コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
タクトは歩きながら、海の音を聞いていた。波が岸辺に打ち寄せ、白い泡が砂浜を浸し、涼しい海風が肌を撫でる。今日は一見、穏やかな日常が広がっているかのように見える。しかし、内心はまったく別だった。相手はルシファー、あの絶対的な存在。常に冷徹で計算高い、法の支配者であり、神の座にあった男だ。だが今日は、ちょっとした小道を選んだ。
海はまるで、彼の力を試すかのように静かに広がっている。タクトは少し足を止め、海の先に立つルシファーを見つめた。その姿は変わらず威圧的で、遠くからでもその気配を感じることができる。
ルシファーは、目を閉じて海風を感じているかのようだったが、実際には全身が常に注意を払っていることを知っている。タクトが近づくにつれて、彼はふと一度目を開けた。
「何の用だ、タクト。」
彼の声は冷たく、その奥には興味が隠されていた。ルシファーは戦士ではなく、全てを法に置き換える存在だ。だからこそ、タクトの「警告」やその自由な発想が気に入らなかったのだろう。
タクトは軽く笑みを浮かべた。
「海でも見に来た。お前も景色に疲れたんだろ?」
それがどうでもいいことのように、ルシファーはまったく表情を変えない。
「無駄だ。」と、彼はつぶやきながら、砂に手を伸ばした。ルシファーはすっと指先に白い粉をつけ、そのまま立ち上がった。
塩化ナトリウム――つまり、普通の塩だ。タクトはその光景をじっと見つめ、少し意地悪に、口元を歪めて言った。
「おいおい、そんなもんつけて、どうしたんだ? それが神の力なのか?」
タクトは挑発的な態度で言葉を投げかける。確かに、この場においても、ルシファーは神に近い存在であり、その姿勢からも、言葉が突き刺さることを期待していた。しかし、ルシファーはただ一度、軽く塩を払いのけただけだった。反応は薄い。タクトの挑発を意に介さず、その後も何事もなかったかのように海の方を見つめていた。
「それがどうした。」 ルシファーの声は冷たく響く。「塩など、無意味だ。これはただの象徴だ。」
タクトはその言葉を聞いて少し首を傾げた。
「象徴?」 彼の目が輝く。「ああ、つまり――?」
「この塩はな、タクト。」ルシファーはゆっくりと言葉を続けた。「私がここに来た理由と関係がある。」
タクトはその言葉に不安を覚えた。いったい何の意味があるのだろう。だが、その時、ルシファーが静かに目を開け、言葉を続けた。
「『浄化』の象徴だ。」 ルシファーは砂浜を見つめながら淡々と説明する。「塩は、汚れを浄化するものだ。だが、私にはそれすらも意味がない。」
その冷徹さと計算に満ちた言葉に、タクトは少し戸惑いを隠せなかった。だが自分を取り戻し、再び挑発的に言葉を投げた。
「でも、お前はそれを触ってるじゃないか。浄化できないってことだろ?」
ルシファーは、タクトの言葉に対してほんの少しだけ目を細めたが、すぐにその鋭い眼差しに戻った。
「あなたにとって、私が意味を持たないのと同じように、私にとっても、あなたの言葉には意味がない。」
その冷徹な言葉が、再びタクトのを刺す。だが、それでもタクトは引かなかった。今ここで勝者を決めるのは、まだ早い。
「だとしても、結局お前も俺と戦わなければならないんだろ? そんなふうに、意味を無視していたら、お前はついにひとりになってしまうぞ。」タクトは淡々と語る。「いずれにしても、今の段階じゃ、俺の方がはるかに有利だ。」
ルシファーは、再びタクトをじっと見つめ、そしてゆっくりと笑みを浮かべた。
「それがどうした。戦うことは必然だ。だが、結局、私が勝つ。それが法だ。」
その言葉に、タクトは少し黙り込んだ。だが、すぐに笑みを浮かべて言った。
「その法を覆してやるよ。」
そして、タクトは新たな警告を作り出す。それは、単なる言葉の威力を超えたものになるだろう。ルシファーの冷徹さに、何かが引っかかる。しかし、ルシファーはそれをさらりと受け流した。