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#すのあべ
33
部屋の空気が、重い。
さっきから何度も口を開きかけて、
そのたびに閉じていた佐久間が、
ついに息を吸った。
「……蓮」
呼ばれた名前に、
目黒の肩がわずかに揺れる。
「なんかあった?」
一歩踏み出して、
距離を詰める。
「最近さ、ちょっと変じゃん。
俺のこと、避けてるみたいで」
目黒は答えない。
視線を床に落としたまま。
佐久間は、唇を噛んでから続けた。
「……俺、なんかした?
それともさ……」
言葉が詰まる。
「俺のこと、嫌いになった?」
胸の奥がざわつく。
心配と、 言葉にしたくない焦りが混ざる。
(奪われたくない、なんて)
自分で思って、驚いた。
沈黙のあと、
目黒が、ゆっくりと顔を上げた。
「……違う」
低く、静かな声。
「嫌いになったことなんて、一回もない」
一歩、近づく。
触れない距離のまま。
「むしろ逆だよ」
目黒は、言葉を選ぶように間を置いてから、
続けた。
「佐久間くんが……
誰にも取られたくないって、ずっと思ってた」
佐久間の目が、わずかに見開かれる。
「それがさ、
自分でもびっくりするくらい強くて」
苦笑する。
「好きなんだよ」
はっきりと、
でも穏やかに。
「でも、言えなかった」
「関係が壊れるのが怖かったし、
今の距離がなくなるのも嫌だった」
目黒は、一度視線を逸らし、
また佐久間を見る。
「だから……
好きって言うの、やめた」
その言葉で、
佐久間の中の点が、線になる。
力強く俺を見ては逸らしてたことも。触れそうで離れそうだった距離も。
(……全部)
「そっか」
佐久間は、
小さく息を吐いた。
「だから、あんな感じだったんだ」
目黒を見て、
少しだけ笑う。
「俺さ……正直、全然気づいてなかった」
「でも最近、蓮 がいなくなる想像したら、 すげー嫌で」
自分でも不思議そうに、首を傾げる。
「奪われるかも、って思ったらさ……
落ち着かなくなって」
目黒の目が、揺れる。
「……それって」
「うん」
佐久間は、
一歩近づいた。
「多分、同じ気持ち」
一瞬、
時間が止まったみたいに、
二人は動かない。
「……いいの?」
目黒の声は、少し震えている。
「いいよ」
即答だった。
「今のままより、
ちゃんと知りたい」
目黒は、
ゆっくりと手を伸ばす。
頬に触れそうで、
触れない距離。
距離が、近い。
それに気づいた瞬間、
佐久間の心臓が一気に早まった。
視線を合わせられなくて、
無意識に目が泳ぐ。
床、壁、どこか別の場所へ。
「……佐久間くん」
低く呼ばれて、
さらに視線を逸らす。
そのとき。
頬に、あたたかい感触。
目黒の指が、
逃げ場を塞ぐみたいに、
そっと触れた。
それだけなのに、
身体が、正直に反応してしまう。
息が浅くなって、
肩が強張る。
「目、逸らさないで」
優しいのに、
拒否を許さない声。
指先が、
頬から顎へと移動して、
顔を上げさせられる。
視線が、合う。
近すぎる距離で、
目黒は一瞬、ためらったあと——
小さく、笑った。
「……佐久間くん、好き」
その一言が、
合図みたいだった。
ゆっくり、
確かめるように距離が縮まって。
次の瞬間、
目黒は迷わず、
佐久間とキスをした。
——静かで、 逃げ場のないキスを。
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