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みぃ⌒🍣
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遠くの空が夕焼けから濃い群青色へと染まり始める頃、静かだった住宅街の空気はいつもと違っていた。
窓を閉めきっていても、どこからかドン、ドンと腹に響くような和太鼓の音や、耳を刺す甲高い笛の音、そして浮き立った人々のざわめきが聞こえてくる。
今日は、近くの神社で祭りがある日だった。
リビングに広がるその賑やかな音の波は、シェアハウスで暮らす6人にとって、少しだけ眩しすぎるものだった。
「…なんか、すごい音するね」
ダイニングテーブルの端で、りうらは首に掛けたノイズキャンセリングヘッドホンをギュッと握りしめながら呟く。
外の音と、そこに群がるであろう無数の人々の気配を想像するだけで、頭の芯がジリジリと痺れるような気がしてくる。
ソファの隅では、悠佑がまた細かく指を震わせながら、何度も自分の両手を見つめていた。
祭りの人混みの中で、誰かを傷つけてしまうんじゃないか、と想像が、彼の強迫のスイッチを刺激してしまうのか、「大丈夫、大丈夫…」と、さっきより早口で呟く声が漏れている。
いつもの席にいふがぽつんと座っていた。
耳をかすめる外の囃子の音に混じって、頭の奥で別の音がざわめく。
「外、すごい人だね…。ねえ、いふくん、大丈夫?」
心配そうに顔を覗き込んだほとけが声をかける。
躁の波が少し落ち着いてきて、今はどっと疲労が押し寄せてきている最中で、ほとけの顔は少し青白いが、それでも隣にいるのいふを気遣う優しさは消えていない。
いふはゆっくりとかぶりを振った。
「…うん、大丈夫。でも、ぐにゃって歪んでて…酔いそう。」
「せやな~。カーテン、もっと閉めよっか」
初兎が立ち上がり、遮光カーテンをしっかりと引き合わせる。
騒々しい外の音が少しだけ遠のいたようで、リビングには安堵の空気が戻った。
ベッドからようやく起きてきた初兎自身も、今日は少しうつが重く、外の明るさや祭りの熱気に当てられて息苦しさを感じている。
「ねえ…外、お祭りなんだよね」
玄関の方から、かすれた声がした。
ないこだった。
自室のドアを開けてリビングまで出てきたものの、外で浴衣姿の子どもたちがはしゃぐ声や、甘いお菓子の屋台や、おかずの屋台の匂いが混ざって漂ってくるのを感じて、足がすくんでしまっていた。
人目が怖くて、パニック発作の気配が胸のあたりをギューッと締め付ける。
でも、ずっと部屋に閉じこもっているのも息が詰まるから、と思って出てきたものの、今の彼にとって祭りの熱気はあまりにもハードルが高すぎた。
「ないちゃん」
初兎が優しく声をかけ、ないこの肩にそっと触れる。
「外、行かなくていいよ。僕たちも、ここにおるから、な?」
ないこは小さく息を吐き出し、強張っていた表情が少しずつ緩んでいく。
「うん…そうだね。今日は、家でいいや」
りうらが、テーブルの上に置いてあった紙コップに麦茶を注ぎながら言った。
「ねえ、お祭りのさ、屋台のチョコバナナとか、りんご飴とか、美味しい匂いだけこっちに流れてくればいいのにね」
「あはは、それめっちゃ分かる。匂いだけ泥棒したいね」
ほとけが楽しそうに笑う。
完璧なお祭りなんて楽しめない。
賑やかな輪の中に入っていく元気もない。
でも、誰一人として「外に行こうよ」と無理強いはしない。
「ねえ、屋台の味は無理なんやけどさ…」
初兎が冷蔵庫をごそごそと覗き込み、冷凍庫から箱を取り出した。
「チョコモナカ。 おっきいの買ってあるから、皆で食おーや。」
「お、ええやん。それ、立派なお祭りのデザートやん」
いふがケラケラと笑う。
初兎が、一人一人に手渡ししていく。
悠佑も、震える手で自分のアイスを受け取りながら、
「…甘いものやったら、今のうちに食いたい。」
と小さく微笑んだ。
窓の外では、ドンドンと遠くで花火の音が響いた。
きらびやかな光は見えないし、人混みの熱気も、今は感じない。
それでも、電気に照らされたリビングの真ん中で、6人全員が、冷たいアイスを口に運ぶ。
外の世界からは少し離れていて、歪で不格好。
だけど、この静かな部屋の中だけは、温かな灯りに包まれていた。