第二話
1ヶ月前
「レーネ、いつもあなたに頼むととても綺麗になるわ。」
「ありがとうございます。」
私は家政婦として働いていた。15年前、芸術取締当局ができてから私たちはいつもの5人で会うことは少なくなった。元々のんびりと音楽を楽しむことで潰していた時間を周りの他の子達のように遊ぶこともできたが、どうしてもあの顔を見ると楽器を壊されたあの時の金属音が耳鳴りのように響いてしまい、会うことが辛くなった。最初は1人2人休むくらいだったが、だんだん自分1人しか来なくなってきた。きっと他の日は私じゃない誰かが1人あの木の下で待っていたのだろう。そうして私たちは集まらなくなった。そのせいか私は家でお母さんの手伝いをしていくうちにかなりそれが得意になっていった。今ではそれで食べていけるようになった。掃除、洗濯、料理。依頼主の指示に従って毎日動いた。力仕事や全身運動は得意じゃないからこれでいいんだ。不自由なく過ごせてる。これで、いい。
今日は1ヶ月の住み込み依頼の最終だ。今日が終わればひとまず家に帰ってゆっくりとしよう。ベットに横になって目を瞑ろう。やっと休める。あ、そういえばベットの下には確か、、、いや思い出さないようにしよう、もう使えないから、使ってはいけないから。
「1ヶ月極楽様、あなた腕がいいからまた依頼してもいいかしら?」
この仕事は基本、上級階層の人たち向けだ。おかげで給料がいい。工事とかで働いてる人よりはいいものを食べられる。 慎重な言葉づかいで、へりくだって、笑顔で。
「ぜひ、またご贔屓に。」
そうやって健気にしていれば生活は保証されるんだ。
「ただいま」
誰もいない部屋に向かって言った。母が病気で亡くなってだいぶ寂しくなった。動きずらいメイド服から着替えもせずにベットに倒れ込んだ。豪邸で1ヶ月生活したとはいえ自分の家のベットには敵わないなと思った。そのまま眠りについた。
翌日、私は街を散歩しにいった。見ないうちに街並みが割と変わっていった。私は家政婦の中では結構評判が良く、ひと月ふた月の住み込みの依頼が立て続けに入るため街を歩く時間なんて滅多にない。
「結構変わるもんだな、、、」
思わず声を漏らした。街にはせかせかと歩く人や工場の作業着を着た人。布を被せた荷物を運ぶ集団。歩いて運んでいるという方は近い距離の引越しか?この下級階層が多い街ではなかなか珍しい。新鮮さと物珍しさにあたかも観光客としてきた人のように街並みをまじまじと見ながら歩いていた。
しばらく歩いていると時計の針が12時を過ぎている。私はそれっぽいお店を見つけお昼ご飯を食べようと考えた。窓は閉め切られカーテンでなかは見えない、重い扉の店を見つけた。看板には「ha fura(ハフラ)」と書かれていた。体重を思い切りかけて扉を開けた。力が弱い私にとってかなり辛かったが、目の前にもう一つ扉が見えた。くっ、まだあったかっ、と顔をしかめながらまた同じように思い扉を開けた。扉に隙間が空いた瞬間、懐かしい感覚が体全身を包むのを感じた。