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遂に辿り着いたオフィスの扉を開け、微塵な埃の臭いと、期待感が鼻腔を通る。
今日は、このキヴォトスという都市の連邦捜査部シャーレの顧問として新しい1日が始まる。
「えへへ、先生のために事前に準備したんですよ〜」
“流石だよ、アロナ!”
「ありがとうございます〜」
今、私と話しているタブレットの中の女の子は、『アロナ』と言う。
なんでも、この『シッテムの箱』のスーパーAIらしく、これからのことをサポートしてくれるらしい。
「成程。確かに業務などに適切な環境ですね」
気づいただろうか、『大人』は1人だけではない。
知っている限り、後で私の隣にきたファウストという人がそうだ。
“ファウスト?話し合いは終わったの?”
「いいえ、今後の方針を決めるための視察です」
“そうなんだ。あっ、そういえば君はどうしてここへ来たの? ”
ファウストは連邦生徒会も知らない突然の訪問者である。
ファウストはその質問の答えを躊躇い、代わりにこう言った。
「…まだ公にできない情報です」
“そっか…じゃあ言えたら言ってね”
「検討します」
「言葉を返すなら、あなたこそ何故ここへ来たのですか?」
“私!?私は…わかんないな…”
わからないと言ったが、確かに理由はある。
それでも、理由にしては足りないだろう。あえて言わず誤魔化しておこう…。
中へ入り、内装を見渡す。思っていたよりも最先端の製品が揃っているようだ。
しばらく様子見していると、どこからか通知がなる。
癖でスマホの画面を見てしまったが、どうやら私ではないらしい。
「あっ、すいません」
ファウストだったららしく、素早くスマホ取り出して電話に出た。
「すみません、時間が来ました」
“そう?じゃあ、気をつけて”
「しばらく戻れそうにないですので、先生の補助として私の仲間を送っておきます」
“え?あ、いるんだ”
「では」
“あぁー!?ちょっと!?”
あの人って、何だか無愛想だと、口から溢れ出そうだったが、何とか口を塞いだ。
それにしても、まだ大人が居るのか。
大人がこう少ないこの世界で、1人になってしまったらどうしたものかと心配していたが、
ファウストの仲間が来ることで一安心した。
“さーて、この余った時間を無駄に消費する訳にはいかないし、なんか少し…でも…”
暇つぶしがてらで、何かやるべき事を探していたところ、業務机の上に、意味わからんぐらい積み上がっておる書類の束を不意に見つけてしまった。
“うわ、何、え?”
本当に何だこの量。思わず意味のない言葉を呟いてしまった。
詳細を確認するが、どれも今日の件についての様々な書類だ。
“…初日で過労死しないかな”
だが、この書類を放置する訳にはいけないので、不満を堪え一先ず処理する事にした。
時計の分針が幾つも一周して…。
や、やっと半分だ。
こう処理していくと、生きている感覚がちっとも感じなかった。
まるで、私は業務処理ロボットとして生まれ、黙々と処理していくだけの人生を辿っているようだ。
いつ終わるかわからない業務を続けていると、突然。
コンコン
“どうぞ〜”
脳が働いてなかったのか、ノック音の主が誰かと疑問を持たず、快く受け入れた。
数秒もしない内に扉が開かれ、2人の人影が覗く。
「あっ、ここって執務室で合ってますか?」
“ん?合って”
「さっすがイシュ!元会社員の名は廃れないね〜」
「え?褒め言葉何ですかそれ?そんな事より、人の話を…」
「あっ!ごめんね〜先生」
“う、うん。大丈夫”
人影の正体は、2人の女性だった。
1人は、鮮やかなオレンジ色の髪を伸ばした女性。
もう1人は、長身な女性だ。
さっきのファウスト含め、共通点として、どこかの企業の制服を着ていた。
服を見た瞬間、ファウストが呼んだ仲間だと察した。
“もしかして、ファウストの?”
「はい、ファウストさんに呼ばれました、イシュメールです」
「私はロージャ。よろしくね〜」
イシュメールはきちんとした態度で、ロージャは馴れ馴れしい…人懐っこい態度で挨拶した。
“私は連邦捜査部シャーレの顧問の先生。新人だけどお互いに頑張ろう”
「ふふっ、2人とも〜。そんなに畏まらなくていいって!これからの仲だし、ね?」
「いや、礼儀は必要じゃないですか」
「まあまあ〜」
“はは、さて自己紹介も終わった所だし、ちょっと手伝ってくれないかな?”
