸が、安定する。
「……ありがとう」
小さな声。
フィリアは、首を振る。
「あとでいい」
そして。アルトは意識を失った。
ゆっくりと立ち上がる。
その瞳が、シオンへ向く。
「……許さない」
静かな声。
でも。
空気が、震える。
「……アルトを、あんなふうにしたの」
その言葉は、怒りだった。
シオンは、ゆっくりと立ち上がる。
土埃を払う。
「……間に合ったか」
「間に合わせた」
即答。
フィリアが一歩踏み出す。
「もう、止めて」
シオンは、その姿を見る。
花を咲かせた存在。
完成に最も近い、力。
「……やっぱり、必要だな」
ぽつりと呟く。
フィリアの目が、鋭くなる。
「……黙って」
次の瞬間。
衝突。
フィリアの攻撃は、美しかった。
光が舞い、花びらが軌跡を描く。
一つ一つが、圧倒的な威力。
シオンは、防ぐ。
だが――
「……っ」
押される。
確実に。
「……強いな」
小さく呟く。
フィリアは止まらない。
「終わらせる」
その一撃は、迷いがない。
シオンの身体が、大きく揺れる。
膝が、わずかに沈む。
「……このままじゃ」
シオンが、低く呟く。
「足りないな」
その瞬間。
空気が、変わる。
光が、消える。
いや――
“削ぎ落とされる”。
フィリアの華やかな光とは対照的に。
シオンの周囲から、余分なものが消えていく。
色が、薄れる。
音が、遠のく。
まるで、世界そのものが無機質になるように。
「……それが、あなたの形なの?……」
フィリアが呟く。
シオンの姿が、変わる。
植物のような要素は残っている。
だが、それは“装飾”ではない。
ただ機能だけを残した、無骨な形。
刃は、より鋭く。
光は、より冷たく。
「……無駄を、削いだだけだ」
シオンが言う。
その声には、感情がほとんど乗っていない。
「壊れる原因は、全部排除する」
その目は――
静かすぎた。
フィリアの光が、揺れる。
「……そんなの」
一歩踏み出す。
「生きてない」
シオンは、わずかに目を細める。
「だから、壊れない」
その言葉と同時に。
衝突。
光と無色が、ぶつかる。
花が舞う。
刃が走る。
今度は――
互角。
完全に。
フィリアの美しさと、
シオンの冷たさが。
真っ向から、ぶつかり合う。
戦いは、まだ終わらない。
ただ。
世界の中心で。
ふたりは、確かに対峙していた。
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