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モニカと魔王の討論を無視して会議を進めるリオル。
「えー。次の議題は……『勇者のと魔法使いマーヤの実力』についてです。これがわからないと今後の計画が立てられません」
「監視をつけるにしても、実力に見合った者でないと務まらないからな」
「うむ。マーヤ。ユウは帝人国で一番強いのか?」
「はい!それは断言できます!というか、島で一番強いのは勇者様です!」
「はあ?一番は魔王様なんですけど?」
「まあまあモニカ。どちらの方が強いかは今は問題ではないから」
「例えずらいだろうが……どれくらいユウは強いのだ?」
「どれくらい……」
マーヤは両手を曖昧に動かした後、諦めたかのように机に手を置いた。
「ごめんなさい。例えられません。でも、一つ言えるのは、勇者様は全盛期より圧倒的に劣っているということです。亡命してから戦闘がほとんどなかったから腕が鈍ったのかも知れませんが、戦争中の実力の七割くらいしか今は無いと思います」
「そうか……貴様、オークは知っているか?」
「はい。北に生息している群れる魔物のことですよね?」
「そうだ。オークと戦う場合、一分で何体倒せると思う?」
「魔王様?流石に一分は短いのでは」
「いや、我の感覚では妥当な質問だ」
マーヤは目を瞑って考える。オークの群れと戦うユウを想像して、答えを出した。
「オークでしたら、一分で群れごと倒せると思います」
「……は?オークの群れは最低でも三十体はいるぞ?」
「三十体なら、……一分かからないかもしれないです」
七割の力でそれなのか。幹部たちはユウを甘くみていた。勇者といえど人間、常識からは外れないだろうと思っていたが、現実は違うらしい。
「マーヤはどうだ?ひとりで倒せるのは何体だ?」
「私は……できても五、六体……でしょうか」
「そうだよな。熟練の魔法使いでもそれくらいだよな」
「あの、皆さんはどのくらいですか?」
「……言うわけないだろう。敵に手の内を明かすなんてできない」
「我は五十体ほどか」
「魔王様!言っちゃいけねーって!」
「ほら見なさい!ユウより魔王様の方が強い!」
「だがユウは七割の力らしいぞ?」
「それでもギリ魔王様の方が!」
「ギリかよ」
「しかしまあ、その実力なら、やはり監視は魔王様自身に任せるしか……」
「えー。あたしも監視してみたい」
「おれも!ユウともっと話したい!」
「友達じゃないのよ?何話したいのよ」
「魔王様のこと語り合いたい!あいつ魔王様の良いとこわかってるからな!」
「この魔王様オタクが」
「リオル。提案なんだが」
「なんですか魔王様」
「マーヤは魔王城内では杖が使えない。つまりは実力が限りなくゼロに近づく」
「なっ、私だって!杖無しでも少しくらい戦えます!」
「だが、半減はするだろう?我々の脅威ではなくなる。ならばユウとセットで監視してもそこまで負担にはならんと思う。ユウは聞く限り戦闘が嫌いなようだし、幹部たちに監視を任せるのもアリだと思うのだが、どうだ?」
「……そうですねぇ。逆に魔王様がしっかり事務仕事をしているか、ユウたちに監視させるのもアリではないかと思うのですが、どうでしょうね」
ピクリと魔王の方が震える。
「リオル、それはちょっと」
「そうですよねぇ。魔王様はずっとユウたちがそばにいたら、サボってるのバレちゃいますもんね」
はぁ、とリオルがため息をつく。何も言えずに目を泳がせる魔王を、リオルがここぞとばかりに睨む。
「ま、良いと思いますよ。ユウに敵対心はなさそうでしたし、私たち幹部に任せるのもアリだと思います」
あんまり信用されてない魔王なんだな、とマーヤは思った。口に出すことはなかったが、ふふ、と笑ってしまった。
「反対意見はありますか?