「手伝うって…何をですか?」
「ん?…あ、ああ、あれ?」
ロージャは何か察したのか、声色が震えている。
それもそうだ。誰だってあの書類の山を見たらあんな反応になる。
「どうしたんですかロージャさん…あぁ、書類処理ですか?」
イシュメールはロージャの反応とは反対で、淡々とした表情で眺めていた。
「え?嘘?やる気?」
「えぇ、放置してたらめんどくさい事になりますから、さぁ行きますよ」
「え、えーっと私、ちょっと用事が…」
「行きますよ?」
“ほ、程々にね”
私の補佐としてやってきた2人は、その後、一緒に書類を処理してくれた。
シャーレに就いて数日が経った。
ついでに、私にある悩みが芽生えた。
“どうしてッ!女ばっかりなんだッ!?”
キヴォトスに来て、出会った人間がほとんど女性だ。
大人も居るには居るが、全員女性。
男の事情も考えて欲しいものだ。
「どうしたんでか先生?」
“あ、いや何でも”
「ふーん、そうですか?」
“本当に何でもないから”
「なら、良いですね。では、先生」
“どうしたの?”
「ここ数日間でシャーレに関する噂もたくさん広まっているみたいでして、他の生徒たちからも入部希望やお手紙が届いていますよ」
“良い事なの?”
「全然良い事ですよ!私たちが活躍が始まるんですよ!」
「あっ、でもそのお手紙の中に、ちょっと不穏なものがありまして…」
アロナがそう言ってタブレットにある文章を表示する。
『連邦捜査部の先生へ』
という一文から始まる手紙。
“これは?”
「アビドス高等学校からのお手紙です」
“ふーん、高校ひとまとまりでねぇ…”
内容を詳しく見てみれば、現在アビドス高等学校は暴力組織によって追い詰められ、弾薬などの資源が枯渇している状況に陥っているらしい。
“なるほど。アビドスっていう所はこんな感じになる所なの?”
「アビドス高等学校…。昔は大きい自治区だったですが、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました」
“気候の変化?”
「えぇ。なんでも街のど真ん中で遭難に遭ってしまうほど酷いらしく…」
“連邦生徒会は対応できなかったの?”
「連邦生徒会も生徒会長さんの失踪などでそれどころでは無かったようで…」
“なるほどね。それじゃ、生徒が助けを求めているし…”
「?」
“早速アビドスに行こう!”
「す、すぐ出発ですか!?さすがの行動力です!先生!」
「待ってください!死にたいんですか!?」
早速出発しようとしたが、ちょうど良くやってきたイシュメールに止められてしまった。
“あ、イシュメール。一緒に行く?”
「いやいや!何も準備せずに行くんですか!?」
“あ、そっか”
「そっかって…本当に分かってなかったのですか!?」
“生徒の事考えすぎてて…”
「はぁ、もう…」
“じゃあ、準備してから行こうか”
私達は、アビドスに行くためある程度準備してから、砂漠と化した街へ向かった。
もし私1人だったら絶対遭難してたが、イシュメール達のお陰で何とか行けそうだ。
“本当だ。街の中なはずなのに、どこ見ても砂漠だ… ”
「だから言ったじゃないですか」
今、この路地を進んでいるのは私と、イシュメールとロージャだけである。
「ふーん、にしてもよくここで住めるよね〜」
「何か理由があるのではないですか?」
「たとえば?」
「うーん…高価な鉱物が採れる場所でも…」
「イシュもやっぱ金にがめついね〜」
「え?いや…そういう訳じゃ…」
“資金調達を生きる目的してる人は沢山いるからね”
だけど、そんな理由でも無さそう。
イシュメールは定期的に、食料を確認しては時々摂ったりしている。
だけど、今回は何故か、イシュメールの表情が少し強張っている。
「…誰ですか、5日分の食料をたった数時間で食べた馬鹿は…?」
「う、うーん?鳥にでも食べられたんじゃない?」
“鳥…いたっけ”
「…」
居心地悪そうなロージャはついには耐えきれず、そそくさと逃げてしまった。
しかし、分かっていたかのようにイシュメールがロージャに追いつき、捕まえた。
「どうして無計画に消費するんですか!?死に急ぎたいんですか!?」
「だって〜、あんなに美味しそうだったから〜 」
“美味しそう…? ”
非常食を美味しそうなんて言うなんて、一体この人たちはどれだけ過酷な世界で生きていたんだ?
