テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
枢空 乃希
ある日。
病室に入ると、君は眠っていた。
でも、いつもと少し違った。
呼吸が浅い。
機械の音が、やけに大きく聞こえる。
『……ちぐ?』
返事はない。
近づいて、手を握る。
冷たい。
でも、まだ、温もりは残っていた。
その時、ふと気づいた。
ベッドの横の棚。
あのノートの隣に、見慣れないものが置いてあった。
──医学書。
開きっぱなしで、付箋だらけで、ところどころに書き込みがある。
「白血病」「寛解」「再発」
難しい言葉が並んでいる。
……ここまでやってたんかよ。
喉が詰まる。
夢、まだ諦めてなかったんやな。
指でそっとページをなぞる。
乱れた字で、小さく書かれていた。
「ちゃんと知りたい」
その一言に、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
そのまま、ノートに手を伸ばす。
少しだけ迷った。
でも──開いた。
そこには、見慣れた字。
『ぷりちゃんへ』
視界が滲む。
『たぶん、これ読んでるってことは、
俺、ちゃんと話せなかったんだと思う。』
ページをめくる手が震える。
『ほんとはさ』
『…めっちゃ怖い。』
息が詰まる。
『死ぬこともなんだけど、
それよりも、ぷりちゃんが居なくなることの方が怖い。』
『俺ね、ずっと、一人で頑張るのが普通だと思ってた。』
『でもね』
『ぷりちゃんといたら、それ、どうでもよくなったんだ。』
涙が、ぽたっと落ちる。
『あの時、抱きついてくれたでしょ。
あれ、ほんとはめっちゃ嬉しかったの。』
『優しくするなって言ったけど、
ほんとは、もっとしてほしかった。』
ページの端を強く掴む。
『俺がもし、だめになっても』
呼吸が止まりそうになる。
『泣かないで、とは言わない。』
『でもね』
『忘れないで欲しい。
俺がちゃんと、ぷりちゃんといたってこと。』
涙で文字が歪む。
『あと、』
少しだけ、文字が乱れていた。
『医者なるって夢、途中で投げるの、悔しいから』
『代わりに、とかじゃなくていいの。』
『ただ、誰かの隣に居れる人でいてほしい』
視線が止まる。
隣に居れる人。
──それって、俺やったやんか。
『俺なんかの隣に、居てくれたみたいに。』
最後の一行。
『ありがとう』
『ほんとに、大好き。』
ページの最後に、もう一つだけ、小さく書き足されていた。
『あとさ』
『ぷりちゃん、絶対、ちゃんと笑ってよ?』
ぐっと歯を食いしばる。
……無理やろ、そんなん。
でも。
それでも。
俺は、医学書をもう一度見た。
付箋だらけのページ。
必死に生きようとした跡。
ノートを閉じる。
そして、小さく呟いた。
『……知るわ』
『ちゃんと、知る』
何をかは、まだ分からない。
でも、
逃げるのは違う気がした。
コメント
14件
ありがとう、これを書いてくれて、まじで泣きそうなった
え、もう感動したんだけど😭 一気見しちゃいました!
この作品には多分初コメです!今回も最高でした!更新ありがとうございます😊