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「……おはよう。明彦さん、コーヒー淹れようか?」
妄想から帰還し、せめて、明彦のために何かしようと麗はエスプレッソマシーンを弄る。
何をどうすればコーヒーが入れられるのだろうか。
説明書が貼られてあるが、中国語と英語でわからない。
「いらない」
のっそりと明彦が麗の近くまで歩いてくる。
明彦も先程の麗と同じように寝乱れてバスローブがはだけているが、均整のとれた体を隠す気はないらしい。目に毒だ。
「明彦さん、まだ眠そうやね。二度寝したら?」
(結構、筋肉質。忙しい中、鍛えてるんやな)
「いや、起きてる」
「それなら、着替えて朝御飯食べに行かへん?」
「昨日の服はランドリーサービスに出した。戻ってくるまで着替えられないから部屋からは出られんぞ」
「そうなん!?」
麗は汗臭くても気にせずに昨日の服を着るつもりだった。
麗の服など、激安の量販店で買っているものなので、洗濯代の方が高くついてしまうだろう。
「腹が減ったならルームサービスを頼むか?」
お腹が空いていないと言えば嘘になるが、物凄く空いているわけではない。
我慢できるので麗は首を振った。
「私はまだ大丈夫。明彦さんは?」
「俺もまだいい。なら今日の予定を決めようか? どこか行きたいところはあるか?」
麗は質問されながら何故か後頭部を撫でられた。ペットの猫にするかのような扱いで、わりとよくあることだ。
「小籠包食べたい! これだけは絶っ対行きたい!!」
麗はテレビで見た大御所とオカマの芸能人が小籠包を味わっている映像が頭から離れず、ずっと食べてみたいと思っていたのだ。
「並ぶかもしれないが、台湾で一番有名な店に行くか?」
「うん!」
ぱああっ、と麗は目を輝かせた。
「他に行きたいところは?」
「うーん」
本当は台湾庶民が夜毎に集まる夜市にも行きたかった。
大御所とオカマの芸能人がエステを受けている間に、お守りから解放されたと笑いながら夜市で芸人が美味しそうな食べ物を頬張りながら散策している様子を思い出す。
だが、明彦のようなお金持ちに、人混みで衛生面でも完璧には思えない夜市で食べ歩きがしたいと言うのも麗は気が引けた。
「折角の新婚旅行だ。麗が行きたいところは全部連れていってやる」
明彦の指が麗の髪を弄り、優しい声が腰に響く。何だか、麗は体がざわざわするような感覚がした。
「………」
「ほら、言ってみろ」
「夜市とか、嫌じゃない?」
「嫌じゃない。お前と一緒ならどこでも……」
つい上目遣いになっていると、ピンポーンと、部屋のチャイムが鳴り、麗は出ようと振り向いた。
「こら、その格好で出るな」
ヒョイ、と猫のようにバスローブの首根っこを掴まれ、後ろに下がらせられる。
仕事が早すぎるのも考えものだと呟きながら、明彦が玄関へと向かっていったのだった。