“でも状況は深刻じゃないかな?”
「だったら早く着けばいいでしょ?」
「この地図、砂漠化のずっと何年前のものですから、従っても着かない可能性もあります」
“え?どうするの?”
「どうするも何も、工夫して進むしかないですよ」
「私に任せてください。こういうのは慣れてますから」
“じゃあ、お願いね”
サバイバルが得意な会社員ってなんだ?
そんな疑問を持ちながらも、私はイシュメールに着いていく事にした。
だけどイシュメールの指南は常人にとっては余りにも耐えられなかった。
あそこから、たった数キロ(たった?)しか進めなかった。
“もう無理…イシュメール…”
「嘘でしょ、もう限界なの先生?」
“誰のせいで…あぁ…”
「先生、すいません。あなたの体力を見誤りました…日陰で一度休んでください」
もはや声を出す気力もない…。
私は挫折していた所…。
キキーッ
「…あの…」
微かに見えた。後ろにいる鈍色の髪をしている生徒だ。
「あっ、生徒じゃない?」
「誰ですか?」
「えっと、砂狼シロコ…もしかして遭難者?」
「うーん、大体そうかな?」
「そこの人、大丈夫?」
生徒が私に近寄ってくる。
“み、水…”
「あ、じゃあ、スポーツドリンクだけど…コップは…」
“ありがとう…”
「あ」
「えっ!?」
「!?」
私はすぐさま、シロコがくれたスポーツドリンクを直接飲んだ。
みるみる内、体は元気を活力を取り戻した。
「嘘…」
「ねぇねぇねぇ!イシュ!あれって…」
「言わないでください」
“ありがとう…シロコ…でいいかな?”
「ん、シロコ。それはそうとその服装、連邦生徒会の人?」
“そう。手紙が届いてね”
“こんにちは。シャーレの先生です”
「あっ、イシュメールです」
「私はロージャ」
「そうだったんだ。無事に届いたんだね。それじゃあ、私が案内してあげる。すぐそこだから」
「いいの?ありがとうねシロコ!」
「人に恵まれましたね…あんなにセクハラに近しい事してるのに…」
何だかイシュメールが小言を呟いた気がするが、あえて言及しないようにしよう。
“やった…あ、待って”
「先生?どうしたんですか?」
“足が…ちょっと震えちゃって”
「ふっ、貧弱ですね。もっと普段から鍛えたらどうですか?」
「イシュ。先生はね、生きてる世界が違うからさ!あまんまり強く言わないでよ〜 」
“ほんと…あ、シロコ”
「どうしたの?先生 」
“よかったらなんだけど、自転車に乗せてもらえないかな?”
「ん?でもこれ、1人乗り用だから…」
“じゃ、じゃあ背負ってくれないかな…?”
「せ、先生?もうちょっとね…女心の事考えてみたら?」
“…まぁ、その方がいいか。ロードバイクは…”
「私が運びましょうか?」
「ん、ありがとう」
“ありがとう…助か”
「あ、待って…」
シロコが呼び止めた後、自身の体を見渡している。
「さっきまで、ロードバイクで走ってたから…そこまで汗だくじゃないけど…その…」
“私は大丈夫だよ?むしろ、いい匂いだよ!”
「えっ…え?もう擁護できませんよ?」
「ちょ、ちょっと何言ってるか分からないけど…気にしないなら…」
「ほんとにごめんねぇ〜。うちの先生がさ〜」
“じゃあ、お言葉に甘えて…”
視線を気にせず、私はそのままシロコの背中に乗っかった。
シロコからは潮っぽい香りがしてきて、なおさら体の疲労を癒してきて気持ちいい、いい匂いだ。
「…」
何だか視線がもっと鋭くなった気がするが、そのままリラックスに夢中になってしまった。