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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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目の前で繰り広げられている光景に息をのむしかなかった。

剣を抜いたソリス殿下の右に並ぶものはいないと言うけれど、唯一彼の隣に立ち続けることが出来る、立つことが許される弟のユーイン様はその圧倒的な魔法でソリス殿下を翻弄していた。ソリス殿下は、攻撃を弾くばかりで近付こうとはしなかった。下手に近付いて魔法を喰らったらいけないからだ。かといって、押されているといった感じもなく、両者一歩も引かない戦いが繰り広げられていた。

もう部屋は滅茶苦茶だ。


(こうなる前に止めに入るべきだったのかも)


さすがに、ここまでなるとは思っていなかったからどうしようかと慌てている状態だけど、私が入れる隙はなかったのだ。


(剣豪ソリス殿下、大魔法士ユーイン様……どっちが勝手も可笑しくないけれど)


こういうのは、観戦するから楽しいであって、ただの喧嘩となったらそれはまた別問題だと思った。止めないと、皇宮が破壊されかねない。

けれど、この部屋以外目だった外傷はなかったので、多分ユーイン様と殿下が一応多少なりに防御魔法を使って、この部屋以外に被害が出ないようにしているのだろう。二人とも猿じゃないし、それぐらい分かっているんだろうけど。

でも、このままではマズイのは確かである。


「殿下、ユーイン様、ダメです!」


私はそう叫んだが、聞えていないようだった。

と言うか、私の存在を忘れているようにも思える。


(あー何で!?)


私は頭を抱えたくなった。

どうしたら良いか分からず、私はとりあえずもう一度叫んでみた。けれど、矢っ張り効果は無い。


(……う、寒すぎる。ユーイン様の氷魔法のせいなんだろうけど……どれだけ怒ってるんだろう)


ユーイン様と殿下が仲が悪いなんて聞いたことなかった。だから、今回こんなことになるなんて思いもしなかったのだ。何処で間違ったんだろうか。


(殿下にはユーにイン様が泣いているってことバラされちゃうし、ユーイン様は意気地なしだったけど怒っちゃってるし……)


「はあ……」


溜息しか出なかった。

兎に角、この戦いが終わるまで待つしか無いようだ。


「兄貴は、避けてばかりだな。ステラを賭けて戦うって言いだしたのは、兄貴だろ」

「そうだけどさっ、ステラに当たったりしたらどうするの?」

「……」

「周りを見ずに戦う癖をやめろとあれほど言っただろう。お前は、一人じゃない。お前の魔法は人を傷付ける可能性がある」

「……分かってる、そんなこと!」


と、突然ユーイン様が怒鳴った。

その声の大きさに、思わず肩が跳ね上がる。

ユーイン様の表情は見えない。

しかし、ソリス殿下は真っ直ぐ彼を見ていて、少し悲しげに見えた。

繰り出される鋭い氷柱を全て剣で粉砕して、ソリス殿下は一気に距離を詰めていく。

ユーイン様は後ろに下がりながら、氷の壁を作ってソリス殿下の行く手を阻む。


「そもそも、お前が素直にならないのがいけないんだろ」

「だったら、もう少し言い案だしてくれても良いだろ!」

「え?」


ユーイン様が素直じゃないのは分かるが、ユーイン様の「いい案」とは何のことだろうか。そう思ってユーイン様を見れば、彼のサファイアの瞳と一瞬だけ目があった。けれど、ユーイン様は、今顔を合わせたら……見たいなかおをしてすぐにソリス殿下の方を向く。

その一瞬を逃さなかった殿下にユーイン様はすぐに距離を詰められてしまった。


「ッチ……」

「そんな、言い訳するぐらいだったら、最初から俺に頼まなければよかっただろう。少しは、自分の頭で考えろ、ユーイン」

「……」

「いくら、ステラが可愛いもの好きだからってわざわざ魔法で自分の身体を『小さく』して、記憶までなくなったフリをしてステラに近付くなんて」

「え……」


(え、今なんて言った?)


聞き間違いかと思った。幻聴かと思った。

でも、ソリス殿下ははっきりとその口で『小さく』と言った。私の頭の中で、一本の糸が繋がったような感覚が走る。

そのソリス殿下の言葉に動きを止めたのは私だけではなかった。


「……は、は……兄貴、それを……」

「だって、事実だろ。お前が、俺の案だとは言え自分の身体を『小さく』してステラに甘えていたのは」

「……な、なぁッ!」


さっきまで、白く暗かったユーイン様の顔がみるみるうちに赤くなっていくのが分かった。白い肌だから余計に目立つ。林檎みたいだ。

ユーイン様は氷のようにかちかちとした動きで、こちらに顔を向けた。恥ずかしさ全開みたいなそんな見たことも無い顔。


「す、ステラッ! こ、これは……これは、ちが……」


いや、言い逃れできないだろう。

ソリス殿下は、ふぅと息を吐いて剣を鞘に戻していた。今、冷静さを失っているのは誰が見てもユーイン様だ。孤高の存在、冷酷の皇子と呼ばれたユーイン様の姿は何処にもない。好きな子を前に、好きだと言いふらされたような子供の顔をしている。


(そんな顔出来たんだ……)


呆れもしたが、驚きの方が大きかった。いや、驚きしかない。

どういうことか、頭の中でまた整理がつかなくなってくる。けれど、私の頭には鮮明にあの小さなユーイン様の笑顔が横切った。私のことをステラお姉ちゃんとか、一緒にいてとか言っていたあの小さなユーイン様の顔が。可愛らしいユーイン様の顔が。


「あの、ユーイン様……殿下が言ったことは事実ですか?」

「……ちが」

「そうだよ、ステラ。いい加減認めろよ。ユーイン。お前が『可愛こぶってた』って」

「うぅ……」


ユーイン様はその場に崩れ落ちた。さすがに羞恥心に耐えきれなかったらしい。

完全に認めた、と言うことで良いのだろうか。

そう思った瞬間、私の体温はぐぐぐっと上がって、私まで真っ赤になってしまった。何で私が恥ずかしがっているのだろうか。これは、恥ずかしいという感情より寧ろ……


「かわ……」

「かわ?」

「可愛すぎます。ユーイン様!」


押さえ込んでいた声が、思いが爆発して、私は耐えきれなくなり部屋のガラス窓を突き破って外に出た。

もう何も考えられなかった。皇宮の一室を破壊して出たこととか、ユーイン様が待ってくれと言っていたこととか、ソリス殿下がステラ? ってこの世のものじゃ無いものを見るような目とか。そんなの考える余裕がなかった。

ちょうど下が湖だったので、そのまま飛び込んだ。

水しぶきを上げて、大きな音を立てて着水する。冷たい水が身体に染み渡っていく。

火照った身体には丁度良かった。

ぷはっと水面に顔を出して、濡れたドレスとか気にする暇も無く兎に角走った。全速力で。家に向かって。


「はあ……はあ……」


ダメだ。

ダメだ、ダメだ、ダメだ。


「可愛すぎる!」


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