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#事故物件
Noah_🐕
124
みーまる
67
その後。私は漆喰さんと一緒に架紀ちゃんを車の後部座席に乗せ、彼女の家の住所を告げてから──気を失ってしまった。
気がついたのは、なんと翌日の夕方だった。
私は桜ノ宮の自室で、泥のように眠っていた。
その夜、漆喰さんから聞いたところによれば、架紀ちゃんを送り届けた際に彼女は意識を取り戻し、少し話し合ったのだという。今後、何かあったら漆喰さんと懇意にしている弁護士を頼るといい、といったアドバイスもしたそうだ。
漆喰さんは「彼女は大丈夫だ」と言ってくれた。
それに安堵して、私はまた深い眠りに落ち、まともに頭が働きだしたのは翌々日の朝からだった。
※
時刻は夜の十九時。私は今、漆喰さんと一緒に食べる食事の用意をしていた。
メインは私が作った鴨のすき焼きだ。
すでに部屋には甘い割り下の香りが漂っている。BGM代わりに、大きなテレビからは朝からずっとニュース番組が流れていた。
どこにでもある、ありふれた夕食の時間。
けれど、今日の食事は豪華だ。
鴨のすき焼の他にも、テーブルの上には私が買ってきたビールにワイン。サラダにオードブル、お寿司。カットフルーツに、鮮やかなガーベラの花。
さらにはデザートとして、冷蔵庫の中にはホールのケーキまで待ち構えている。
「箸と小皿も準備バッチリ」
厨子にもお裾分けは済ませてある。
テーブルの前で、我ながら「よくやった」と胸を張る。
そろそろ、シャワーを浴びている漆喰さんが戻ってくる頃だ。
何しろ漆喰さんはあの事件の後始末のため、ほぼ不眠不休で二日間動きっぱなしで、今日の朝ようやく眠りについたのだ。そして先ほど目を覚まし、シャワーを浴びていた。
「あんなことがあったのに、タフだなぁ。私よりずっとメンタル極太じゃないかな」
「誰がメンタル極太だ。布団に火をつけた階さんには負けるよ」
「!」
耳元で囁かれてひゃっとして、振り返る。
そこには白いTシャツに黒のジャージパンツスタイルという、ひどくラフな格好の漆喰さんがいた。
髪はまだ生乾きで、やはり少し、目のやり場に困るほどの色気があった。
「ホールに車で突っ込んできた、漆喰さんに言われたくないですっ」
「違いない。……それにしてもいい香りだ。昔、俺の家もこんな香りがしていたな。懐かしい」
一瞬だけ寂しげな顔をした後、彼はすぐにくすっと笑って「用意ありがとう。美味そうだ」と私の頭をポンポンと触り、席についた。
柔和な表情の漆喰さんを見て、今の一瞬の憂いは見なかったことにした。私も笑いながら向かい側に座る。
「ビール飲みます? それともワイン?」
「最初はビールでいい。階さんは飲めるのか?」
「はい。体質なのか、ちっとも酔わないんです。架紀ちゃんには『うわばみ』って言われてました」
「……それは結構なことで」
ふっと苦笑する漆喰さん。
「なにはともあれ、乾杯しましょう。お疲れ様会ですから」
「そうだな」
和やかな食事が始まった。話題はやはり、あの事件のことだ。
漆喰さんは、長年用意していた裁判の準備が水の泡になったことを「これでよかった」と、ビールグラス片手に語った。
裁判となれば数年単位の戦いになり、心身ともに摩耗する。三十路を前にしてそれはキツいから、ちょうどよかったのだと彼は笑った。
私は温かな湯気の向こう側で笑う彼に、微笑み返す。
今でも「私のせいで、ごめんなさい」と言いたくなる。
けれど、私を守ってくれた彼にそれを言ってはならない。優しすぎるこの人を悲しませると分かっていたから、私は微笑み続けることを選んだ。
きっと私が眠っている間、裁判の取りやめという決断と、感情の整理をつけて至った結果なのだろう。
私はそれを尊重したかった。漆喰さんの選んだ未来に、たくさんの幸福が訪れてほしいと願うばかり。
そんな気持ちを胸に秘め、私は明るい話題を出す。架紀ちゃんのこと、そして白狐様のこと。
架紀ちゃんは多くを語らなかったが、しきりに感謝の言葉を口にし、休職してカウンセリングに通うと言っていた。
近々、お母さんと湯治に行く予定だという話も伝えると、漆喰さんは「温泉、いいな」と箸を進めた。
白狐様については「夢の中で一日中、撫でくりまわして遊んだ」という話をすると、漆喰さんは苦笑していた。
コメント
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うわあああっ😭💕 第62話、読み終えたよ〜!! 鴨すきのあったかい湯気と、漆喰さんの「これでよかった」っていう笑顔が重なって、涙腺崩壊しかけたよ…。。裁判を取りやめた決断を「尊重したい」って微笑む階さんの優しさがもう沁みる😢✨ それに架紀ちゃんがカウンセリング通うって聞いて、ちゃんと前向きになっててホッとしたよ…!みんな少しずつ新しい一歩を踏み出してる感じがエモすぎる😭🌸 何より漆喰さんと階さんのささやかな夕飯の時間、すごく尊いっ…!2人の関係性がさらに深まった気がしてにやけた〜🥺💕 猫とろさん、今日も素敵な物語ありがとうございますっ!!