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部屋の空気が、重い。
さっきから何度も口を開きかけて、
そのたびに閉じていた佐久間が、
ついに息を吸った。
「……蓮」
呼ばれた名前に、
目黒の肩がわずかに揺れる。
「なんかあった?」
一歩踏み出して、
距離を詰める。
「最近さ、ちょっと変じゃん。
俺のこと、避けてるみたいで」
目黒は答えない。
視線を床に落としたまま。
佐久間は、唇を噛んでから続けた。
「……俺、なんかした?
それともさ……」
言葉が詰まる。
「俺のこと、嫌いになった?」
胸の奥がざわつく。
心配と、 言葉にしたくない焦りが混ざる。
(奪われたくない、なんて)
自分で思って、驚いた。
沈黙のあと、
目黒が、ゆっくりと顔を上げた。
「……違う」
低く、静かな声。
「嫌いになったことなんて、一回もない」
一歩、近づく。
触れない距離のまま。
「むしろ逆だよ」
目黒は、言葉を選ぶように間を置いてから、
続けた。
「佐久間くんが……
誰にも取られたくないって、ずっと思ってた」
佐久間の目が、わずかに見開かれる。
「それがさ、
自分でもびっくりするくらい強くて」
苦笑する。
「好きなんだよ」
はっきりと、
でも穏やかに。
「でも、言えなかった」
「関係が壊れるのが怖かったし、
今の距離がなくなるのも嫌だった」
目黒は、一度視線を逸らし、
また佐久間を見る。
「だから……
好きって言うの、やめた」
その言葉で、
佐久間の中の点が、線になる。
力強く俺を見ては逸らしてたことも。触れそうで離れそうだった距離も。
(……全部)
「そっか」
佐久間は、
小さく息を吐いた。
「だから、あんな感じだったんだ」
目黒を見て、
少しだけ笑う。
「俺さ……正直、全然気づいてなかった」
「でも最近、蓮 がいなくなる想像したら、 すげー嫌で」
自分でも不思議そうに、首を傾げる。
「奪われるかも、って思ったらさ……
落ち着かなくなって」
目黒の目が、揺れる。
「……それって」
「うん」
佐久間は、
一歩近づいた。
「多分、同じ気持ち」
一瞬、
時間が止まったみたいに、
二人は動かない。
「……いいの?」
目黒の声は、少し震えている。
「いいよ」
即答だった。
「今のままより、
ちゃんと知りたい」
目黒は、
ゆっくりと手を伸ばす。
頬に触れそうで、
触れない距離。
距離が、近い。
それに気づいた瞬間、
佐久間の心臓が一気に早まった。
視線を合わせられなくて、
無意識に目が泳ぐ。
床、壁、どこか別の場所へ。
「……佐久間くん」
低く呼ばれて、
さらに視線を逸らす。
そのとき。
頬に、あたたかい感触。
目黒の指が、
逃げ場を塞ぐみたいに、
そっと触れた。
それだけなのに、
身体が、正直に反応してしまう。
息が浅くなって、
肩が強張る。
「目、逸らさないで」
優しいのに、
拒否を許さない声。
指先が、
頬から顎へと移動して、
顔を上げさせられる。
視線が、合う。
近すぎる距離で、
目黒は一瞬、ためらったあと——
小さく、笑った。
「……佐久間くん、好き」
その一言が、
合図みたいだった。
ゆっくり、
確かめるように距離が縮まって。
次の瞬間、
目黒は迷わず、
佐久間とキスをした。
——静かで、 逃げ場のないキスを。