私は離婚をして、島に移り住んだ。
夫は不倫した相手の1人に日頃の不適切な行いを会社に暴露されていて、窮地に陥っていた状態だったようだ。
私は調査会社に調査を頼み1人残らず不倫相手からも慰謝料を頂いた。
さらに夫は不倫相手との乗務前の飲酒も明らかになり、会社を懲戒免職となった。
そのことはちょっとしたニュースになり、火の粉を浴びた義父も退職したらしい。
あれだけ、西園寺家の家に拘っていた義母が義父に離婚届を叩きつけたと聞いたときは驚いた。
病院での非常識な振る舞いを週刊誌に書かれたことから、義祖父の転落は始まった。
秘書からパワハラとセクハラで訴えられ、政界を引退することとなった。
義祖母はますますスピリッチュアルの世界にのめり込んでいると風の噂で聞いた。
それにも関わらず、養育費は滞りなく振り込まれ続けてている。
やはり夫の言っていた通り、夫の実家は極太なのだ。
西園寺家に嫁入りした時、あの家の人間は生まれながらに勝ち組だと私も勘違いした。
でも、勝ち組や負け組などそもそも存在しないと今は思える。
愛する人の側で、愛する人の幸せを願いながら暮らせれば人生は花マルだ。
ミライは今、学校そのものが家族のような小さな島の小学校に通っている。
彼は物知り博士として、学校では人気者になっているようだ。
「ミライお魚釣れたじゃん。すごい」
「アジだから、帰ったらフライにして食べよう」
ミライが微笑みながら私に言ってくれて、涙が出そうになる。
ずっと私は笑顔の彼に会いたかった。
「こんにちは。最近、島でダイビングショップを始めたんですが、宜しければ今度いかがですか?」
ミライと私に話しかけてきてきた男性に、私はなんだか初めて会った気がしないような気持ちになった。
「私は東京から出戻ってきたのですが、島に最近移り住んできたのですか?」
「実は脱サラして昔から夢だったダイビングショップを始めたのです。でも、なかなか上手くいかないものですね」
「この辺りはダイビングショップが乱立していますからね。特色を出さないと厳しいかもしれません。私は島で旅行会社を経営しているんです。宜しければ相談に乗りますよ」
職歴がないから離婚もできない、私には夫に縋る生き方しかできないと思っていた。
自分の意思次第でなんでもできると思えるようになったのは、ミランダとして過ごした11年間があったからだ。
「社長さんなんですか、すごいですね。ぜひ相談に乗ってください」
私よりも年上だろうが、なんだか人懐こい感じがする人だ。
「いえいえ、ひよっ子社長で手探りです。今はリモートワークで島でのんびりしながら東京の会社とやりとりしている方とかもいて、今までにない需要があったして面白いですよ。私はダイビングはやったことがないのですが、どのような感じなのですか?」
「海は未知の世界で、違った風景があって面白いですよ」
未知の世界という言葉に私はミラ国の記憶を思い出した。
11年もの間、確実に私はあの世界で過ごした。
ミラ国にはキースがいるから大丈夫だろう。
エイダンはどうしているだろう。
ミランダ・ミラの体は元のミランダに戻ったのだろうか。
勝手に結婚して申し訳なかったけれど、エイダンは頼りになる男だとアラサーで離婚経験者の私は保証したい。
「未知の世界だって、ミライ、今度ダイビングしてみる?」
「楽しそうだし、やってみたい!」
ミライが自分から「やってみたい」と言ってくれることが嬉しい。
今まで彼にやらせることばかりしてきた。
これからは、彼の「やってみたい」をどんどん叶えたい。
「お子さん、ミライ君と言うのですか? 実は、最近毎晩のように不思議な夢を見るんです。自分は差別を受けてきた先住民族だったのですが、その国の優しく美しい女王様と結婚します。そして女王様が子供の名前をミライにしたいと言ったところで今終わっています。今晩、寝たらミライ誕生のシーンまでいくのかと思うと眠りにつくのが楽しみです」
私は思わず彼の顔を見た。
見守るような眼差しが、どことなくエイダンと似ている気がする。
「その夢の話も是非聞きたいです」
新しい出会いにワクワクできるようになったのは、愛おしいミライが側にいるからだ。
ミライの側にいられるチャンスをもらった。
今度こそ私は愛する人を幸せにする。