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夜の城は静かだった。
崩れかけた尖塔の外を、冷たい風が吹き抜ける。
Pizza guyは窓辺に腰掛け、膝を立てながら耳を澄ませていた。
遠く。
何層も廊下を隔てた先。
低く、重く、どこか祈りのようなオルガンの音が響いている。
……ノスフェラトゥだ。
毎晩ではない。
だが、眠れない夜になると、あいつは地下礼拝堂でオルガンを弾く。
最初は不気味だった。
今では逆だった。
音が聞こえると、
「ああ、いるんだな」
と妙に安心してしまう。
「……変なの」
自分で呟いて、Pizza guyは苦笑した。
首筋が熱い。
吸血痕を指先で軽く掻くと、
ぞわ、と背筋が震えた。
最近ひどい。
吸われた後は落ち着くのに、
時間が経つと身体が勝手に“次”を欲しがる。
「……最悪だ」
その時だった。
カサ――
窓辺に影が落ちる。
小さな黒いコウモリ。
だが普通じゃない。
金色の瞳が、暗闇の中で爛々と光っていた。
「……?」
コウモリは窓枠へ降り立つ。
じっとPizza guyを見る。
まるで品定めするように。
そして次の瞬間。
黒い煙のように身体がほどけた。
長い黒髪。
白い肌。
金色の瞳。
露出の多い黒衣をまとった女が、窓辺に立っていた。
「……へえ」
女は細い指でPizza guyの顎を持ち上げる。
「本当にいたのねぇ。ノスフェラトゥの“お気に入り”」
「っ……誰だよ、お前」
「ストリガ」
女は笑う。
その笑みは美しかった。
同時に、
死体みたいに冷たかった。
「美味しそう」
瞬間。
ガンッ!!
Pizza guyは壁へ押し付けられる。
鋭い牙が首へ突き刺さった。
「っぁ……!!」
熱。
痺れ。
ノスフェラトゥとは違う。
もっと強引で、
もっと直接的な飢え。
ぞくぞくと血を吸われ、
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視界が滲む。
ストリガは恍惚とした声を漏らした。
「なにこれ……すご……っ、ノスフェラトゥの毒、こんなに回ってるの?」
舌が傷口を舐める。
その瞬間。
轟音と共に、扉が吹き飛んだ。
黒い影が一瞬で距離を詰める。
赤い眼孔の仮面。
黒いマント。
怒気を纏ったノスフェラトゥだった。
「離せ」
低い声。
空気が凍る。
ストリガは笑ったまま振り返る。
「あら怖い」
ノスフェラトゥの爪が、
彼女の喉元へ突きつけられる。
「そいつから離れろ」
「今、人間少ないのよ?」
ストリガは肩をすくめた。
「独り占めなんてズルいじゃない」
「……次に触れたら殺す」
その瞬間だけ。
空気が変わった。
冗談ではない。
本気の殺意。
ストリガの笑みが少しだけ引きつる。
「相変わらずね、反逆者」
彼女は窓枠へ飛び乗る。
「またね、人間さん」
黒い霧となり、
彼女は夜へ消えた。
静寂。
オルガンの音も、もう聞こえない。
Pizza guyは荒い呼吸を整えようとする。
だが次の瞬間。
ぐい、と胸ぐらを掴まれた。
「っ……!」
ノスフェラトゥだった。
仮面越しでも分かる。
異常なほど怒っている。
「……他の吸血鬼の匂いがする」
低い声。
押し殺しているのに、
逆に恐ろしい。
「いや、あれは勝手に――」
言い終わる前に。
首を強く引き寄せられた。
ガブッ――
「ぁ、っ!!」
いつもより深い。
強い。
容赦がない。
血を吸われるたび、
身体の奥が痺れていく。
「ノ、ス……待っ……」
だが止まらない。
ノスフェラトゥの腕が震えていた。
怒り。
嫉妬。
飢え。
全部が混ざっている。
「お前は……」
吸血の合間、
掠れた声が落ちる。
「私の前でだけ、その顔をしろ」
どくん、と心臓が跳ねた。
次の瞬間、
強烈な眩暈。
視界が暗転する。
倒れかけた身体を、
ノスフェラトゥが抱き止めた。
「……っ」
腕の中でぐったりしたPizza guyを見下ろし、
ノスフェラトゥは苦しそうに息を吐く。
まるで自分自身を嫌悪するように。
長い沈黙のあと。
彼は気絶したPizza guyの額へ、
そっと唇を落とした。
「……食い殺したくなるだろ」
その声は、
ひどく掠れていた。