午後、華は宴会場の備品を運ぶ手伝いを任されていた。
大きな箱を抱えて廊下を歩くが、ヒールに慣れない足元はふらつくばかり。
「よいしょ……もう少し……」
その瞬間、床の小さな段差に気づかず、つまずいた。
「きゃっ!」
体勢を崩して箱を落とし、膝を床にぶつけてしまう。
「桜坂さん!」
すぐさま駆け寄った律が、彼女の腕を支えた。
「だ、大丈夫です……」と笑みを作ろうとしたが、痛みに顔がゆがむ。
膝に薄く赤みが広がっていた。
律の眉間に深い皺が寄る。
「無理しないでください。応急処置をします」
その声は、いつものぶっきらぼうさとは違う、真剣な響きを帯びていた。