テラーノベル
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岩本が撮影を終えて戻ってきた時、何故か阿部の膝の上には向井がいた。
「あ、ひかる、お疲れ様」
「照にぃ、お疲れ〜」
微笑む阿部の膝から向井は言う。
「…何してんの、康二」
務めて冷静に岩本は問うた。
「膝枕やけど。…あべちゃんの膝、狙いやすいねん」
悪びれず向井は言う。膝に寝転んだままで。
「照にぃもする?」
代わろか?と言われて、岩本は頬を引きつらせた。向井にそのつもりがないのは分かっているが、特大のマウントを取られた様に感じた。
「ほらほら、こーじ、終わりー」
阿部が苦笑しながら促す。はーい、と向井は身体を起こした。しかし今度は阿部の隣に座って、ぴたりと肩を寄せる。
「…康二、お前くっつきすぎ」
「何でぇ、ええやん。あべちゃんは皆のあべちゃんやん?」
岩本の言葉に向井は軽い調子で言う。
いや、阿部は俺のだから!!!
岩本は、出かかった言葉をなんとか飲み込んだ。以前から向井や佐久間の距離の近さには、やきもきさせられていたが、今は前以上に心がざわついてしまう。
「おーい、康二ー?」
岩本が不穏な空気を醸していると、部屋の奥から深澤が向井を呼んだ。
「こっち来て」
「なにー?」
向井は素直に呼ばれた方へ離れて行く。恐らく深澤は空気を読んだのだろう。岩本はその気遣いには感謝したが、もやもやした気持ちは残った。
「ひかる、気にしすぎ」
阿部は岩本の表情に苦笑する。
「いや、気にするでしょ」
「こーじは、前からああいう感じじゃん」
そうだけど…と呟いて、少し不貞腐れたまま岩本は着替えに向かった。
自分が嫉妬深い方だと言う自覚はある。しかし阿部は無頓着過ぎるとも思う。今は自分という相手がいるのだから、少しは距離を考えて欲しい。
2人の時は甘えて来るのに、第三者がいるとそんな素振りは一切見せない。今まで通りの皆に優しい阿部でいる。
そうなると岩本も、その他のメンバーと同列の扱いになり、さっきのような仲良しマウントに晒されることになるのだ。
(阿部って嫉妬とかしないんかな)
ふと考える。そういえば阿部は岩本が誰と絡もうと、向井にまとわり付かれていても、意に介していない気がした。
自分の気持ちの一方通行のようで、何だか悔しい。
(…嫉妬させてみたいな)
可愛いだろうな、と岩本は思った。
どうしたら阿部の嫉妬を引き出せるか。
彼は真剣に考えだしていた。
連日の誘いの意図を深澤が明かされたのは、1ヶ月後の居酒屋での事だった。
「え.お前、そういうつもりでしょっちゅう誘って来てたの?」
やけに短いスパンで、飲みやサウナに誘って来るなとは思ったが、まさか阿部にヤキモチを妬かせたいからが理由とは思わず、深澤は思わず呆れた。
と、同時に本能が危険を予感する。
「てことは、照…1ヶ月近く阿部ちゃんほったらかしてる?つーか、俺と一緒だって阿部ちゃん知ってんだよね」
「知ってる。ふっかと、って毎回伝えてるし」
「お前、俺を巻き込むなよ!」
思わず声が大きくなる。絶対面倒くさい事になる、そう思った。
深澤は、阿部が我慢して溜め込んでいくタイプなのを理解している。
「アイツは表に出さないけど案外…」
深澤が懇々と諭そうとした時、
突然、大きな音を立てて個室の襖が開け放たれた。
2人は驚き固まる。
立っていたのは冷たい目をした阿部だった。
「阿部、え、何、なんで」
冷たく見下ろされ岩本は混乱する。
「ひかる」
阿部は部屋に入ってきて、岩本の前にしゃがみ込む。そしてにっこりと微笑んだ。
