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あ
16
823
放課後、教室の片隅でカバンを肩にかけた俺を、蓮、拓海、大和、陸、翔太の5人が取り囲む。
「よし、今日は大和の家行くぞ。親もいねぇし、昨日より広い部屋でゆっくりいるまと遊べるな」
大和が鍵を指先で回しながら、冷酷な笑みを浮かべる。
「いいじゃん。いるま、大和の家でもちゃんと俺たちの名前、可愛く呼べよ?」
翔太がわざとらしく俺の背中をポンと叩いた。その手の強さに、昨日のカラオケでの屈辱が蘇り、俺の身体が自然と強張る。
「……分かった」
俺が諦めて一歩を踏み出そうとした、その時だった。
グイッ、と後ろから強い力で右手首を掴まれた。
「おい、待てよ」
低く、地を這うような声。振り返ると、そこには厳しい表情をしたなつが立っていた。
いつもよりずっと強い力で俺の手首を握るなつの掌は、驚くほど熱い。昼休みに廊下で見せた俺の不自然な態度が、どうしても引っかかっていたのだろう。
「なつ……っ、」
咄嗟に名前を呼びそうになり、俺は慌てて言葉を飲み込んだ。今は一軍の奴らの前だ。ここでなつと親しげにすれば、なつが蓮たちのターゲットにされてしまう。
「あ? なんだよ陰キャ。俺たちのいるまに気安く触ってんじゃねぇよ」
陸が不機嫌そうに舌打ちをする。
なつは陸を完全に無視し、真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。
「いるま。お前、本当にこいつらと行くのか。……昨日言ったこと、本気じゃねぇだろ。何か隠して――」
「おい」
なつの言葉を遮るように、冷徹な声が響いた。
次の瞬間、俺の左手首が、蓮の強靭な力によって掴まれる。
「俺の所有物に勝手に触るな。……そいつの手を離せ、暇72」
蓮はなつを冷酷な、だけど圧倒的な一軍の威圧感で見下ろしながら、俺の左腕をぐいっと自分の方へと引っ張った。
俺の身体を挟んで、右手をなつに、左手を蓮に掴まれる緊迫した状況。
「離さねぇよ。こいつは元々、俺たちの――」
なつがさらに力を込めようとした瞬間、蓮の背後にいる拓海と大和が一歩前に出た。蓮はフッと鼻で笑い、俺の左手を思い切り強く引き寄せた。
「お前らの何? もう関係ねぇだろ。なぁ、いるま。こいつの言う通りにして、明日からシクフォニの全員がどうなってもいいなら、そのままそいつのプロポーズ受けてりゃいいよ」
蓮が俺の耳元で、なつには聞こえないような極小の声で残酷に囁く。
その瞬間、俺の頭の中に、みんなの夢が、こさめの笑顔が、一瞬で崩壊する最悪の未来がよぎった。
「……っ」
俺は自ら、なつに掴まれていた右手の力を抜き、なつの指先を振り払うようにして蓮の胸元へと飛び込んだ。
「離せよ、なつ。しつけーんだよ。俺はこれから蓮たちと大和の家に行くの。お前らみたいな暗い奴らと違って、こいつらといる方が100倍楽しいから。二度と邪魔すんな」
嘘の言葉が、俺の口からスラスラと溢れ出る。
蓮は満足そうに俺の肩をガシッと抱き寄せ、なつから俺を完全に『取り返す』と、そのまま教室の出口へと歩き出した。
「じゃあな、お邪魔虫。行くぞ、いるま」
翔太がなつを小馬鹿にするように見下ろして笑う。
一軍の5人に連れ去られるように教室を出ていく俺。
なつは、自分の手のひらに残った俺の手首の感触と、いま目の前で起きた攻防をじっと見つめていた。
振り払われた。だけど、なつの確信は深まっていた。
(違う。いるまのあの引きつった顔……。あいつ、やっぱり脅されてる)
取り返されたいるまを救い出すため、なつの瞳に、一軍への激しい怒りの炎が静かに灯り始めていた。
コメント
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第7話、読み終えました! なつがいるまの手首を掴んだシーン、めちゃくちゃ熱かったですね。「低く、地を這うような声」と「驚くほど熱い掌」の描写が、なつの内に秘めた怒りと決意を感じさせて痺れました。対する蓮の「俺の所有物」という台詞も、支配的な関係性を象徴していてゾッとします。 いるまがなつを振り払って嘘の言葉を吐く場面は、読んでいて胸が締め付けられました。自分の身を犠牲にしてまで仲間を守ろうとするその姿勢、つらいけどカッコいいです。なつが最後に「やっぱり脅されてる」と確信を深めるところで、次が気になりすぎます! 伏線の張り方と、緊張感を保ったまま話を進める構成がとても上手だと思います。続きが待ち遠しいです!