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瀬名 紫陽花
鬼宮です‼️🫧🪄
撮影の休憩時間だった。紫陽花は一人、ファッションビルの中を歩いていた。
モデルになった以上、服の知識も必要だ。
そう思って雑誌を読み漁り、流行も調べた。
けれど実際に店へ来ると何を選べばいいのか分からない。
ラックに並ぶ服を見つめる。
可愛いと思う。
けれど。
何かが違う。
試着室の鏡の前で首を傾げた。
「うーん……」
その時だった。
「あーっ!」
突然、大きな声が響いた。
紫陽花が驚いて振り返る。
そこに立っていたのは玲奈だった。
玲奈も固まっていた。
数秒の沈黙。
そして玲奈は慌てて口元を押さえる。
「あ……」
しまった。
完全に反射だった。
紫陽花の姿を見た瞬間、思わず声が出てしまったのだ。
「ご、ごめんなさい!」
玲奈は慌てて頭を下げた。
「その服も可愛いんだけど!」
「はい?」
「違う、そうじゃなくて……」
玲奈は頭を抱えた。
周囲の客がちらちらとこちらを見ている。
恥ずかしい。
非常に恥ずかしい。
「微妙に方向性が違うというか……」
紫陽花はきょとんとした顔で聞いている。
玲奈は観念した。
「紫陽花ならもっと首元を見せる服の方が似合う」
「首元?」
「うん」
玲奈は真剣な顔になった。
「目だけじゃないんだよ」
そう言いながら紫陽花を見る。
首元の黒いチョーカー。
白い肌。
細い首筋。
自然と視線を集める魅力がある。
「紫陽花の良さはそこにもあるから」
紫陽花は少し照れたように目を逸らした。
そんなふうに言われたことはなかった。
玲奈ははっと我に返る。
――私は何を熱弁しているんだ。
「ごめんなさい!」
再び頭を下げる。
「休日なのに!」
「プライベートの時間だったのに!」
紫陽花は思わず笑ってしまった。
「いいえ」
玲奈が顔を上げる。
「私も何か違うと思ってたんです」
「え?」
「頑張って選んでるのにしっくり来なくて」
少し困ったように笑う。
その顔を見て玲奈の肩から力が抜けた。
気づけば二人は近くのカフェに入っていた。
窓際の席。
運ばれてきた紅茶から湯気が立ち上る。
しばらく他愛ない話をしていたが、不意に沈黙が訪れる。
紫陽花はカップを置いた。
そして無意識に首元へ手を伸ばす。
黒いチョーカー。
玲奈はその仕草を見ていた。
緊張した時。
考え事をしている時。
紫陽花は必ずそこに触れる。
まるで本当のお守りみたいに。
「玲奈さん」
「ん?」
紫陽花はチョーカーを指先でなぞりながら言った。
「私、もっと上手く撮れるようになりますか?」
玲奈はすぐに答えられなかった。
なる。
そんなことは分かっている。
けれどその前に聞きたいことがあった。
「紫陽花は」
玲奈は静かに尋ねる。
「どうしてモデルになったの?」
紫陽花は窓の外を見た。
少し考える。
そして小さく笑った。
「どうだろう」
遠くを見るような声だった。
「最初はスカウトされたからっていうのもあります」
玲奈は黙って聞く。
「でも私、昔から表情がないって言われてたんです」
苦笑する。
「何を考えてるか分からないって」
「……」
「だから何か夢中になれるものができたら変われるかなって」
玲奈は何も言わない。
紫陽花は続けた。
「軽い気持ちだったんです」
そう言ってから首元に触れる。
「でも」
表情が柔らかくなる。
「あの日」
玲奈を見る。
「初めて撮ってもらった写真を見た時」
その瞳が少し揺れた。
「私ってこんな顔してたんだって思ったんです」
玲奈の胸が熱くなる。
紫陽花は静かに笑った。
「鏡で見る私と違ったんです」
「……」
「知らない私がそこにいて」
少し照れながら言う。
「嬉しかった」
玲奈は息を飲んだ。
「だからかな」
紫陽花は続ける。
「もっと頑張りたいって思ったんです」
「もっと綺麗に」
「もっと上手く」
「もっと——」
その言葉を聞いた瞬間。
玲奈の中で何かが弾けた。
「じゃあ!」
思わず立ち上がる。
紫陽花が目を丸くする。
玲奈は勢いのまま言った。
「今度から私に指名させて!」
店内が静まり返る。
玲奈は途中で我に返った。
遅かった。
完全に遅かった。
「そ、その……」
顔が熱い。
「私なら」
声が少し震える。
「もっと輝かせてあげられるから」
言ってしまった。
完全に勢いだった。
一カメラマンが言う言葉じゃない。
沈黙。
紫陽花が驚いた顔でこちらを見ている。
長い沈黙。
玲奈の背中に嫌な汗が流れる。
――やばい。
――距離感を間違えた。
――事務所に怒られるかもしれない。
――嫌われたかもしれない。
頭の中を最悪の想像が駆け巡る。
すると紫陽花がゆっくり口を開いた。
「それなら」
玲奈は固まった。
「仕事以外で」
紫陽花は少しだけ微笑む。
「私を撮ってくれませんか?」
玲奈の思考が停止した。
「え?」
「もっと色んな私を知りたいんです」
紫陽花は真っ直ぐに玲奈を見る。
「玲奈さんの写真で」
玲奈は数秒固まったまま動かなかった。
そして。
「はい」
と答える。
一拍置いて。
「はい!?」
自分で言ったくせに声が裏返った。
紫陽花は思わず吹き出す。
その笑顔を見て。
玲奈は思った。
ああ。
今の顔も撮りたい。
誰よりも先に。
そう思ってしまった。
コメント
1件
えもう第4話でこのエモさ!!!😭💕 紫陽花が「知らない私」を写真で見つけたって言葉、すごく響いたよ。自分を変えたくて始めたモデルなのに、カメラ越しの玲奈に見せてもらってるんだね…。最後の「私を撮ってくれませんか?」で完全に持ってかれた~~〜!玲奈の慌てぶりも可愛すぎてニヤニヤ止まらん🥺✨ 2人の距離がまた一歩縮まった感じ、最高です!続き待ってます🌸