テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
転校してきた殺し屋君第1章:偽物の日常
第4話:牙を剥く「普通」
「……お前だったのか」 図書室前の廊下。凪浩一の瞳から温度が消えた。 指谷の口から出た「死んだ理由」という言葉。それは、この学校の部外者であるはずの転校生が、決して触れてはいけない領域だった。
「あいつを……親友を殺したのは、お前なんだな!」 返答を待たず、浩一の拳が空気を切り裂いた。 だが、指谷は首をわずかに傾け、その一撃を紙一重で回避する。今朝までの「どん臭い指谷」の動きではない。 「……気づくのが遅いよ、黒咲。いや、『凪』君だったかな?」 指谷が低く笑う。その構え、足の運び。組織で骨の髄まで叩き込まれる戦闘スタイルだ。 「お前……組織を抜けた『裏切り者』か」 「組織なんて、退屈な場所はもう御免でね。……死ねよ」
二人の影が、狭い通路で激しく衝突した。 浩一は壁を蹴り、その反動で窓際の指谷へドロップキックを見舞う。だが、指谷は驚異的な反応で横へ跳び、窓枠を蹴って跳ね返った。 「甘い!」 空中で体勢を入れ替えた指谷が、着地と同時に浩一の背後を取る。鋭い関節技が入り、浩一の首がギリギリと締め上げられた。 「カハッ……!」 酸素が遮断される。だが、浩一は冷静だった。首を絞められながらも自らの重心を落とし、相手の腕を支点に体を回転させる。 柔術の要領で指谷の巨体を浮かせると、そのまま全力でドアに向かって投げ飛ばした。
ドォォォォン!! 木製のドアが悲鳴を上げ、指谷の体が廊下に叩きつけられる。 「……やるね。流石はボスの秘蔵っ子だ」 指谷は不敵に笑いながら、ポケットから小さなアンプルを取り出した。 「だが、こいつがあれば話は別だ」 迷わず首筋に針を刺す。身体能力強化薬。 組織が禁忌としている、命を削り一時的に限界を超える劇薬だ。
指谷の瞳が真っ赤に充血し、全身の筋肉が異様に盛り上がる。 「アァァ……最高だ、力が溢れてくるぞ!!」 次の瞬間、指谷の姿が消えた。 「速……っ!?」 ガードする間もなかった。強化された指谷の拳が浩一の腹部にめり込む。 浩一の体は吹き飛び、図書室の重い観音開きの扉を突き破って、中の床を転がった。
バシャーーーン!! 本棚が倒れ、静寂だった図書室が戦場と化す。 浩一は内臓がひっくり返るような衝撃に耐え、血を吐き出しながら立ち上がろうとするが、指谷の追撃は止まらない。
その時だった。
「ふんふんふーん♪」 図書室の奥。新着図書の整理をしていた教員が、鼻歌交じりに姿を現した。 耳にはノイズキャンセリングのヘッドホンが装着され、大音量でクラシック音楽が流れている。 教員は、倒れた本棚や、血を流して倒れている浩一、そして異形な殺気を放つ指谷の目の前を、悠然と歩いていく。
「……おや、ここはまだ片付いていないのか。最近の生徒は元気だなぁ」 足元の割れたガラスにも、なぎ倒された机にも気づく様子はない。ヘッドホンを微調整しながら、教員はそのまま反対側の扉から出て行ってしまった。
一瞬の空白。 だが、殺気は消えていない。 「……邪魔者は消えた。続きをしようか、凪君」 指谷が、歪んだ笑顔で一歩踏み出す。 浩一は、意識が遠のく中で奥歯を噛み締めた。
(……このままじゃ、殺られる。何か……何か逆転の一手は……!)
(つづく)
ひとせるな
318