テラーノベル
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気づけば、手が震えていた。
ノートを閉じることもできず、
ただ、ページを開いたまま、俯いていた。
『……ちぐ、』
名前を呼ぶ。
返事は、ない。
ゆっくり顔を上げる。
そこには、変わらない顔で眠る君がいた。
でも──
もう分かってしまった。
点滴の音が、止まっている。
機械の音も、もう、鳴っていない。
『……うそやろ』
一歩、近づく。
もう一度、手を握る。
さっきより、少しだけ冷たい。
『……おい』
『ちぐ』
『起きろや』
声が、崩れる。
それでも。
もう一度、強く握る。
誰に向けた言葉かも分からない。
『逃げへんから』
喉が震える。
『お前が知ろうとしてたこと、
ちゃんと、俺も知る』
涙が落ちる。
止まらない。
『……隣、おるって、言ったやろ』
その時。
君の手を、ゆっくりと胸に引き寄せた。
冷たいはずなのに、
どこか、あの時の温もりが残っている気がした。
どれくらい泣いたか、分からない。
看護師さんが来て、何かを言っていた気がする。
でも、何も聞こえなかった。
ただ──
最後まで、手を離さなかった。
春。
桜が咲いていた。
あの日と同じように。
俺は、あのノートと、もう一冊の本を持っていた。
あの時、病室にあった医学書。
少しだけ、読み進めた跡がある。
難しい。
正直、全然分からない。
でも。
ページの端には、小さくメモが増えていた。
俺の字で。
「ここ分からん」
「あとで調べる」
「なんでこうなる?」
情けないくらい、初心者の跡。
それでも。
ちゃんと、続いている。
『……ばかやな、ほんま』
小さく笑う。
風が吹いて、桜が舞う。
ノートを胸に当てる。
これは、まだ“渡されてない手紙”。
“渡さなかった”んじゃない。”終わらせたくなかった”んだ。
だからこそ。
『終わらせへんよ』
ぽつりと呟く。
空を見上げる。
『俺、ちゃんと隣におるから』
誰かの。
そして──
君が知ろうとした世界の、隣に。
ゆっくりと、一歩踏み出した。
コメント
8件
感動……
ああもう…読んでて胸がぎゅーってなったよ😭💔 ちぐの手が冷たくなってく描写、ホンマに心臓掴まれたみたいだった… でも「逃げへんから」「隣おるって言ったやろ」って、最後まで手離さなかったとこ、マジで泣ける。 「終わらせへんよ」って呟いて、一歩踏み出すところが尊すぎる…! まだ渡されてない手紙、続きがあるっていう希望を感じさせてくれるラストやった✨ これからも応援しとるよ、菜々さん!!🌸