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『妖花。』
大学生だった頃、俺は異国の闇市で
《麗しき妖花》という花を買った。
その商人は言った。
「この花の匂いを嗅いではいけない。
嗅げば戻れなくなるぞ。」
その商人をよく見ると鼻が削ぎとられていた。
「あんた、その鼻。自分で削いだのかい?」
「あぁ、俺もこの花に魅せられた。
そしてヤバイと思い自らの鼻を削いだ。」
「そんな危険なモン売ってんじゃねぇよばかたれ。」
「愛でる分にはただの綺麗な花だ。」
「ふぅん。」
俺はその花をその国で一番価値のある
札束三枚で買った。
面白そうだったからだ。
俺はどうにかこうにかそのやベー花を密輸入し、その花の匂いを嗅いだ。
馬鹿なやつだと思うだろ?
馬鹿なんだよ 俺は。
…..で、馬鹿な俺はまんまと妖花に魅せられたってわけ。
「おかえりなさい、あなた。」
柔和な笑みで俺の女房は言った。
こうやって書くとお前さん女房いんのかいと
びっくりする輩がいると思うが心配ご無用。
この女房は幻覚だ。妖花の匂いを吸った
副作用ってやつだ。
(都合の良い妄想をいつまでも見ていられる
ようになる。)
これが『麗しの妖花』を嗅いだ時に起こる
副作用だ。これは死ぬまで消えないらしい。
俺は俺の妄想を抱きしめて言った。
「ただいま、妖花。」
そんで俺と女房はとりとめのない話を
してテキトーにテレビを見てそれなりに
セックスをして射精して眠りについた。
これ全部一人でやってんだぜ。やべーだろ?
あぁ心配ご無用、警察には捕まったさ。で
今は釈放されて精神科だかなんだかの病院
に通ってる。
いやさ、俺、現実とかどうでもいいんだわ。
どうでもよくて、ものすごくどうでもいいから正直自分が通ってる病院も覚えてない。
ってか自分の名前も覚えてない。
夏目漱石みてーでウケンだろ、笑えよ。
「私はあなたに飼っていただけて真に幸せ
でございます。」
うちの女房が言うんだよ。
ほんっとうに 随分と都合の良い台詞だよな。
俺は馬鹿で語彙力のねぇクソだから
そういう時はとりあえずセックスする。
……一人でやってんだからオナニーか。
どっちでもいいや。
んで、気持ちよーく射精しきってすっきり
してからいつもの台詞を言うんだ。
「俺はなぁ妖花。これで結構幸せだぜ。
周りからはイカれて見えんだろうな。
だけど俺からすりゃああんなくそみてー
な現実の中で生きてるやつの方がイカれてみえるさ。やれ値上がりだの仕事だの戦争だの 犯罪だの炎上だの闇バイトだの不祥事だのにまみれてる世界で、なんで皆正気を保てるんだ。なぁ、妖花。俺は妖花だけいりゃいいんだ。これからも都合の良い夢を見させてくれよ。」
…..ここまで長くはないか。もっと短く
「愛してる。」
とうわ言みてーに呟くんだ。
勘のいいやつはもう気づいたと思うが
これは俺の遺書だ。
水道代が払えなくなった。だから俺は死ぬ。
まぁ、妖花だけが気がかりだが….。
しょーがねーだろ。
こいつは俺の妄想なんだ。俺と心中できて
本望だろ?
じゃあなお前ら、達者で暮らせよ。