「あれ? アック様、向こうに見えているのってミルシェさんたちじゃないですかっ?」
「ん? どこだ?」
「橋が架かっている先の方に後ろ姿が見えるです!」
道の先の方まで見通せるという力に関してはルティの方が能力が高い。これも親譲りということになるのだろうか。
「ウニャ? どこなのだ? シーニャには全く見えないのだ」
敵や動くものについてはシーニャの方が優れているわけだが、さすがに範囲外までは見えないようだ。
「一本道で迷うことも無いだろうし、先に行って声をかけてきてくれるか?」
「はいっっ!」
最下層にまで降りて来た水路は水が枯れているところが多くあって、濡れる心配が無い。足下に不安定さを感じないのはありがたい場所だ。
さっきまでいた場所も含めて見上げると、何層にもなっていることが見て分かる。迷いはしないが、そう簡単なダンジョンではないように思えてならない。
「ふぇぇぇ! どうして~!? ああぁっ! ミルシェさーん待ってくださーい!!」
ルティの報告を待っていると、先の方からルティの泣き声が聞こえてきた。ミルシェたちに会えなかったのだろうか。
「アック、アック! シーニャたちもドワーフのところに行くのだ!」
「そうだな、行こう」
どこにいても声が響くので、ルティを先に行かせても行方を見失うことが無い。しかし、何も無かった時でも大騒ぎをする傾向があるので注意が必要だ。
水の無い水路は歩きやすく、すぐに橋のところにたどり着く。橋は木製で頑丈そうな欄干が見えている。ルティは橋の中央付近に立ち尽くしているようで、そこから動けずにいるらしい。
橋を歩き始めてすぐに気付いたのは、橋の下には巨大な川が流れていたことだ。最下層に来たはずなのにまだ深い所があるなんて。
「ルティ! そんな中途半端なところで何やってんだ? ミルシェたちには会えたのか?」
「アックの言うとおりなのだ。この先にフィーサが見えるのだ?」
「ああぁっ! アック様っ!! おかしいんですよ、駄目なんですよぉぉ」
「……うん?」
ルティが立っている所を見ても、特におかしな点は見られない。しかし、中央部から先の方へ進もうともしていないのは妙だ。
「い、いいですか、よぉく見ててくださいよぉ」
「……ウニャ?」
「何だ、一体……」
橋の中央に留まっているルティが気合いを入れて何かをしようとしている。シーニャとおれは、ルティがやろうとしていることを黙って見守ることにした。
すると――
「――とおおぉりゃぁぁぁぁ……!!」
ルティは握り拳を作り、そのまま橋の中央部付近に突いて見せた。直後、辺りからドドーンといった鈍い音が響くものの、何かが起こった感じには見えなかった。
「ウニャニャ!? な、何が起こったのだ? ドワーフは何をしたのだ!?」
いきなりのことでシーニャはかなり驚き、耳がピンと立っている。シーニャには見えなくて当然だが、魔法文字《ルーン》が反応したようだ。
橋の中央部から浮かび上がったのは、【リオング・ゲート】なる表示だった。向こう側が見えていて通れないということは、ここを通るには何らかの条件があるということなのだろうか。
ルティの拳でもびくともしないとなれば力でどうにか出来るものでは無いことになる。そうなると考えられるのは、適正の属性による攻撃を試すしかないのだが。
「アック様、見ての通りでして~……さっきまでこの先でミルシェさんたちが見えていたんですよぉぉ! でも進めないしどうにも出来なくて……はうぅぅ」
「ミルシェたちはルティに気付いていたか?」
「振り向いてくれました! でも、わたしを見たというより後ろを確かめただけだったような感じで……」
おれたちが最下層に降りる直前まではここにいたということか?
ミルシェたちがこの橋の中央付近を通り過ぎたことで、何らかの罠が作動したということもあり得そうだが断言は出来ない。
「……おれがやってみてもいいか?」
「もちろんです! アック様なら打ち破れますよっ!」
ルティが立っている辺りに近付こうとすると、確かに透明な壁のようなものに遮られている感覚があった。
「――む、これは……」
感覚としては物理無効の壁のような感じだ。そうかといって、魔法制限がかかっている状態でどうにかなるようには思えない。
「あああぁっ!! アック様、アック様!」
「ん? どうした?」
「ミルシェさんたちが向かって行った先から、大勢の人間たちが向かって来ていますよ!! 遭遇しちゃってたんでしょうか!? どうしよう、どうしますかぁぁ!!」
「落ち着け、ルティ」
こっちの身動きが取れない時ばかり何かに遭遇するようになっているのか?
敵とは限らないが、シーニャの耳は立ったままだ。
そうなると――。
「ウウゥゥ……アック! 何だか嫌な感じがするのだ」
「――敵ってことか」