「俺別にさ。飲みにいくなとか言わないよ。メンバー相手に。でもさ、」
すっ…と阿部から笑顔が消える。
「俺のこと蔑ろにしすぎじゃない?ひかるは俺の彼氏だよね?俺の誘い何回断った?ねえ。ふっかといる方が楽なの?楽しいの?俺といるより?どうなの」
あ、これヤバいわ。
深澤は察して、そうっと自分の荷物に手を伸ばした。岩本が詰められてる間に脱出しようと画策したのだが、
「ふっか」
阿部は彼を逃さなかった。
「ふっかは、俺とひかるのこと知ってるよね。知った上で何で、毎回毎回毎回毎回、2人で飲みに行ったりするの。たまには俺にも声掛けるとかあるでしょ。どういうつもりで」
「阿部ちゃん、ごめんて。違うの。聞いて」
深澤は慌てて阿部を宥めようとする。よく見ると阿部は酔っているようだった。
「俺、阿部ちゃん大丈夫なのって、毎回確認してたのよ?でも照が大丈夫って言うからさ、だから」
「ひかるは…、お れ の ひ か る な の !」
言い訳を並べようとする深澤に阿部はブチ切れる。そんな時、
「あー、ここに居たー!」
聞き慣れた声がして、見慣れたピンク頭が廊下を滑り込んでくる。
佐久間だった。
「トイレから戻ったら居ないから、も〜」
佐久間はほっとしたように言って、卓の上の水を阿部に渡す。
「はい。飲んで」
促されるままに、阿部は水を飲んだ。
「…飲んだ?よし、じゃ、あべちゃん。円周率100桁言える?」
「ん。言える」
「じゃあ言おう。はい。3.14?」
「159265…」
ぶつぶつと阿部は円周率を読み上げ出す。
「…佐久間、阿部ちゃんと飲みに来てたの?」
深澤はほっとしながら佐久間に尋ねた。
「あべちゃんから照の事、相談されてたんだよね。お前らがここに居るのは知らなかったんだけど、トイレのタイミングとかで見かけたんだろうな」
まさか乗り込むとは思わなかったけど、と佐久間は笑う。
「照。あべちゃん連れて帰んな」
「あ、はい…」
佐久間に促されて岩本は頷くしかなかった。
「この件、貸しだからな。バカップルが」
深澤は安堵しながら毒を吐く。
「二度とやるなよ!」
深澤の念押しを背中に聞きながら、岩本は静かになった阿部を連れて店を出た。
連れ立って歩きながら2人は無言だった。しばらく歩いて、大通りから一本中の道に入る。
「あの…ごめん…」
先に切り出したのは、酔いがすっかり冷めた阿部だった。
「俺も…ごめん。試すような事して」
岩本も申し訳無さそうに言う。
「え、俺試されてたの?」
阿部は驚いて岩本を見た。
「いや…阿部にヤキモチ妬かせたいなって…思って…それで」
「はあ?」
不満げな声を上げる阿部。
「そんな事…」
「でもさ」
文句を言いかける阿部を遮り、岩本は阿部を見た。
「思ってたのとちょっと違ったけどさ、ヤキモチはヤキモチだったんだよね?」
「え」
「あれもう一回言ってよ。ふっかに言ったやつ」
「え。え?」
阿部は改めて、自分が言ったことを思い出す。急に体温が上がってきた。
「!!!いっ…言わない!忘れた!覚えてない!」
「俺の〜ってヤツ。言ってよ、阿部〜」
早足で歩き出す阿部の後を追いながら、岩本は食い下がる。
思っていたのとは違ったが、阿部の本音が垣間見えた。
俺のひかる、と阿部が言ったのが単純に嬉しい。それにあれはあれで可愛かったし良いか、とも思う。
「ねえ、阿部〜?」
「しつこい!」
幸せな気持ちで満たされながら、岩本は阿部について行った。
#すのーまん
コメント
2件
かわいすぎるっ!!!どっちも!!🤦🏻♀️💛💚

2人とも嫉妬してるのかわいい💕 個人的には最後の会話がめっちゃ好きです!