ショウタと別れてから、マンションに帰っても、なんだかぼんやりしてしまって、あまりよく眠れなかった。
朝が来たので、仕方なく重たい頭と身体を引きずって、ベッドから起き上がり、窓を開ける。今日が休日で本当によかった。
なんとなく落ち込んでいる暗い気分とは裏腹に、外は抜けるような晴天で、今日もじりじりと暑くなりそうな予感がした。カーテンを閉めて、日光を遮断する。
すると落ち着く薄暗さが戻って来た。
今の俺には夏の太陽は眩しすぎる。
思い返せば、猫が人間に変わったことも、ショウタといた2日間も、なんだか夢のような出来事に思える。
しかし、キッチンで水を飲んだ今、ふと見た水切りカゴに、2人分のラーメン丼がそのままになっていた。食器棚にそれらをしまいながら、ため息を吐く。やはり、あれは現実に起きたことなのだ。
あの2人は、幸せになるだろうか?
飼い主と飼い猫との不思議な関係。
なんだかむちゃくちゃ訳ありで、俺が入り込む隙間なんかほんの1ミリもなさそうだった。俺は、あの2人の人生にほんの少し重なった点に過ぎない。
そんなふうに暗い感傷に浸っていると、外に面したあの小窓を、人間の手がコンコン、と叩くのが見えた。
💛「え?なに?」
💙「ひーかーるーー!!開けて!!」
💛「いや、そこ通れないよ。玄関に回って来い」
聞き覚えのある声に、見覚えのある白い腕。なぜか裏手から我が家に侵入しようとした人物にひとつ大きな心当たりがあって、俺は玄関から飛び出した。
💛「うわっ!!!」
マンションの廊下をちょうど勢いよく走って来たショウタが、俺の胸にまっすぐに飛び込んで来た。
💙「はあ、はあ、間に合った…」
💛「ショウタ、どうして?」
💙「あのさ、俺、もうすぐ、猫に戻るんだ」
💛「うん?」
翔太は息を切らせながら、途切れ途切れに説明する。
💙「もう、ここには来られないんだけど。どうしてもさ、お前に、言いたいことがあって」
ふうっと、深呼吸すると、翔太は俺の首に腕を巻きつけて、いきなり唇を重ねてきた。
あまりの早業に避けることもできずに、驚き、目を見開いたままでショウタの唇の感触を受け止める。
💙「いろいろありがとなっ。大好きだ!」
そう言うと、離れた翔太は俺の見ている目の前で、にっこり笑うと、しゅるしゅるしゅる…と魔法のように白猫に変わっていった。
着ていた服が床にはらり、と落ち、その服の下から首を振りながら一匹の白猫が出てきた。
💛「ショウタ?」
ーニャン
ショウタは、俺の足にすり寄り、二度三度と身体を撫で付けると、尻尾を振って、元来た道を引き返して行く。
そして、塀に軽々と飛び乗り、一度こっちを振り返り、もう一度ニャン、と鳴いた後、今度はそのまま振り返らずに走り去った。
💛「しょ……うた……」
その場に残された俺は、ただ一人、なぜか涙を流していた。
コメント
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お日様に照らされながらの不意打ちのキスが目に浮かぶようで…🥺ショウタ最後までニコニコだったんだろうなぁとか考えちゃう