テラーノベル
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397
#オリジナル
めんだこ
ぶつかり合うたびに、世界が軋んだ。
光が砕け、無色が裂ける。
フィリアの花は散り、シオンの刃は欠ける。
それでも――
二人は止まらなかった。
「……っ!」
フィリアが踏み込む。
光が弾け、花が舞う。
「……まだだ」
シオンが受け止める。
刃が軋み、地面が割れる。
互角。
ずっと、互角。
どちらも譲らない。
どちらも、壊れかけているのに。
フィリアの息は荒く、肩が上下している。
光はまだ美しい。
けれど、さっきよりも――どこか、揺れている。
シオンも同じだった。
その身体は削れ、形を保つのがやっと。
「……まだ、やるの」
フィリアが問う。
シオンは、短く息を吐く。
「……やる」
その声は、かすれていた。
「ここで止めたら……全部、無駄になる」
フィリアの目が揺れる。
「……そんなことない」
一歩、近づく。
「壊さなくても、やり直せる」
シオンは、首を振る。
「無理だ」
「壊れる」
その言葉は、祈りみたいに重かった。
沈黙。
風が、吹く。
そして――
二人は同時に理解する。
「……もう一回」
フィリアが呟く。
「……ああ」
シオンも応える。
これ以上ない、最後の一歩。
最後の“覚醒”。
フィリアの光が、さらに開く。
花が、咲き乱れる。
それはもはや“美しい”を超えていた。
世界そのものが、咲いているような――
命の洪水。
一方で。
シオンは、さらに削ぎ落とされる。
光も、音も、感情すら。
極限まで削り、残ったもの。
それは――
“壊れない意志”だけ。
衝突。
音が、消える。
ただ、存在だけがぶつかる。
時間が、引き延ばされる。
どれくらい、そうしていたのか。
わからない。
やがて。
「……っ……」
シオンの膝が、地面についた。
かすかな音。
フィリアの動きが止まる。
「……終わり?」
息を整えながら、問う。
シオンは、顔を上げる。
その目は――
揺れていた。
初めて。
確かに。
「……なんで」
ぽつりと呟く。
「なんで……そんなに、壊れないんだ」
フィリアは、少しだけ目を細める。
「壊れるよ」
静かに言う。
「でも」
胸に手を当てる。
「それでも、いいって思えるから」
シオンの呼吸が、乱れる。
「……そんなの」
言葉が、続かない。
フィリアが、もう一歩近づく。
「ねえ」
やわらかく、でも逃がさない声。
「ひとりで全部やろうとしたでしょ」
シオンの肩が、震える。
「……だって」
かすれた声。
「壊れたら……終わりだろ」
フィリアは、首を振る。
「違う」
「壊れたら、誰かが拾う」
「だから、繋がる」
シオンの目から、雫が落ちる。
「……そんなの」
「知らなかった」
静寂。
フィリアは、剣を構える。
終わらせるために。
シオンは、動かない。
受け入れるように。
そのとき――
「……もうやめろー!」
震える声が、割り込んだ。
フィリアの動きが止まる。
振り返る。
アルトが、立っていた。
傷は塞がっている。
でも、その顔は――
涙でぐしゃぐしゃだった。
「……もう、いいよ」
一歩、近づく。
「これ以上……誰も壊れなくていい」
シオンが、ゆっくりとアルトを見る。
その目に――
涙が浮かぶ。
「……アルト」
名前を呼ぶ。
それだけで、声が崩れる。
シオンの身体が、揺らぐ。
崩れ始める。
「……ああ」
小さく、笑う。
「やっぱり……無理か」
フィリアが、息を呑む。
アルトが駆け寄る。
「シオン!」
崩れ落ちる身体を、抱きとめる。
「……悪いな」
シオンが、弱く笑う。
「人間のままじゃ……ここまでだ」
その声は、もう消えかけている。
ふと。
シオンが、口を開く。
歌。
あの歌。
かすれた声で、紡ぎはじめる。
アルトの目が、見開かれる。
「……なんで」
涙が、溢れる。
でも。
すぐに、応える。
震える声で。
歌う。
その旋律に、重ねるように。
フィリアは、立ち尽くしていた。
その光景を、見つめながら。
胸が、締め付けられる。
「……っ」
涙が、こぼれる。
でも。
気づけば――
自分も、歌っていた。
三つの声が、重なる。
壊れかけた世界で。
それでも、確かに響く。
歌が、終わる。
静寂。
シオンが、ゆっくりと目を閉じる。
「……ごめん」
小さく、呟く。
「……ありがとう」
視線を、フィリアへ。
フィリアの涙が、止まらない。
「……うん」
それしか、言えない。
シオンは、またアルトを見る。
「……間違ってたな」
かすかに笑う。
「壊れない世界なんて……つまらない」
アルトが、首を振る。
「……でも、お前がいたから」
言葉が詰まる。
それでも続ける。
「ここまで来れた」
シオンは、目を細める。
「……そっか」
ほんの少しだけ。
昔みたいに、笑う。
「……じゃあ、あとは頼む」
その声が、消える。
光が、ほどける。
静かに。
静かに――
シオンは、消えた。
風が吹く。
花びらが、舞う。
アルトは、その場に座り込む。
腕の中には、もう何もない。
フィリアが、そっと隣に来る。
何も言わない。
ただ、同じ空を見上げる。
歌の残響だけが、そこに残っていた。
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