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「あ、当たったわ」
家で猫を撫でながらなんとなくスマホ画面を見ていたときだ。一ヶ月前くらいに何気なく応募した懸賞に当たってしまった。
当たってしまったというほど残念なものではなく、むしろ俺にとっては嬉しいものだ。
「でもこれ…ペアチケットじゃん…」
そう、俺が当たったのは旅行のペアチケットだ。独り身の俺には誘う相手もいない。かと言って誰かに譲るにはもったいなすぎるほど豪華な旅行。
さて…これをどうしたものか―
いつものメンバーで誘うか…
誘うとしたらあいつくらいだな
…いや、あいつしかいない。
俺は意を決して、普段あまりやり取りをしないライン画面を開いた。
『今からお前んち行くけど、いる?』
急にこんな連絡して頭がおかしいとか思われるだろうけど、今更そんなことは気にしない。長年の付き合いで既におかしいと思われているだろうから。何を言っても淡白な反応をされると思う。
今日は撮影もないので、返信はすぐに来た。
『いきなり何?』
『別にいいけど』
ほらやっぱり淡白だ。
こいつのこういうところが俺は少し気に入ってたりする。
なんの用事かわからないだろうから少し警戒されているのが文面を見て取れる。それもいつものことだから、俺は
『すぐ行く』
とだけ返して、着替えて家を出た。
電車に乗ること十数分。
見慣れた景色が視界を支配する。
あいつの家に行くこと自体珍しくはなく、家にいる犬に会いに行きたいときもあるので、定期的にお邪魔しているのだ。
駅から徒歩圏内にある奴のマンション。
部屋についてチャイムを鳴らす。
「どうも」
家主はドアをゆっくりと開けて眠い目を擦っていた。
さっきまで寝ていたのだろうか、パジャマのままだった。
「お前…マジでいきなりすぎ。なんなの」
「すまん」
嫌な顔をしながらもちゃんと迎え入れてくれる。
鬼畜とまで言われているこいつは、オフでは優しいのだ。画面の向こうの皆には信じられないかもしれないけど。
ソファに座り、主人と同時に迎え入れてくれた愛犬にも挨拶をする。
「で?」
「え?」
「え?じゃねぇよ。用事ってなんなの」
不機嫌そうに俺の顔を見た。
「ああ…これ、見てほしいんだけど」
俺はさっき当たった懸賞の画面を見せた。
「お、当たってんじゃん。運いいね」
「でしょ。でさ、これペアチケットなんだけど」
「ペアなの?お前独り身なのに?
なんで懸賞なんて応募したんだよ」
「理由なんてないけど、当たらないつもりで応募したらさ、まさか当たるなんて」
「ふーん、ま、いいんじゃない?
誰か誘って行ってこいよ」
「俺もそのつもりで来たんだけど」
そう言うと、こいつは心底意味のわらないという顔をしてみせた。
「ここ、一緒に行かない?」
「それ、本気で言ってるの?男同士で旅行って何が楽しいんだよ」
「それはそうかもしれないけど…他に誘う相手いなくてさ。お前旅行好きじゃん。だからちょうどいいんじゃないかなって」
「まぁ好きだけど…」
すると俺のスマホを奪い取って、その画面をスクロールしながら見ている。
「○○温泉付き…旅館一泊二日ペアチケット…」
「結構高いところらしくてさ、せっかく当たったから人に譲るのはもったいないじゃん」
「だからって、なんで俺?」
「行きたくない?」
はっきりと行きたくないとは言わない。
それほど魅力的な内容のものだ。
「ほんとに俺でいいの?つまんないと思うけど」
「いいよ」
「ったく…意味わかんねぇ…」
呆れた顔でスマホを返してくれた。
そのついでに二人分の旅館の予約をとる。
「2週間後だね」
「あっそ」
俺と一緒なのが嫌なのか、俺とは目も合わせず自分のスマホをいじり始める。どうやらスケジュールを入れているようだった。
楽しみなのか、嫌なのか、本心がよくわからないやつだ。
To Be Continued…