テラーノベル
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ぶつかり合うたびに、世界が軋んだ。
光が砕け、無色が裂ける。
フィリアの花は散り、シオンの刃は欠ける。
それでも――
二人は止まらなかった。
「……っ!」
フィリアが踏み込む。
光が弾け、花が舞う。
「……まだだ」
シオンが受け止める。
刃が軋み、地面が割れる。
互角。
ずっと、互角。
どちらも譲らない。
どちらも、壊れかけているのに。
フィリアの息は荒く、肩が上下している。
光はまだ美しい。
けれど、さっきよりも――どこか、揺れている。
シオンも同じだった。
その身体は削れ、形を保つのがやっと。
「……まだ、やるの」
フィリアが問う。
シオンは、短く息を吐く。
「……やる」
その声は、かすれていた。
「ここで止めたら……全部、無駄になる」
フィリアの目が揺れる。
「……そんなことない」
一歩、近づく。
「壊さなくても、やり直せる」
シオンは、首を振る。
「無理だ」
「壊れる」
その言葉は、祈りみたいに重かった。
沈黙。
風が、吹く。
そして――
二人は同時に理解する。
「……もう一回」
フィリアが呟く。
「……ああ」
シオンも応える。
これ以上ない、最後の一歩。
最後の“覚醒”。
フィリアの光が、さらに開く。
花が、咲き乱れる。
それはもはや“美しい”を超えていた。
世界そのものが、咲いているような――
命の洪水。
一方で。
シオンは、さらに削ぎ落とされる。
光も、音も、感情すら。
極限まで削り、残ったもの。
それは――
“壊れない意志”だけ。
衝突。
音が、消える。
ただ、存在だけがぶつかる。
時間が、引き延ばされる。
どれくらい、そうしていたのか。
わからない。
やがて。
「……っ……」
シオンの膝が、地面についた。
かすかな音。
フィリアの動きが止まる。
「……終わり?」
息を整えながら、問う。
シオンは、顔を上げる。
その目は――
揺れていた。
初めて。
確かに。
「……なんで」
ぽつりと呟く。
「なんで……そんなに、壊れないんだ」
フィリアは、少しだけ目を細める。
「壊れるよ」
静かに言う。
「でも」
胸に手を当てる。
「それでも、いいって思えるから」
シオンの呼吸が、乱れる。
「……そんなの」
言葉が、続かない。
フィリアが、もう一歩近づく。
「ねえ」
やわらかく、でも逃がさない声。
「ひとりで全部やろうとしたでしょ」
シオンの肩が、震える。
「……だって」
かすれた声。
「壊れたら……終わりだろ」
フィリアは、首を振る。
「違う」
「壊れたら、誰かが拾う」
「だから、繋がる」
シオンの目から、雫が落ちる。
「……そんなの」
「知らなかった」
静寂。
フィリアは、剣を構える。
終わらせるために。
シオンは、動かない。
受け入れるように。
そのとき――
「……もうやめろー!」
震える声が、割り込んだ。
フィリアの動きが止まる。
振り返る。
アルトが、立っていた。
傷は塞がっている。
でも、その顔は――
涙でぐしゃぐしゃだった。
「……もう、いいよ」
一歩、近づく。
「これ以上……誰も壊れなくていい」
シオンが、ゆっくりとアルトを見る。
その目に――
涙が浮かぶ。
「……アルト」
名前を呼ぶ。
それだけで、声が崩れる。
シオンの身体が、揺らぐ。
崩れ始める。
「……ああ」
小さく、笑う。
「やっぱり……無理か」
フィリアが、息を呑む。
アルトが駆け寄る。
「シオン!」
崩れ落ちる身体を、抱きとめる。
「……悪いな」
シオンが、弱く笑う。
「人間のままじゃ……ここまでだ」
その声は、もう消えかけている。
ふと。
シオンが、口を開く。
歌。
あの歌。
かすれた声で、紡ぎはじめる。
アルトの目が、見開かれる。
「……なんで」
涙が、溢れる。
でも。
すぐに、応える。
震える声で。
歌う。
その旋律に、重ねるように。
フィリアは、立ち尽くしていた。
その光景を、見つめながら。
胸が、締め付けられる。
「……っ」
涙が、こぼれる。
でも。
気づけば――
自分も、歌っていた。
三つの声が、重なる。
壊れかけた世界で。
それでも、確かに響く。
歌が、終わる。
静寂。
シオンが、ゆっくりと目を閉じる。
「……ごめん」
小さく、呟く。
「……ありがとう」
視線を、フィリアへ。
フィリアの涙が、止まらない。
「……うん」
それしか、言えない。
シオンは、またアルトを見る。
「……間違ってたな」
かすかに笑う。
「壊れない世界なんて……つまらない」
アルトが、首を振る。
「……でも、お前がいたから」
言葉が詰まる。
それでも続ける。
「ここまで来れた」
シオンは、目を細める。
「……そっか」
ほんの少しだけ。
昔みたいに、笑う。
「……じゃあ、あとは頼む」
その声が、消える。
光が、ほどける。
静かに。
静かに――
シオンは、消えた。
風が吹く。
花びらが、舞う。
アルトは、その場に座り込む。
腕の中には、もう何もない。
フィリアが、そっと隣に来る。
何も言わない。
ただ、同じ空を見上げる。
歌の残響だけが、そこに残っていた。