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エイバスを発ってから3週間弱。
俺とテオは、今回の目的地であるトヴェッテ王国の王都へと到着した。
緩やかな坂を上り見えてきたのは、乳白色の非常に高い塀。
所々凹凸を強調したような優雅なデザインの彫刻が施されていて、彫刻が生み出す影と壁本来の白との濃淡も非常に美しい。
そして何といっても目を引くのは、ひときわ大きく華やかな彫刻が施されたアーチ型の門だろう。
門の前には入国手続きを待つ人々が塀に沿ってずらっと並んでいる。
その数、ざっと数十人といったところだろうか。
俺達も列の最後尾へと並び、大人しく待つことにした。
15分ほどで順番が回ってくる。
鎧を着こんだ職員による簡単な質問に答え入国税を払うだけと、手続きは即座に終了。
無事に入国することができた。
分厚い門をくぐった俺とテオの目の前に広がるのは、すっきりとした景観。
真っすぐで幅広めな道の脇には、ややくすんだ水色の屋根と白い壁の5階建てぐらいの建物が、ずらっと立ち並んでいる。
よく見るとひとつひとつの建物のデザインは微妙に違うものの、色や高さが大体揃っているのが、すっきりさを感じる理由だろう。
人々は建物沿いに作られた歩道を歩き、道の中央は馬車専用となっている。
ただそこまで交通量が多くない時間帯のためか、馬車が通るのは時折のようだが。
道の遥か向こうにうっすら見えるのは、白が基調の大きな城。
王都のシンボルであり、国を治める王が住まう場所でもある『トヴェッテ城』だ。
高台に作られたトヴェッテ王国の王都。
その形は綺麗な円形で、中心にあるのがトヴェッテ城となる。
街の大通りは全てトヴェッテ城から真っすぐ放射状に伸びており、東西南北とその間に1本ずつで計8本。
大通りそれぞれと、国を囲む塀とが交わる所に門があり、それぞれ『北門』『北東門』といったように方角の名前がつけられている。
ちなみに俺達がくぐった門は『南門』という名前だ。
ここで歩道のひとつを指さし、テオが言う。
「アレ見てみなよっ。歩道に屋根がついてるだろ? 雨が多い国ならではって感じだよなー」
「確かに……これなら、雨が降っても濡れずに移動できるな」
建物1階部分からは一様に屋根が飛び出す造りになっていて、それが歩道の上をすっぽり覆っている。
構造としては日本の商店街の片側式アーケードとよく似ているが、デザインがシンプルで、トヴェッテならではの景観によく馴染んでいるせいか、印象は全く違う。
ゲーム内ではただのデザイン要素だと思っていた屋根が、実は実用性も兼ね備えていたとは……ひとつ勉強になったな。
「なぁタクト。せっかくトヴェッテに来たんだし、ちょっと観光してかない?」
テオに言われ、ゲーム内でもトヴェッテ王国は街並みが美しいので有名だということを思い出す。
トヴェッテ内に住居や店を構えて定住したり、冒険の拠点にしたり、色んな所でスクリーンショットを撮ったりするプレイヤーも少なくないのだ。
「……そうだな、色々見て回るか!」
「そうこなくっちゃ! じゃ、俺がしっかり名所案内してやるぜっ♪」
「トヴェッテに来たら、やっぱりまずはここだよなっ」
張り切ったテオが俺を連れて向かったのは、王都の外をぐるっと囲む巨大な塀沿いにある、石造りの小さな建物。
建物内にて係員に入場料を払い、長い長い階段を上る。
階段途中に設けられた広めな踊り場にはカフェと土産店があり、ゲームと変わらずなかなかに盛況だ。
俺達はそのまま階段を上り、塀の屋上へ到着した。
王都を囲む高い塀の上は全て屋上になっている。
これは元々防衛目的で作られたものであり、敵が攻め込んできた場合は屋上から石を落としたり、魔術や弓で攻撃を仕掛けたりすることができる。
ただそれはあくまで非常時のみ。
限られたエリアのみではあるものの、通常は一般の観光客でも入場が可能だ。
俺達が訪れた際も、塀の屋上はそれなりに賑わっていた。
街の中や外を柵越しに眺めてワイワイ喋っているのは、服装も様々な観光客達。
柵から少し離れた所に設置されたベンチに座り、のんびり日向ぼっこをしている老人もいれば、キャンパスやスケッチブックに絵を描く者もいる。
皆それぞれ、思い思いにこの場所を楽しんでいるようだ。
所々に立ち警備するのは、パリッとした揃いの制服を着て背筋を伸ばす衛兵達。
とはいえ話しかけてきた一般客に対し笑顔で案内している姿を見ると、おそらく観光ガイドも兼ねて配置されているのだろう。
俺達も群がる観光客達の合間を見つけ、柵越しに街中を眺める。
屋上から一望できる街並みは圧巻だった。
塀の高さは王都中の建物よりも飛びぬけて高いため、国の端から端までを見渡すことが出来る。
唯一の例外はトヴェッテ城。
他の建物の何倍も高く作られた白壁の城は青空によく映え、規則正しく落ち着いた景観のアクセントになっていた。