謳華が編入してきて最初の土曜日。
「謳華ちゃん自主トレしてきたの??」
外から帰ってきた謳華に芦戸が声をかけた。
「うん。近々ガラコンサートがあるからそのレッスンを。」
謳華はキッチンに入り、昼食のサラダを作り始める。
「何を歌いますの??」
「勝ちて帰れと慕わしい名前よ。」
「アイーダと、あと1つは初めて聞きますわ。」
「慕わしい名前はリゴレットっていう作品よ。」
「有名なの??」
飲み物を取りにきた蛙吹にフルーツのお裾分けをして。
「アイーダは、このフレーズは絶対聞いたことあるよ。」
とスマホから音楽を流す。
「サッカーのヤツだ!!」
流れてきた音楽に合わせ、上鳴と切島は肩を組んで飛び跳ねる。
「そう。このアイーダ行進曲と同じくらいアリアで有名なのが勝ちて帰れなの。リゴレットはざっくり言って悲劇かな。」
謳華は食べ終わろうとしている爆豪の斜め前に座り黙々と食べる。
「確かに悲しいお話ね。」
「皆主人公に娘がいるって知らなくてやったことなんだ。」
「にしても公爵クズだわ。」
と女子はリゴレットの内容を調べて会話がはずむ。男子はサッカーの話で持ちきり。
「ごちそうさま。」
「午後も自主トレ??」
「うん。午後からは歌うの。」
「ほんと!?それ聞いてみたい!!」
「ギャラリーがいるのも悪くないかも。いいよ、一緒に行こう。」
「オレも行ってもいい??」
「マスクして歌うから上鳴君もよかったらぜひ。」
「やったー!!行こうぜ2人とも!!」
と上鳴は切島と爆豪の肩を組む。
「誰が行くっつったよアホ面!!」
「とか言ってほんとは興味あるくせにー。お、緑谷も行くのか??」
「うん!!北条さんの歌ってほぼ門外不出みたいなものだからいい機会だと思って!!」
と体育館へ。ピアノを弾いていた外国人とドイツ語で会話する。
「ドイツ軍の予備候補生だっただけに流暢やな。」
「ドイツにいる時からお世話になってるペーター先生。」
と皆に紹介し、ペーターにも今いるメンバーを紹介していく。
「ヨロシク。」
と笑顔で挨拶したペーターは、謳華にスタンバイするよう促す。
「勝ちて帰れですわ。」
八百万は流れてきた曲にすぐ反応した。歌い終わり、一同の拍手に応える謳華。
「今日も最高だったよアリア。」
慕わしい名前を歌った後、謳華とペーターはハグとキスをして練習を終えた。
「最後の歌、惚れ惚れいたしましたわ!!」
「ほんと素敵だった!!」
皆が口々に感想を話し合うなか。
「かっちゃん自主トレしにいくの??」
「着いてくんなよデク。」
と爆豪は先に出ていった。
「(クソっ!!忌々しい…!!)」
謳華が歌う姿を頭から振り払いたい一心で走るスピードを上げる爆豪。歌を聞いた瞬間から謳華から目を離すことができなかった。
「誰がアイツなんかに…!!」
今も高鳴っている鼓動をごまかすようにひたすら走り続けた。