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毎朝、賑やかな鳥のさえずりで目が覚める。そして愛する人の寝顔を目にして、幸せを感じる。 隣でスヤスヤと眠るリアムが目を覚ますまで、僕はやりたい放題だ。伏せられたまぶたの先の長いまつ毛に触れてみたり、筋の通った鼻を摘んでみたり。最後に形のいい唇を指で押してキスをする。たいていここでリアムが目を覚まし、激しく唇を吸われてしまうのだけど。
今朝もイタズラの後にキスをされて幸せに浸っていたけど、いつものように悠長にはしていられない。半刻後にはゼノが迎えに来る。それまでに着替えて朝餉を済ませなければいけない。
僕は急いでベッドを降りると、まだ眠そうにしているリアムの腕を強く引っ張った。
ガタガタと揺れる馬車の中で、リアムが大きな欠伸をする。
僕はリアムの肩に乗せていた頭を上げて「眠いの？」と聞く。
「眠い…。もっとフィーと寝ていたかったのに」
「帰ってきたらね」
「むぅ…、即位式が終わったらすぐに帰るからな」
「うん」
頬をふくらませて、今度はリアムが僕の肩に頭を乗せる。まるで大きな子供みたいだと僕は笑って、輝く金髪を撫でた。
リアムと暮らし始めて五ヶ月が過ぎた。ただただ穏やかな日々が続いて幸せだ。その穏やかな日々の中、王城から招待状が届いた。ついにクルト王子が即位するという。
三ヶ月前に会った時に聞いていたから、驚きはしなかった。ただ、いよいよリアムの父上と対面するのかと、ずっと緊張はしている。
そんな僕の心中を、リアムはわかっているのだろう。招待状が届いた時から、いつも以上に僕に甘えてくるのだ。おかげでリアムの父上と会ったらどうしようかという緊張が少しほぐれた。でも、もう一つの悩みは今現在も続いている。即位式の時の僕の服をどうするかだ。
クルト王子直々の命で、リアムは軍服を着ることを許されている。僕も当然、リアムと同じ軍服を着たいと願い出たけど、それは許されなかった。リアムの伴侶ではあるけれど、バイロン国の騎士ではないからだ。それならば普通の礼服でいいかと思ったけど、それはリアムがダメだと言う。
「フィーはイヴァル帝国のグランドデュークという称号があるのだから、それ相応の装いをした方がいい。ほら、何かの式典の折にとラズールが送ってきた服が一式あるだろう。こういう時にこそ着なくてどうする」
「えー…あれはちょっと。目立つのは嫌だ」
「なぜ？すごく似合ってるぞ」
僕は馬車の隅に置かれた箱に目をやる。一応持ってはきている。確かに高級な生地で作られて品のよい服だけど。すごく目立ちそうで嫌なんだ。
途中の街で宿泊しながら、三日目の昼に王都に着いた。馬ならもう少し早かったのだが、それにしても時間がかかってしまった。
僕がキレイな景色を目にしてははしゃいで、そんな僕を見たリアムが、ゼノに命じて馬車を止めさせていたから仕方がない。到着が予定より遅れてしまうことを申しわけないとは思うけど、リアムと一緒に様々な景色を見ることができて楽しかった。それに余裕を持って出発したから「気にするな」とリアムは言ってくれた。
でも本来なら昨日のうちに着いてたんじゃないかと不安になって、王都の大通りを進む馬車の中、僕はリアムを見上げた。
「どうした？疲れたか」
「今日は半日しか乗ってないから大丈夫。それよりも僕達、遅れてしまったけど…怒られない？」
「大丈夫だ。即位式は二日後だから余裕がある。本当は明日に着いてもよかったんだ」
「それはさすがに…。あれ？王城に向かってるの？即位式は明後日でしょ？宿に入らないの？」
馬車の小さな窓から外を見て、僕は疑問を口にする。
リアムも外を見て、すぐに視線を戻して微笑んだ。
「ああ。兄上が王城の俺の部屋に泊まれって。部屋はそのままにしてあるからって…ん？話してなかったか？」
「うん…知らなかった」
「悪い。もしフィーが宿の方がいいと言うなら…」
俯いた僕を気遣って、リアムが優しく肩を抱き寄せる。
僕は慌てて首を振った。
「違うよっ、どこに泊まっても大丈夫だよ。ただ、リアムがちゃんとクルト王子の弟として接してもらえてるんだなぁと思って嬉しくて。よかった」
「俺のことを心配してくれてたのか…ありがとう。俺も宿だろうが王城内の俺の部屋だろうがフィーと一緒ならどこでもいいんだけどな」
「ふふっ、リアムの部屋かぁ。懐かしいね」
「懐かしいがいい思い出ではないな」
「あの時はごめんね…痛い」
「痛くないだろ」と笑いながら、リアムが僕の頬をつまむ。
リアムは僕には怒らないけど、怒るかわりによく頬をつまんでくる。僕の頬が柔らかくて、ついつまみたくなるんだって。変なリアム。
「あの時はすごく悲しかったな。目覚めるとフィーが消えてて」
「姉上の力になりたくて必死だったから」
「わかってる。俺はそういうおまえが好きなんだよ」
「うん…」
するりと頬をなで下ろして、リアムが視線を上げる。
「馬車が止まったな。門に着いたか」
「えっ、どうしよう。緊張してきた」
「俺がついてるよ」
リアムに手を握られて、僕も頷きながら握り返した。
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