テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
月城 蓮桜音
4,944
ふわもちお餅
165
「……そんな訳で、調子も悪そうだったので、昼食後は横になってもらいました」
「何だか、不穏な話になってきたわね」
マコトから話を聞いて、シノブはうめくように言った。
「あの人の製薬会社って、どんな薬を売ってるんですか?」
「睡眠導入剤とか、鎮痛剤ね。効き目は高いけど、ちょっと使い方に気を付けないといけない薬が多いわ」
マコトは先日のリラの話を思い出す。
治験の人員の確保の方法。人を人とも思っていない言葉。
営業巡りでこの辺りの地域に滞在していたのと、アトリが別荘に現れたタイミングも合っている。
もう少しで、はっきりと答えが出せる気がする。しかし、あんなに怯えているアトリとリラを面通しさせる訳にもいかないだろう。
『ああ、うちの子です。連れて帰ります』とでも言われたら困る。
何とか、安心出来る形で二人ともリラから遠ざかる方法を考えないと。
「マコト?」
いつの間にか、目の前で手を翳されていた。ちょっと無言で宙を見ている時間が長かったらしい。シノブが苦笑いしている。
「頭の回転が早すぎるのも困りものねー」
「すみませんでした。ところで、もう1つオレが造ったもの見て貰っていいですか?」
院長室の机に、ポケットから取り出した小箱を置く。
「まだ持って来てるの?」
それは、高齢者が多いこの病院で役に立つのではないかと思って、まだ試作品だが持ってきた物だ。
「お帰りマコト!」
しがみつく勢いで、アトリが出迎えてくれた。やはり寝てはいなかったようだ。
「着替えるから、ちょっと待ってて」
言いながら、職員の制服の上衣を脱ぐ。ズボンも歩きながら足を抜いて、そのままインナーだけの姿で私服をしまっているロッカーに向かった。
「昨日から何となく思ってたけど……マコトって、ためらいとか恥じらいとか知ってる?」
「何だよいきなり。失礼だな」
制服をハンガーに吊るして、適当に着るものを選ぶ。
「午後から時間が空いたから、一緒に何かしよう。…ほんとは雪だるまでも作ろうと思ったんだけど、雲行きが怪しくなって来たから、外は出ない方が良さそうだ」
「じゃあ、絵を描こう」
ベッドサイドの抽斗から、昨日の紙束とクレヨンを出して来る。
アトリは早速、黄色のクレヨンで、人間の影のようなものを描いた。
「りんかく」
「また同じネタ?」
「ほんとに、印象的だったんだ。何も感じられなかったのに、急に、光の中にマコトが現れて像を結んだ」
アトリは手を伸ばして、マコトの髪、耳、首筋、肩を撫でた。輪郭をなぞるように。
「卵から孵った雛が、最初に見た動くものを親だと思うのに似てるのかも。マコトといると安心して息が出来る」
触れられた所が、熱を持ったように感じられた。悟られないように、顔を紙で隠した。
「つ、次は、ちゃんとお互いの顔を描こう。アトリの色って、12色のクレヨンでいけるのかな」
「マコトは簡単だよね。髪は黒、瞳は茶色。口はこう、いつもニコーって端が上がって」
言った通りに、アトリは迷いのない線を描いていく。
「……断言できる。たとえ記憶が戻っても、絵心はない」
「だよね。クレヨン持っても、身体が何も覚えてないし」
今日も、怪我の具合を見ながらアトリの背中を流している。
「ん?」
裂傷がある場所に、傷に隠れて何か皮膚に刻印のようなものがあるのに気付いた。
重なった丸や文字が描かれている。
(これは……魔方陣?)
マコト自身あまり見たことはないが、通常は、床や壁、または道具に描くものだ。人間に描くのは聞いたことがない。
ましてや、アトリには魔力がないのだ。身体に描かれていても自分では使えない。
となると――。
(誰が、何の目的で――?)
「…マコトー、シャワー長いよ?ふやけそう」
アトリが声をかけてくる。
また考え事に集中してしまったようだった。
「あ、悪い」
直ぐにシャワーを止めた。
「やめてよー、昨日みたいなのは」
アトリは苦笑いしていたが、昨日壁に押し付けてしまったのを思い出して、二人の間に妙な緊張感が流れる。
「もうしません」
「……しないんだ」
何故か拗ねたように、アトリは口を尖らせてバスタブに浸かった。
明日、何の用途の魔法陣なのか調べてみよう。いくらなんでも、こんなに傷で刻印が不完全になっていれば発動しないはず。
自分の頭を洗いながら、マコトは翌日の予定を立てた。
コメント
1件
第15話、読みました。アトリの「しないんだ」にドキッとしました…!あの拗ねた言い方、二人の間に流れる空気が変わった瞬間がすごくリアルで。それに背中の傷に隠れた魔方陣の刻印、これってめちゃくちゃ不穏ですよね。マコトの焦りがこっちにも伝わってきて、続きが気になって仕方ないです。早水さんの紡ぐ空気感、いつも大好きです🥀