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そあふぃー
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介護申請の手続きは、柊吾が抱いていた恐怖が嘘のようにスムーズに進んでいく。
複雑に見えた市役所の申請書類。その書き方ひとつにとっても、瑞樹の教え方は実に的確だった。
「ここはこう書くと伝わりやすいですよ」
素人では気づかないようなコツを、ひとつひとつ丁寧に噛み砕いて教えてくれるのだ。
特に助かったのは、訪問調査への心構えだった。
『調査員の前だと、お母様は張り切って「できます」と言ってしまうことが多いんです。だから日頃の困った行動や失敗した時の具体的なエピソードを、柊吾さんが別紙にメモしておくといいですよ』
という助言は、まさに目から鱗だった。おかげで当日は伝えたいことを的確に説明でき、無事に「要支援2」という結果を得ることができたのだった。
(……一人だったら、絶対に分からなかった。きっと母さんの「できます」をそのまま鵜呑みにされて、何の支援も受けられないまま詰んでた……)
頼れる人が身近にいる。ただそれだけのことが、どれほど心強いか。
もし瑞樹が教えてくれなかったら――自分は介護保険の存在すら曖昧なまま、何も分からずに放置し、暗闇の中で潰れていたかもしれないのだ。
出会って間もない自分たちにここまで親身になってくれた瑞樹には、感謝しても足りないくらいだった。
夜、真理子を無事に寝かしつけた後、静まり返った部屋でホッと一息つく。
そのまま静かにサッシを開け、ベランダへ出るのが、いつの間にか柊吾にとってかけがえのない日課となっていた。
「今日、認定結果の通知が届いたんです」
「へぇ……。どうでした?」
「要支援2、でした」
「よかった。これで色々とサービスが利用できるようになりますね。おめでとうございます」
夜気の中で柵越しに交わす、わずか十数分の小さな会話。
昼間にあった母の徘徊や、何度説明しても噛み合わない会話に対するやり場のない苛立ち。ずっと胸の底に溜め込み、鍵をかけていたドロドロとした愚痴や、吐き出したかったモヤモヤ。
かつて身内から「お前がしっかりしないからだ」「実の親だろ」と冷たく切り捨てられたような醜い感情すらも、瑞樹は責めるでもなく、咎めるでもなく、ただ静かに耳を傾けてくれたのだった。
「……柊吾さんは、本当によく頑張っていると思いますよ」
瑞樹が眼鏡の奥で目を細め、低く穏やかな声でそう言ってくれた時、柊吾の胸の奥で何かが解けていく音がした。
コメント
1件
かんなさん、お疲れさまです。今回は介護申請の現場がとてもリアルで、瑞樹さんの「具体的なエピソードをメモしておく」というアドバイスが、まさに実務のツボを突いてて唸りました。ああいう細かい知恵が、どれだけ柊吾を救ったか。夜のベランダで交わす短い会話も、言葉のやりとり以上に「誰かに聞いてもらえる」という安心感がじんわり伝わってきて、最後の「心が解ける音」にこちらまでホッとしました。本当にいい回でした。