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次第に空は黒く染まり、園内は月明かりで照らされ始める。そろそろ閉園のアナウンスが流れる頃だろう。君は相変わらず目を合わせようとせずに、俯き黙り込んでいる。
「喉乾いちゃったね。飲み物だけ買ってくるから、ちょっとだけ待っててもらえる?」
そう言って僕が席を立とうとした瞬間、君は慌てて僕のシャツを掴んで僕の方を見つめた。
「いやだ…。ひとりにしないで…。」
「やっと、目があったね。だいぶ落ち着いてきたかい?」
今度は僕の目をじっと見つめながら、深く深呼吸をしたあとで君は重たい口を開いた。
「あのね、君に言っておかないといけないことがあるの。」
君のあまりにも真剣な表情を見た僕は、腰を下ろして君の手を握る。
「うん。先に言っておくけど、僕は君がたとえどんなに辛い過去を持っていたとしても、ずっと味方だよ。だからなんでもいってごらん。絶対に君を見放したりなんかしない。」
君は再び大きく深呼吸をして、息を整える。「私ね…子ども。できない身体なんだ…。」
あの家族を見て表情の暗くなった君を見た瞬間、想像していた通りの言葉だ。陽が沈んで月が姿を表すまでの時間、僕の心はとっくに準備ができていた。
「なんだ。そんなことか。なんか、ホッとした。僕は君の気持ちが変わってまた死にたい気持ちになったんじゃないかってハラハラしてた。子どもができないことくらい、どうってことないよ。」
「なんで…?君との子ども…産めないんだよ?この先どれだけ子どもがほしいって願ったって、作ることすらできないんだよ?君はそれで本当にいいの?」「うん。大丈夫。大丈夫だから。安心して。」
肩を揺らしながら、頭を両手で抱え込んで涙を流し始める君。僕はそんな君の肩を包み込むように、そっと横から抱き寄せた。
「なんで…。なんで君はそんなに優しいの…?なんでそんなに私に甘いの…?」
「そんなの決まってるよ。君が好きだから。大好きだから。僕は君と一緒にいられればそれでいい。それ以上には何も求めない。子どももいらない。この先も、ずっとふたりぽっちで生きていこう。」
「ありがとう…。私も…大好きだよ…。」
本日も、当テーマパークにご来場いただきまして、誠にありがとうございます―――。
閉園のアナウンスが流れ出す中、君は僕の腕の中で子どもみたいに大きな声で喚き声を上げながら泣き出す。相当大きな声のはずなのに、アナウンスの音に綺麗にかき消されて周囲の人間は気にも留めていないようだった―――。
あの時僕は、何故君が子どもを産めない身体になってしまったのかを聞くことができなかった。君も、それを伝えようとはしなかった。でも、今ならわかる気がする。親に虐待されて、育ててくれた優しいおばあちゃんも無くした君は、自分の体を売って稼ぐようになった。その時に、一つ子どもを産むという選択を捨てたんだよね。自分の子が、自分と同じような人生を歩んでしまうことを避けるために。