……なさそうですので、ユウとマーヤを幹部たちが交代制で監視する、で決定とします。それでは次の議題です。次は、『魔王城内での勇者たちの居場所と役割』です」
「役割?」
「ただの居候では格好がつきません。何かしらの役割を与えるべきだと思います」
「なるほど。先程も言ったが、衣食住を与える代わりに働いてもらうべきだ、ということだな?それについては賛成だ。働かざる者食うべからず」
「……」
ゲイルがふと気づく。フランが何やら言いたそうにしていたのだ。
「フランは何か案はあるか?」
「……うん。その。…………ガーデニングの、お手伝いさんが欲しいから……ユウ、に、頼みたい」
会議室に衝撃走る。
「フランが、ガーデニングの助っ人を頼むのか?!」
「め、珍しいわね?どうしたの?」
幹部たちが驚いているのは、フランが植物を大切に思っているからこそ、自分の庭に手出しはされたくないと思っているからだ。故にフランから助っ人を頼むことは今までだったらあり得ないことだった。
「どうしたんだフラン。何か心境の変化でもあったか?」
「…………その。……ユウの雰囲気が、私の育ててる植物たちと、似てて。……この人なら任せてもいいかなって、思って」
「なるほど。フランの感覚に合う人物だと言うことか。興味深い」
「マーヤ。ユウは、植物が好きか?」
「えっと、その……わかりません。植物について話したことないので……でも、嫌いではないと思いますよ」
マーヤの一言で、ユウの役割がひとつ決定した。詳しいことはフランに任せる手筈となった。
「マーヤは、何か得意な仕事はあるか?」
「そうですね……。整理整頓とかは好きですよ。あと掃除とか」
「なるほど。なかなか万能だな。なら、書庫の整理と毎日の書類分別を手伝ってもらいたい。あの作業は人手が必要だ」
「わかりました。それでここに置いてもらえるのなら、頑張ります!」
「おれもユウとなんか仕事したい!」
ヴェントリスが割って入る。
「そうだな……各地の魔物退治に付き合ってもらうのはどうだ?戦闘力がある程度なければ務まらないが、ユウなら問題はないだろう」
「魔王軍隊の戦闘指南を手伝ってもらうのはどうだ?」
「勇者が魔王軍の戦力強化に付き合ってくれると思いますか?!」
「……普通ならしないだろうが、ユウだしな。あり得ると思うぞ。どうだ?マーヤ。引き受けてくれると思うか?」
「……正直、やってくれと言われればやると思います。基本、頼まれたことは必ずやる人なので」
「なら、ばんばん仕事振っちゃっていいわね!」
「モニカ?自分の仕事はやるんですよ?」
「わかってるわよ!」
「役割は決まりだな。ユウはフランの手伝いとヴェントリスの手伝い。マーヤは私と書類整理だ。あと、居場所の話なんだが、魔王様からの申し出で、魔王様の自宅の客間ということになった」
「待って待って。なにそれ」
「意見があるならどうぞ。モニカ」
「いや、危なすぎるでしょ!敵を魔王様の自宅に入れる?!寝首をかかれたらどうすんの!」
「魔王様が寝首をかかれるくらいで倒されるとは思わんが、危ないのは確かだ」
「勇者なんて地下牢とかにぶち込んどけばいいじゃん!」
「コラ。口が悪いですよモニカ」
「だって結局は捕虜って立場なんでしょ?!」
「名目上はそうだが、我は客人だと思っている。そのような待遇は我が許さん」
ビシッと魔王に断言されて仕舞えばモニカも何も言えなくなる。モニカは口を尖らせてそっぽを向いてしまった。
「魔王様。もしユウとマーヤに隠された殺意があったらどうするんです?人の心意とは見えないものですよ」
「あるのなら、今朝までの間に我の寝首をかけばよかろう。しかし我はここにいる。何の異常もなくな。断言する。2人にそのような意図はない。だろう?マーヤ」
「そうですね。殺る気ならとっくに殺ってます」
「居場所については問題ない。次」
「あ、もう議題は全て話し終わりました。他に何か意見や質問があれば、今どうぞ」
「魔王城で暮らす上での細かいルールはいつ伝える?」
「それはユウ本人がいる時にまとめて話しておきたいので、今は保留です」
「はいはい!魔王様に質問!」
「我にか?なんだ?」
「なんで勇者を招こうと思ったんですか!普通なら和解してもそこでお別れしませんか?」
「…………」
魔王は少し考えた後、しんみりとした顔になった。
「気に入ってしまった。…………ただそれだけなのだ」
その魔王の様子に、リオルが勘づく。
「まさか……魔王様。……一目惚れ、なんて言いませんよね?」
「違う!」
一呼吸置いて、魔王は口元を手で覆った。
「と思うが……」
「えっ、…………えっ?!ほんとに?!」
「違うと言っとろうが!」
ガタンッとモニカが椅子から立ち上がる。そしてキッとマーヤの方を向いた。
「あたしたちの魔王様ですから!勇者なんかには渡しませんよ!」
状況が飲み込めないマーヤは、モニカの勢いに圧倒されるばかりだ。
「も、もちろんです。勇者様にも言っておきます……」
「会議は終わりだ!各自、持ち場に戻ってよし!」
すぐに立ち上がって部屋を出て行こうとする魔王を、モニカが追いかける。
「待ってください!今の本当なんですか?!魔王様〜!」
騒然とする会議室で、一応会議は終わりを迎えた。
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