コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
青葉side
古い扉が、重たい音を立てて開いた。
4つしかない机と、少し高い教卓が置かれただけの教室の空気は澄んでいて
窓から差し込む白い日光に照らされている。
1番奥の、それこそ窓際という特等席に腰掛けた。
手袋に隠された無機質な腕に顔を埋める。
「はよ、蓮。」
「ん…?ああ、恵ちゃん。おはよ。」
同級生の伏黒恵は私の反対の席に腰掛けた。
長いまつ毛が陽の光に当てられて、顔の良さが際立つ。
「寝てたんなら悪かったな。」
「寝てないよ。ちょっと考え事してただけ。」
「なんだよ考え事って?」
机に荷物を仕舞いながら聞いて来た。
言ったらきっと気まずくなるんだろうけど、それを承知で口に出す。
「腕のこと。今思えばかっこいいなって。」
「…ああ。そうか。まあ、たしかに。」
私の腕はとある呪いで無くなった。
それ以上は機能しないため、機械のような義手をつけて生活している。
初めこそ不慣れで嫌に思うことが多かったけれど、それなりに気に入っている。
まあ、嫁の貰い手は無くなったが。
「彼氏ほしー…」
「急だな。1人いんだろ。候補が。」
「…誰のこと言ってる?」
「狗巻先輩。」
「はあ?なんで先輩が出てくんの?」
「お前毎朝通ってるだろ。仲良いし。」
無茶な話だ。
私はたしかに毎朝狗巻先輩を起こしに、部屋まで通っていた。
狗巻先輩に気がない、と言えば嘘になる。
けど、狗巻先輩から見たらそれは違う。
私と狗巻先輩は仲がいい。それだけ。
そう……
「それだけでしょ。私と先輩?無理な話だって。」
「なんでだよ。」
「だってどう考えても釣り合ってないし。」
そう、釣り合ってない!
顔が良く、愛嬌もあり、優しく、ちょっと抜けているところが萌えな先輩と裏腹に
私は顔も綺麗なわけじゃないし、愛嬌もなければ特に優しいわけでも、ギャップ萌えなんて可愛げのあるものは無い。
術式面で言えば、彼は後方で私は前方。
釣り合うとしたらそこだけだ。
「あんたねぇ!そんなこと言ってると誰かに取られちゃうわよ!?」
突然響く大きく、綺麗な声に2人して体が跳ねる。
扉を見やると釘崎野薔薇と虎杖悠仁が登校したようだった。
野薔薇はぽかんとする私に、畳み掛けるように言う。
「だいたいねえ、釣り合って無いって言うけど釣り合ってんのよ。そうでしょ虎杖!」
「おう!青葉は顔も性格も1級品だぜ?」
ありがとね、と、少し呆れたように返事を返してしまった。
「あ、信じてないなー!?」
なんて、子犬のように虎杖が言う。
きっとこの子を好きになる方が厄介なんだろうな。
と、今も昔も常々思う。