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貴方視点
夜の訓練場は、ひどく静かだった。
破壊されたコンクリートの匂いがまだ残っていて、照明の白さがやけに冷たい。
保科「……動き、ちょっと硬いな」
背後から聞こえた関西弁に、私は思わず姿勢を正す。
副隊長・保科宗四郎。いつの間にか、すぐ後ろに立っていた。
保科「力は足りてる。でも――怪獣相手やと、“一瞬の迷い”が命取りや」
刀を肩に担いだまま、彼はあなたの目を見る。からかうようでいて、視線は鋭い。
あなたが言葉を探していると、保科副隊長は小さく笑った。
保科「大丈夫や。怖いのは、ちゃんと生きようとしてる証拠やから」
そう言って、彼はあなたの手首を軽く取る。
驚くほど優しい力で、構えを修正された。
保科「ほら。相手を見るんやなくて、“斬る場所”を見る」
距離が近い。
戦場では許されないほど近いのに、不思議と落ち着く。
模擬怪獣が動いた瞬間、あなたの体は自然と前に出た。
刃が振り抜かれ、確かな手応えが返ってくる。
保科「……今の、ええやん」
振り返ると、保科副隊長は満足そうに目を細めていた。
でもすぐ、いつもの軽い調子に戻る。
「まあ、俺がおるうちは死なせへんから。安心して前出てき」
その言葉は冗談みたいで、でも――
この人が言うと、妙に信じられた。
夜風が吹き抜ける。
怪獣との戦いは終わらない。
それでも、隣にこの人がいる限り、私は刀を握れる気がした。
保科視点
夜の訓練場は相変わらず落ち着かへん。
怪獣の残滓の匂いが、まだ空気に残っとる。
俺は刀を肩に担いだまま、少し離れた場所でお前の動きを見てた。
悪くない。才能もある。せやけど——
保科「……あかんな」
つい口に出てもうた。
俺の声に気づいて、お前がびくっと肩を揺らす。
その反応だけで分かる。集中しすぎて、周りが見えてへん。
保科「力、入れすぎや。そんなんやと長持ちせえへんで」
近づくと、お前は悔しそうに唇を噛んだ。
その顔、戦場で何度も見てきた。
生き残りたいって必死な顔や。
保科「……怖いんやろ」
図星やったんやろな。
何も言わへん代わりに、視線だけが揺れた。
俺は溜息ひとつついて、お前の前に立つ。
保科「ええねん。それで。怖ない奴の方が、よっぽど信用できへん」
そう言いながら、お前の手首に触れて構えを直す。
刃の角度、重心、踏み込みの位置。
保科「見るんは相手全体ちゃう。“斬る一点”だけや」
距離が近い。
戦場やのに、やけに静かで、心臓の音まで聞こえそうや。
模擬怪獣が動いた瞬間、俺は一歩下がる。
見守る側に回るんは、正直あんまり好きやない。
——けど。
お前は迷わへんかった。
刃は真っ直ぐ、綺麗に振り抜かれて、確かな感触が空気を裂く。
保科「……今のは、文句なしや」
思わず、口元が緩んだ。
お前が振り返った時の、少し驚いた顔。
その表情を見ると、胸の奥がちくっとする。
保科「勘違いすんなよ。甘やかしてるわけやない」
そう前置きしてから、俺は言う。
保科「せやけどな——俺がおる間は、死なせへん」
冗談みたいな言い方やったかもしれへん。
でも、これは本気や。
副隊長としてやなく、一人の剣士として。
そして——
保科「せやから、もっと前出てこい。俺が後ろ、全部斬る」
夜風が吹く。
怪獣との戦いは、これからも続く。
それでも。
お前が俺の視界におる限り、俺の刃は一切鈍らへん。